相続財産の評価 「路線価」否定判決に波紋

ちょっと注目の判決が東京地裁で下されました。
11月19日付の日経新聞の記事です。

相続税 財産評価 判例

概要は相続税の節税対策としてのマンション購入です。
ちょうど18日の当ブログの記事でタイミングが良いのか悪いのか不動産購入(建築)による相続税の節税効果のお話しをしましたが、ある意味それが真っ向から否定された判決です。
(「借り入れをすると節税になる?そうではありませんので注意」)

現金を不動産に組み換えることで節税になる仕組みについては重複しますので深くは触れませんが、簡単に言うと1億円の現金は1億円として評価されますが、1億円で不動産を購入(建築)し、さらに人に貸し出すと、不動産の評価はもろもろの評価減の効果で半分程度(あるいはそれ以下)にまで下げることが可能です。
相続税は相続財産の評価額を基準に税額が決まりますので、評価額が下がれば当然相続税額も少なくなります。
そして不動産の節税効果は駅に近い好立地のマンションでの賃貸経営において一層効果的になります。
敷地上に高い建物を建築するマンションは土地の有効利用が図られている分、賃貸経営をする上で収益が大きく上がるため、その分時価も高くなります。
しかし相続税計算上の財産評価において不動産を評価する場合、原則としてその不動産の収益性は考慮されません。
土地は国税庁が定める「路線価」に面積を乗じた金額(形状等による補正はあります)で評価されますが、路線価はそもそも時価よりも安い金額で設定されているものですし、立地によって金額の高い安いはありますが、市場価格程のダイナミックな格差はありません。
結果的に駅前好立地の土地で高収益が見込める土地であれば、市場価格と路線価の乖離差が数倍以上ということが珍しくなくなってくるわけです。
(そしてそれを他人に貸し出したりすることで更に評価額を下げることが可能になります)

一方、建物はより画一的な評価となります。
すなわち建物の相続税計算上の評価額は「固定資産税評価額」となり、立地や収益性は全く反映されません。
駅前にあるマンションも駅から20分離れたところにあるマンションも、構造や大きさ、築年数等が同じ条件であれば基本的には同じ評価額となりますし、同じ一棟の建物であれば原則として1階のお部屋も最上階のお部屋も角部屋も同じ広さであれば同じ評価額となります。(近年はタワーマンション等で価格差の著しい上層階と低層階では固定資産税評価額に差をつけるようになりましたが、それでも市場価格程の差はありません)

なぜ不動産の評価においてこのようなことが認められているのかと言えば、それは相続税の申告方法に理由があります。
相続税の課税は相続人が自ら計算して申告する「申告納税制度」を採っていますが、一般の方が相続した不動産の価値を正確に評価することは難しいですし、評価する人のある意味勝手な判断で評価額が変わってしまうようでは課税の公平性が保てません。
そこで路線価制度や固定資産税評価額を用いた画一的な評価方法を採用するに至ったわけですが、このことは法律ではなく国税庁から各税務署への財産評価基本通達というものに定められています。
しかし、この通達は財産評価の指針ではあるものの、何が何でもこの評価方法でなくてはならないということではなく、建前上は他の評価方法が否定されるものではありません。
要するに他にもっと評価額を正確に計算できる方法があればその方法による評価額でも良いとされていて、それが記事中にも書かれている「国税の伝家の宝刀」=特別の事情がある場合には、個別的・例外的な評価方法を認めている、とされる評価額の見直し規定ということになります。

今回の事例では、そもそも相続人は不正をしたわけではなく、「国税庁の通達」に従って路線価と固定資産税評価額で評価をした上で、賃貸貸し出しによる評価減を適用して申告したのだと思います。
その結果、被相続人がマンションを購入した価額(時価)は13億8700万円、それに対し相続税評価額が3億3000万円と、実に評価額を1/4以下に下げることに成功しました。
しかし国税としては、実際には14億からの評価がある不動産を相続しておいて相続税がゼロ(借入金があることで相続税はゼロで申告したそうです)とは何事だということで、自らが採用した路線価方式を敢えて否定し、評価額を市場価格に近い金額で算定し課税をしようとしたところ相続人側と揉めて最終的に裁判に持ち込まれるに至りました。
今回、東京地裁は国税庁の主張を認め、相続人の通達に基づく路線価・固定資産税評価額方式での財産評価を否定しました。
しかし相続人側は上告をしているそうなので最終的な決着が出るのは先ですが、これは不動産による相続税の節税対策を真っ向から否定する判決ですので、今後の相続税対策には影響が出る可能性は否定できません。
少なくとも上位数%の富裕層の方には影響が大きいと思います。

確かに国税の主張は庶民感覚からすると理解できる面は大いにありますが、それでも文中にもある通り国税庁が恣意的に運用を変えられる制度では、納税者はおちおち税金を払ってもいられないというのもまた事実です。
(否定されるだけではなく延滞税なども支払うことになります)
ルールに基づいた節税をしていても、それが劇的な効果を生んだ場合には、国税庁の伝家の宝刀で否定されたのではたまったものではありません。
明確な基準を定めるべきだと思います。(といっても不動産の評価減効果が無くなる方向で改正がなされてしまうと不動産市場にも悪影響があるのですが・・)

 

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