相続が始まったら必ず行うこと

相続手続きには遺産分割協議や相続税の計算を中心に様々な手続きがあります。
そして以下に挙げる内容は、相続人や相続財産の構成に関わらず必ず必要となるもので、これらの作業が終わらない限り相続手続きは一つも進みません。
葬儀などの法要が済んだ後は速やかにこれらの作業に着手することが望ましいといえます。
相続が始まったら必ず行うこと

1.死亡届の提出

死亡届は、医師が発行する「死亡診断書」(事故死などの場合は「死亡検案書」)と合わせて、死亡者の死亡地や本籍地、届出者の居住地の役場に提出します。
提出をするのは、一般的には家族ですが、家族以外の親族や、同居人、家主、後見人などでも可能です。
提出期限は死亡から7日以内となり、相続手続きの中では最も早く履行期限が訪れます。
死亡届の提出は葬儀社が代行してくれることもありますが、届出をしないと火葬許可証がもらえませんので大切な手続きとなります。
提出者は通常は親族ですが、同居人や後見人、かかりつけの医師、家主などの関係者が届出をすることも出来ます。
尚、孤独死や突然死などでは検視等を行う必要があり手続きも多少変わりますが、ここでは説明を割愛します。

2.遺言書の確認

遺言は相続発生後に被相続人の遺志を実現するための法律行為であり、遺言書はその内容を記した書面となります。
遺言では遺産分割の内容などを定めることができ、その内容は原則として相続人による遺産分割協議に優先しますので、相続人は相続が発生したらまず被相続人が遺言を遺していないか確認する必要があります。
遺言には公証人役場で作成した「公正証書遺言」の他、「自筆遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があり、公正証書遺言であれば原本を公証人役場で保管しているので発見も容易ですが、残りの二つの遺言は被相続人自身が保管場所を決めてるため簡単に見つからないこともありえます。
通常は、自宅のタンスや金庫に保管していることが多いですが、顧問税理士等に預けている場合や銀行の貸金庫などに保管していることも珍しくありません。
遺言は相続人がその存在を知らないと発見が遅れたり、改ざんや隠匿といったリスクもありますので、できれば遺言があることは相続人に伝えておいた方が実務上は良いのですが、文書の性格上、生前には公にされていないということが少なくありません。
最近は遺言を残す人が増えていますので、相続人としては遺言があるものと考えて探す必要があります。
また遺言が複数ある場合もあり、その場合には時系列で一番直近に作成されたものが優先されますが、内容が重複していない限りは古い遺言の内容も有効になります。
また公正証書遺言以外の遺言については、遺言の有効性を確認する検認という作業を家庭裁判所に申請する必要があります。
遺言書は勝手に開封してしまうことが禁止されていますのでご注意ください。(過料が課されます)

3.法定相続人の確定

相続財産は遺言等により受取人が指定されている場合を除くと、法定相続人全員による遺産分割協議によって取得者が決まります。
遺産分割協議は法定相続人全員で行わないとその内容が無効になるため、相続人が確定しない限りは有効な遺産分割協議を行うことは出来ません。
(法定相続人とは、民法で定められた遺産を相続する権利のある人を指しています)
法定相続人を確定するためには、被相続人の出生から死亡までの一連の戸籍を収集する必要がありますが、戸籍には現戸籍・除籍・改製原戸籍謄本といった種類があり係累が多い場合にはかなり面倒な作業になります。
通常はいわゆる家族が相続人になることが多いですが、前婚の子供や認知した婚外子、養子など家族が未知の相続人がいないとも限りませんし、遺産分割協議書に基づく被相続人名義の預金の引き出しや名義の変更、不動産登記手続き等を行う際にも、相続人全員の戸籍を添付する必要がありますので、いずれにしても相続人を確定せずに手続きを進めることは出来ません。
被相続人の戸籍を辿って相続人を確定することは相続人自身でもできますが、間違いがあってはいけない作業なので、出来れば司法書士や行政書士といった専門職に依頼をすることが望ましいと言えます。
(具体的な戸籍の辿り方は「戸籍の取得」をご参照ください)

4.相続財産の確定

相続が開始すると、遺産分割協議および相続税計算の対象となる相続財産の確定を行います。
相続財産には現金、預貯金、不動産、有価証券、絵画、ゴルフ会員権、自動車等の動産といったものの他、借地権や生命保険金の解約返戻金の受給権、貸付金の債権、敷金返還請求権といった金銭的価値のある権利も対象となります。
またプラスの財産だけではなく、借入金や未払金、保証債務、預かり敷金といったマイナスの財産もあります。
特に被相続人が事業経営者だったときは、経営していた法人の株式(自社株)も相続財産となるほか、事業に関係する個人的な保証債務や貸付金や借入金といった財産が隠れている場合が少なくありませんので注意が必要です。
会社に顧問税理士がいる場合には必ず内容を確認してください。
また、墓地、仏壇、仏具、神具といった祭祀財産や年金受給権などの被相続人のみに帰属する一身専属の権利は相続財産には含まれません。
相続手続きにおいては、これらの財産の棚卸しを行い財産評価をした上で、遺産分割協議と相続税の計算の二つの手続きを進める必要があります。


ここで取り上げた4つの手続きは、どのようなご家庭の相続でも必ず必要になるものです。
特に死亡届の提出以外は、相続手続きの根幹である「遺産分割協議」と「相続税計算」を進める上で欠かすことのできない手続きです。
遺産分割協議には期限がありませんが、相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月以内となります。
遺産分割協議相続税の申告はそれぞれ異なる手続きですが、相続税の申告には、遺産分割協議が終わっていないと適用が出来ない「配偶者の税額控除」や「小規模宅地等の評価減の特例」といった特例もあります。
10ヶ月という期間は長いようで短いものですので、死亡届を提出し葬儀の法要が終わったら、まずは3つの手続きを出来るだけ時間をかけずに済ませることが重要になります。