不動産の有効活用とは
相続対策における不動産の有効活用とは、遊休かそれに近い状態となっている不動産を活用して収益化を図ると共に、相続税計算上の財産評価額を減らすことが目的となります。
金額的に大きな取り組みであり、長期にわたる採算性を見通す必要がありますので事業化には慎重な判断が求められます。
また相続人が複数いる場合には、土地の収益化と遺産分割対策(遺産分割のしやすさ)は相反することが多いため、不動産の有効活用が遺産分割協議の争いの原因にならないような配慮も必要となります。
1.生前対策であること
不動産の有効活用を考える上で必ず認識しておくべき原則が「生前対策」であるということです。
相続の対策は不動産の有効活用に限らず、遺産分割対策であれ相続税対策であれ相続が発生してしまってからでは行えることはほとんどありません。
(できることは遺産分割の割合を工夫するぐらいです)
要は全ての相続対策は生前に行う必要があると言えるのですが、どの様な対策を取る場合であっても、その対策は本人、つまり不動産の名義人にしか行うことができません。
実質的に不動産の管理をしているのが子供など別の人であっても、契約などの法律行為は本人にしか行うことができないのです。
不動産の有効活用は、建築会社との建築請負契約や事業者との賃貸借契約、金融機関との金銭消費貸借契約(借り入れ契約)など重要な判断能力が求められる法律行為がセットととなることが多く、万が一本人が認知症などを発症してしまい意思判断能力を喪失してしまうと契約そのものが結べなくなり、相続が発生するまでの間何の対策も取れないという事態になりかねません。
最近、「民事信託(家族信託)」という手法が注目され始めていますが、民事信託では本人が意思判断能力を失った後も、財産管理等を委託された受託者が本人に代わって契約行為を行うことが出来、財産のデッドロック(凍結)を防げるという点が今までの相続対策には無い新しい機能を有しているからです。
しかしその民事信託にせよ大本となる信託契約を結ぶのは本人に意思判断能力があるときにしかできません。
不動産の有効活用は「本人が」、「生前」、「元気なうちに」行うということが大原則となります。
2.主な不動産の有効活用
1)土地を貸す(貸宅地/普通借地権)
第三者に建物等を建築することを目的に有償で土地を貸し付けると、借地権という権利が発生します。
土地所有者からすると借地人(借主)から受け取る地代が収益となります。
本来、借地権は借主にとって極めて強い権利で、地代の滞納等を除けば、原則として借主が契約をやめるという意向を表明しない限りは契約が継続するという特徴があります。
その分、土地所有者には非常に強力な使用制約が生じますので、結果として土地の評価額が下がり相続税対策にはなります。
但し、借地契約は土地所有者にとっては半永久的に自己使用が出来ない可能性を意味しますし、それに見合う高い地代をもらうことも現実的には難しいのが実情です。
借地権には何十年も前に契約を結んで現在に至るまで継続している契約は沢山ありますが、新規で普通借地契約を結ぶ例は個人とその同族会社の関係などごく一部に限られます。
2)土地を貸す(貸宅地/定期借地権)
貸したら返ってこない普通借地権とは異なり、定期借地権は契約期間が満了すると必ず土地が返還される借地権ですので土地所有者としては安心して土地を貸すことが出来ます。
近年事業化する借地契約は、圧倒的にこの定期借地契約が多いです。
定期借地契約は契約形態にも拠りますが、最短で10年、最長で50年超となる長い契約で、一般的には大手の法人に対するロードサイド店舗等の事業用途が主流となります。
財産評価の観点からすると、契約開始直後と終了間際では使用制約の割合が異なりますので、土地の評価額も契約期間を通じて変化をします。
細かい考え方は省力しますが、契約当初の土地評価額は小さく、契約末期には自用地評価額に近づいていくことになります。
3)建物を貸す(貸家と貸家建付地)
不動産を購入して人に貸し出したり、自分が所有している土地上に賃貸目的の建物を建築する方法です。
いわゆる大家業で、不動産の有効活用の王道ともいえる手法です。
立地等に応じてアパート・マンションの他、事務所や店舗、倉庫・工場といった用途が検討可能になりますので、その土地における最適用途の見極めが非常に重要となります。
土地所有者(貸主)の収益源は建築(購入)した賃貸物件の賃料収入となりますが、初期投資が大きいことに加え、経営期間中にも様々な管理コストがかかりますので採算性については十分な検討必要になります。
相続税計算における財産評価上は、土地が「貸家建付地(かしやたてつけち)」、建物が「貸家(かしや)」としてそれぞれ一定割合が評価減されます。
4)月極駐車場経営等
土地上に建物を建築せずに賃貸する方法で、借地借家法の制約を受けることなく比較的手軽に使用収益が図れる方法です。
土地所有者(貸主)の収益は土地利用者からの使用料となり、面積当たりの収入の額は建物の賃貸よりも少なくなりますが、建物の賃貸よりも初期投資及び経費も少ないため、比較的ローリスクローリターンの経営が可能になります。
同じ土地の賃貸であっても土地上に建物が無く借地権が発生しないため、相続税計算上の財産評価減はありませんが、相続で賃貸経営を親族が引き継いだ場合には小規模宅地等の評価減の特例の「貸付事業用宅地等」の特例が利用できることがあります。(200㎡まで評価額を50%減出来ます)
現金などと異なり不動産は所有しているだけで維持費や固定資産税等のコストがかかる財産です。
現在はかつての様に右肩上がりでの地価上昇が期待できる時代ではありませんので、基本的には何らかの形で有効活用を図ることが望ましいと言えます。
また相続税の計算上も有効活用を行うことで適用できる節税特例がありますので、有効活用の手法とそれぞれの特性を理解の上、収益化を進めて頂ければと思います。