連帯納付義務
「連帯納付義務」とは耳慣れない言葉ですが、非常に重要な相続税法上の定めです。
相続税が発生する相続では、遺産分割協議が終わると各相続人等は取得した財産の割合に応じて相続税の納付義務を負うことになります。
納付期限は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内とされています。
ところがこの納税義務を履行しない相続人等がいた場合、その納付義務は他の相続人にも及ぶとされています。
これを連帯納付義務と言います。
1.制度の概要
民法では連帯納付義務について以下のように定めています。
要するに国はその相続から生じる相続税を全ての相続人等から徴収できるという仕組みです。
これは相続人等の共同責任、相続税債権の確保、租税回避防止等の観点によるものとされていますが、自らが負担すべき相続税を納付した相続人からするときわめて納得し難い法律と言わざるを得ません。
しかし法律がこう定めている以上、仮に裁判をしようとも勝ち目はありませんので、他の相続人は相続税を納めていない相続人がいる場合には、自分が相続した金額の範囲内で相続税を負担する義務を負います。
他の相続人がいわば立て替え形となる相続税は、本来の納税義務者である相続人に対し立て替えた相続人が別途請求を行うことになります。
2.最悪の事例
連帯納付義務では次のような最悪の事例も起こり得ます。
相続人 :子A・子B・子C(3人)
遺産分割 :子Aが不動産を取得する代わりに、子Aは代償金として子B、子Cに3000万円ずつを支払う。
相続財産が1億円で相続人が3人の場合、基礎控除は4,800万円ですので相続税が課税されます。(税額控除の適用はないものとします)
遺産分割上は、3人の相続人が財産を取得するという内容で遺産分割協議書を作成し税務申告も行います。(子Aは「自宅-代償金」、子B・Cは「代償金」の額を自身の相続財産として申告します)
ところがこの代償金の支払いが何らかの事情で遅れていたとします。
しかも子Aが相続税の納付も行っていなかったとすると、子B、Cはもらってもいない代償金に基づいて自らの納税も行い、更に子Aの分の相続税の支払いまで請求されることになってしまいます。
3.対策
連帯納付義務は法律の定めですので回避する方法はありません。
できることは相続人の中に順法意識の低い相続人や個人的に多額の借金を抱えている相続人がいることが予め分かっている場合には、その相続人等の納税資金を遺産分割時点で預かって他の相続人が代わりに納付する(第三者納付)ことを検討するぐらいしか対策はありません。
そもそも相続人同士の仲が悪く没交渉の関係であれば、被相続人が遺言や生前贈与等により危ない相続人には出来るだけ財産を渡さない方策を検討しておく必要があります。