親からの生前の援助(生前贈与)に差がある

親が子に与えた援助(生前贈与)のうち、通常の扶養義務を超えたものについては「特別受益」と呼ばれ、相続財産に持ち戻して遺産分割協議を行うこととされています。
簡単に言うと生前に多額の財産をもらっている相続人がいる場合には、その分を考慮した遺産分割協議を行わないと不公平であるという法律上の定めです。
(詳しくは「特別受益」をご参照ください)
特別受益には、大学への進学費用や家を建てるときの金銭的な援助、あるいは結婚に際しての支度金等、その家庭の生活状況から見て特別な援助に当たると考えられるものが該当するとされています。
問題はその特別受益を一部の子供だけが受けている場合や、特別受益の存在が明確に確認できない場合です。
親から子供(あるいは孫)に対する偏った援助は、金銭面だけでなく心情的な不公平感となって相続問題をこじらせることがあります。

こんなことが起きるかもしれません

一部の子だけが特別受益を受けている場合は特に遺産分割協議が揉めやすいです。
遺産分割協議には遺産の整理・分配という機能の他に、親から受けた愛情の整理という側面もあるため、
「お兄ちゃんだけいつも特別扱いされてた」とか「末っ子だから甘やかされていた」というような幼少期の愚痴のような話しに始まり、マイホームの購入や子供(親から見た孫)への金銭的な援助のような大きな金額の話しにまで話は膨らみます。
現実問題としてはその様な援助はあげる方も貰う方も大っぴらにすることは少ないため、時期や金額の具体的な内容の記憶や記録があいまいなことが多く、援助を受けた相続人と受けていない相続人の間で認識が大きく異なることが珍しくありません。
相続の実務においては、各相続人が特別受益の有無について各々主張を始めてしまうと円満な遺産分割協議にはならない可能性が高くなります。

対策

1)親がきちんと記録を残しておく

親が子供に対して行う援助は、親自身の経済状況や気持ちに左右される以上、その時々の事情によって一律でないのが当然です。
問題はその援助がどういうものだったかが子同士で共通認識となっていないことにあります。
本来は援助をした親がきちんと金額や時期、あるいは主旨を話しておくか記録しておくことが望ましい姿と言えます。

2)遺言

遺言で財産の受取人を指定する場合でもその点に触れることが大切です。
遺言では付言といって、法律的な効果はないものの相続人たちに対して想いを残すことが出来ます。
「長男〇〇には生前これだけの援助をしたから、相続の時には他の相続人に多めに財産を残します」とか「経済的に苦しいときと重なり次男〇〇には他の子供よりも援助ができなくて申し訳なかった」という様な言葉があることで、相続人である子供たちが気持ちの折り合いをつけられる可能性が高くなります。

3)特別受益の持ち戻し免除

心の折り合いとは真逆の考え方ですが、遺言で生前の特別受益は相続財産に持ち戻さないと取り決めることも可能です。
その場合の遺産分割協議は特別受益を対象とせずに行うことになります。
但し、ただでさえ揉めやすい特別受益の持ち戻しを免除することで、遺産分割協議はさらに難航する可能性が高くなります。
遺言で特別受益の持ち戻し免除をするのであれば、他の相続財産についても遺産分割の指定により誰がどの財産を取得するのかを決めておくことが必要です。
尚、相続人の最低限の取り分である遺留分の計算は特別受益を含んだ相続財産を基礎として計算をしますが、遺留分の計算においては特別受益の持ち戻し免除の指定はできません。
特別受益の持ち戻し免除をする場合には、遺留分の侵害を避ける配慮が特に必要となります。
親に確固たる意志がある場合には、この方法で特別受益の取り扱いに関する争いを回避することが可能ですが、心情的なわだかまりは大きくなるかもしれません。