相続不動産にかかわる税金
不動産と税金は切っても切れない密接な関係がありますが、これは相続に絡む不動産であっても同様です。
相続税、贈与税はもとより、不動産を売却した際の譲渡所得税は、換価分割や遺産分割後に相続財産を売却する際に最も重要になる税金です。
相続税を含む不動産の税体系は、制度においても実務においても非常に複雑な面があり、一般の方はもとより不動産業者など相続に関係する専門家でも実務にまで精通している人はほとんどいないと思われます。
いうまでもなく個別事案については税務専門家への相談が必須となりますが、それでも各種税制がどのように構成されているのかを知っておくことは大事なことですので、本項では大きな括りというレベルでご説明をさせて頂きたいと思います。
(そもそも税務職員、税理士以外の人が税金に関して個別具体的な相談に応じることは法律で禁じられています)
1.相続税と贈与税
相続税が相続が起きた後に課税される税金なのに対し、贈与税は相続前に行われた生前贈与に課税される税金です。
どちらも本人が所有している財産が別の人に移転したときに課税がなされるという点では共通しており、事実、贈与税は相続税を補完する位置づけの税金として両者は密接に関係しています。
もとより相続税も贈与税も不動産だけを対象とした税金ではなく、相続財産全体あるいは贈与財産全体に対して課税される税金ではありますが、不動産は価値の大きな財産であることが多く、相続税や贈与税における影響も大きいことから様々な特例が設けられています。
1)相続税
相続発生時に相続または遺贈により財産を取得した人に課税される税金です。
全ての相続財産を一定のルールに基づき財産評価し、その合計額から基礎控除を差し引いた残額が相続税の対象となります。
但し、配偶者やその他一定の相続人等には税額控除も認められており、結果的に税額が減額あるいはゼロになることもあります。
(詳しくは「相続税の計算」をご参照ください。)
<相続税と不動産の関係>
①資産の組み換え
相続財産としての不動産は時価(市場価格)と比べ評価額が低くなるため、不動産を建築したり新たに購入するなど、現金から不動産へ資産を組み換えることで相続税の節税対策へと繋がります。
②不動作の貸し付け
不動産を他人に有償で貸し付けると評価が下がります。土地を貸し付けた場合には「貸宅地」、建物を貸し付けた場合には「貸家」と「貸家建付地」という評価になり、これらは不動産を活用した相続税の節税対策としてよく用いられる手法です。
③小規模宅地等の評価減の特例
被相続人が所有していた自宅あるいは事業用の宅地等(建物の敷地)を、一定の相続人が相続したときに財産評価額が大幅に減額できる特例があります。
(詳しくは「小規模宅地等の評価減の特例」をご参照ください)
④広大地
2017年12月31日までに発生した相続において、3大都市圏で500㎡を超える宅地を相続した場合に、土地の最有効使用用途が一戸建て住宅だと判断される場合には、土地の相続税評価額の大幅な減額が認められる制度です。
広い土地で一戸建て住宅を分譲(あるいは賃貸)しようとする場合には、公衆用道路など一定の公共施設が必要になり、その分土地の減価が認められるというものです。
既に制度は廃止されていますが、広大地の申告は相続開始から5年10ヶ月の間できますので、2017年中までに発生した相続においては申告が可能な方がいらっしゃいます。(2023年までは対象となる方はいることになります)
⑤その他
・農地の納税猶予制度
農地の相続人に対して一定要件のもと相続税の納税を猶予する制度です。
・物納
相続税を現金以外の財産で納付する制度です。不動産も物納財産となりますが、近年は物納が認められる要件は非常に厳しくなっています。
2)贈与税
贈与税は相続税の補完税という位置づけとなり、生前贈与された財産の受贈者に対し課税がなされます。
生前贈与により相続財産を意図的に減らして相続税逃れが行わないよう、贈与税には高い累進税率が設定されている一方で、景気対策として祖父・親世代から子・孫世代への資産の移転を促すため、目的や対象者を絞った非課税や税額軽減(あるいは先送り)の特例が設けられています。
また受贈者一人あたり年間の基礎控除110万円があるため、この枠内で毎年贈与を続けている限りにおいては基本的に贈与税は課税されず、結果としてもっとも確実でコストのかからない相続税対策(相続財産の圧縮)となります。
(詳しくは「贈与税と生前贈与」をご参照ください。)
<贈与税と不動産の関係>
①住宅取得等資金の贈与
20歳以上の子が親や祖父母から一定の要件を満たす住宅の新築、取得、増改築等の資金を受け取る場合の贈与税の非課税制度があります。
但し、受贈者の所得が2000万円を超える場合には適用できません。
(詳しくは「住宅取得等資金の贈与」をご参照ください)
②相続時精算課税制度の住宅取得等のための資金の贈与
一定要件を満たす住宅の新築、取得、増改築等の資金を、相続時精算課税制度によって贈与することが出来ます。(その場合、贈与する直系尊属の年齢要件が無くなります)
「住宅取得等資金の贈与」と併用可能で、住宅取得等資金の贈与の非課税額を超えた金額は相続時精算課税制度によって贈与を行います。
(詳しくは「相続時精算課税制度」をご参照ください)
③配偶者への居住用財産の贈与(おしどり贈与)
婚姻期間20年以上の夫婦間で、婚姻期間中1回だけ行えるマイホームあるいはその取得資金の贈与です。
評価額2000万円までの贈与税が非課税となります。(税務署へは翌年申告)
(詳しくは「相続税と生前贈与」をご参照ください)
④低額贈与・債務免除等
親族間売買などで、不動産などを時価よりも不当に安く購入した場合には、時価との差額が贈与と見なされ、贈与税が課税されます。
これ以外にも、無利息での長期借り入れや債務免除なども、具体的な事例ごとに判断され贈与認定がなされることがあります。
2.不動産の譲渡所得税
不動産を譲渡した時の利益(=譲渡所得)に対して課税される所得税を指します。
(不動産譲渡に関わる所得税であり、本来は不動産譲渡所得税という名称の税金はありませんが、便宜的に使用しています)
不動産の譲渡益に対する所得税は分離課税とされているため、他の所得と損益通算ができません。
また譲渡をした人(所得が発生した人)が自ら申告して納税する必要のある、「申告納税制度」が採用されており、給与所得など源泉徴収が行われる税金とは異なります。
不動産譲渡所得税は所有期間や譲渡する不動産の種類によって税率や利用できる控除等が細かく決められていますので、適用の可否が税額に大きく影響しますので注意が必要です。
(詳しくは次項「不動産の譲渡所得税」をご参照ください)
3.その他の税金
1)不動産取得税
不動産にかかわる税金は売却や贈与をした時だけでなく、不動産を新築、増築あるいは購入した際にもかかります。
相続手続きにおいては、節税対策で建物を建築したり、所有している不動産を売却してほかの不動産を購入するといった資産の組み換えなど、不動産の建築や売却・購入を検討する場面が多くあります。
その様な場合に「不動産の取得」に対して課税される税金が「不動産取得税」です。
税額は、固定遺産税評価額に4%を乗じるのが本則ですが、「税率の軽減(4→3%)」の他、土地の課税標準の減額「宅地評価土地の評価額1/2」や「住宅に関して課税標準からの減額」といった特例が設けられています。
不動産取得税は、不動産取引におけるコストとしては比較的大きなウエイトを占めますので、相続対策を行う際には経費として必ず見込んでおく必要があります。
尚、不動産取得税は、相続で不動産を取得した場合には課税されませんが、贈与によって取得した場合には課税がなされます。
受贈者は贈与税以外にも不動産取得税を収まる必要があるという転移はご注意ください。
実際の納税は不動産の取得から2カ月前後のタイミングで、都道府県から納税通知書が届きますので、その内容に従って納付し自ら計算をする必要はありません。
2)固定資産税
固定資産税は不動産等を所有している期間中において毎年税される税金です。
固定資産税評価額に対する本則の税率は1.4%となりますが、市町村によって異なる場合もあり、住宅用地の評価額の軽減などの特例が定められています。
また都市計画区域内にある不動産については税率0.3%の都市計画税が課税されます。(住宅用地については軽減あり)
固定資産税は、その不動産の1月1日時点の所有者に課税がなされますので、年中に所有者が変わった場合でも、その年の納税義務者は変わりません。(実務上は所有権移転日に合わせ精算をします)。
納税は、毎年5月頃に市町村から納税通知書が届きますので、その内容に従って納付します。
「不動産」と「相続・贈与」と「税金」は密接な関係にあり、その内容を体系的に理解をすることは、中々難しいのが実情です。
大きな括りで言えば、相続時の相続財産に対する相続税、生前の贈与に対して課税される贈与税、不動産を譲渡した際の利益(所得)に課税される譲渡所得税の3税が中心となりますが、それぞれが独立して税税が構成されているのではなく、例えば相続税と贈与税であれば「相続時精算課税制度」や「相続開始前3年以内贈与の持ち戻し」などが両方の税制に関係しますし、相続税と譲渡所得税の関係で言えば「相続税の取得費加算」や「相続財産の取得時期・取得費の引継ぎ」などは相続の内容を理解した上で、譲渡所得税を計算する仕組みです。
もちろんこれらをすべて理解する必要はなく、どんな時にどのような税金がかかるのかということだけでも理解しておけば、具体的な事案を専門家に相談する場合でも要領がよく行うことが可能になります。
全体像を理解しておくというスタンスが最も適当だと思います。