不動産を現物分割する時の注意点

現物分割は相続財産を構成する個々の財産を、そのままの状態で相続人間で分ける方法です。
相続財産は現金や不動産など種類も価格も異なりますが、それらの要素をすべて加味した上で誰がどの財産を取得するかを決めていく方法となります。
特に不動産は、価格が大きく物理的に分割することが難しい財産ですので、現物分割においては誰が相続するのかを十分話し合う必要があります。

現物分割する時の注意点

1.現物分割のメリットとデメリット

<メリット>

  1. 財産を今ある状態のままシンプルに相続できるので、相続財産が無くなることなく、そのまま次世代へ引き継げます
  2. 相続人間でお金のやり取りが発生しません
  3. 税務申告以外の手続きは原則として名義変更だけで、代償金の支払いなどの精算手続きはありません

 
<デメリット>

  1. 財産の取得割合が不公平になりやすいです
  2. 財産の取得割合が不公平になりやすいため、まとまった場合でも不満が残りやすいです

現物分割は、同等の価値の相続財産が複数あり、相続人が各相続財産を公平に取得できるなど遺産分割が円満に折り合いがつく場合に適した遺産分割方法です。
逆に相続財産が突出して価値の高い不動産だけという場合などには、遺産分割協議がまとまりづらく、またまとまった場合でも相続人間でわだかまりが残ることがあります。

2.遺産分割協議書の作成

どの様な遺産分割方法であれ相続人が複数いる場合には遺産分割協議書の取り交わしが必要です(印鑑証明書添付の上、実印による署名捺印が基本です)。
現物分割では遺産分割協議書に誰がどの財産を取得するかを記載しますが、相続財産に不動産がある場合には、対象となる不動産を特定するために登記簿の表示に従って不動産の記載をする必要があります。
登記簿とは人間でいう所の戸籍のような役割をしているもので、土地と建物それぞれに分けて作成されています。
登記簿には土地には地番、建物には家屋番号というその不動産固有の番号が付けられており、この番号によって不動産を特定することができます。
(万が一土地や建物が登記されていない場合には別の手続きが必要になります)
気を付けなくてはいけないのは不動産の所在地で、私たちが日常生活で利用する住居表示は登記上の所在地とは異なるため遺産分割協議書における不動産の特定には利用できません。(地番と住居表示が一致している場合もあります)

3.複数の不動産を現物分割する場合

相続財産に複数の不動産がある場合には、A不動産は誰、B不動産は誰という様に不動産ごとに相続する人を決めることができます。
価格をはじめとする総合的な価値が均等にならないとまとまりづらいですが、相続人同士が納得できれば一番シンプルに分割が可能になります。
区分所有マンションの部屋のように最初から所有権の範囲が明確に分かれている不動産の場合にも利用しやすい方法です。

4.1つの不動産を現物分割する場合

1)土地

広い土地などを複数の相続人で相続する場合は、そのままでは遺産分割できませんので、土地であれば敷地を地積測量して分筆という登記上の区分(地番という土地を表す番号で区分します)を行った上で、相続する人を決めます。
その結果、〇〇番の土地を分筆して〇〇番-1の土地をAが相続し、〇〇番-2の土地をBが相続するという様な遺産分割が可能になります。
土地の地番は登記上の区分なので実際の土地の利用状況とは必ずしも一致しませんが、遺産分割をする上では、出来るだけ実際の利用状況と土地の区分(地番)は合わせたほうが後々のトラブルを回避できます。
また見かけ上は一体の土地であっても、最初から地番が分かれていれば分筆の必要はなくそのまま遺産分割が出来ることもあります。

現物分割する時の注意点

尚、遺産分割を行うにあたり、土地を分割することが土地の利用価値という観点で得策なのかどうかは十分に吟味する必要があります。
土地を分割することで利用に適した形状や面積でなくなってしまう可能性があるときには無理に分割することは避ける方が得策です。

現物分割する時の注意点

2)建物

建物の場合は分譲マンションのように区分所有権として構造上、利用上の独立性が明確で、登記も分かれている場合以外は、一つの建物を分割しての遺産分割することは実質的に不可能です。

5.共有

ひとつの財産を複数人で持ち分で所有することを共有と言いますが、共有による遺産分割も一種の現物分割といえます。
不動産は遺産分割がしづらい財産なので、取りあえず持ち分だけを合意して共有で所有しようというやり方です。
遺産分割を波風を立てずに終わらせやすいので、実務上は非常に多い遺産分割方法なのですが、その後不動産を売却や大規模修繕などをしようとする時には、共有者全員の合意が必要となるため、結果的として収拾がつかなくなるリスクがあります。
換価分割の様に最初から全員が売却することに合意している場合などを除けば、共有は問題の先送りという側面が強い遺産分割方法ですので、通常は避けるべき分割方法とされています。

6.借地権の取り扱い

借地権は地主から土地を有償で借り、その土地上に建物を建てることができる権利で、相続財産として遺産分割の対象になります。
基本的に借地権上には建物が建っていますので、その建物を相続する人にとっては借地権を併せて相続することは非常に重要です。
借地を相続する場合には、借地権特有の契約や商慣習について十分理解をしておくことが大切です。

<借地の特徴>

  1. 借地契約期間中は地主に対して地代の支払いが発生します
  2. 借地上の建物の建て替え、増改築、用途変更(木造建物から鉄骨建物への変更)などは全て地主の承諾が必要で、原則としてと承諾料の支払いが伴います。地主の承諾が得られない時には裁判所から代諾(地主に変わる許可)を得ることが可能ですが、金融機関からの借り入れがしづらくなるといった不都合が生じることがあります。
  3. 契約満了時には更新が出来るのが原則ですが、更新料の支払いが必要になることが多く、時に数百万円単位になることもあります。(定期借地権を除きます)

本来、借地権の譲渡は地主の承諾事項で、承諾料の支払いが発生することが多いのですが、相続で借地権を譲渡する場合には承諾は不要となります。
但し、あまりない例ですが、借地権を分割して複数の相続人が相続する場合には地主の承諾が必要となりますのでご注意ください。


不動産は金額的な価値の大きさから現物分割をすると取得した相続人の相続分が他の相続人よりも多くなってしまうことがよくあります。
不動産が原因で現物分割による遺産分割の折り合いがつかないことは多く、その場合には代償分割や換価分割など、金銭的な公平感が保ちやすい方法の活用(あるいは併用)を検討する必要があります。
一方で、田舎の実家など売るに売れず、相続人としても誰も相続したがらないというケースも少なくありません。
その場合にはやむを得ず共有するという選択肢も検討せざるを得なくなります。