相続におけるトラブル不動産とは
相続における不動産は「分割のしづらさ」や「流動性の低さ」という理由から現金などの財産よりも取り扱いが難しいのが一般的です。
そんな不動産の中には、さらに問題を抱えている不動産も存在します。
不動産の価値にかかわる内容が多いので、当然遺産分割協議にも影響しますし、相続後に売却を図ろうとする場合にも影響が出ます。
相続する予定の不動産あるいは相続した不動産が以下の内容に該当するかどうかを確認するとともに、もし該当している場合には対策が取れることについては早めに対応することが望ましいと言えます。
1.前の相続手続きが終わっていない
例えば自分の父が住んでいる自宅の土地名義が、既に亡くなられた祖父のままであるというような場合があります。
既に遺産分割協議は済んでいて単に登記手続きを行っていないだけの場合と、相続手続きそのものが行われていない場合があります。
前者であれば登記手続きをすることで真正な所有者名義に変えることができますが、その場合でも相続人全員の印鑑証明書が揃っていなければ改めて用意する必要があり、当時の相続人が死亡している場合にはその相続人の方に協力を仰ぐことになります。
万が一、協力が得られなかったり、連絡先が分からないなどという事態になればスムーズな手続きが行えない可能性が高くなります。
後者の場合はさらに問題があり、祖父の相続が発生した時点に遡り遺産分割手続きを行う必要があります。
祖父の相続発生時の相続人は、祖母(祖父の配偶者)や父の祖父母(祖父の両親)、あるいは父の兄弟姉妹(父を含む祖父の子)かもしれません。
いずれにしても戸籍を辿り当時の相続人を調べる必要がありますが、連絡先が分からなかったり、祖父の相続の後に新たな相続が起きていることが分かることもあります。
そうなると家庭裁判所に代理人を選任してもらう手続きをとったり、新しい相続の相続人と遺産分割協議を行うことになり、簡単な手続きで終わることはありません。
正しい登記名義人でない不動産は第三者に対し所有権を主張できないケースや、売却、抵当権の設定などに支障が出ます。
2.土地の境界が確定していない
一見隣地と塀などで区切られている土地であっても、境界を示す境界標が無かったり、そもそも隣地所有者と境界確定が出来てないケースは珍しくありません。
境界が未確定ということは地積の測量を行ってもそれが確定的なものとは言えませんので、将来的には境界紛争が起きる恐れがあります。
また売却をしようとする時にも、隣地所有者との間で境界を確認しあった確定測量図が無いと売れ行きや価格に少なからず悪影響があります。
3.書類が揃っていない
不動産には真正な所有者であることを証明する「権利証(あるいは登記識別情報)」が必ずありますが、この書類は万が一紛失をした場合でも再発行ができません。
また土地であれば隣地との境界が確定していることがわかる「確定測量図」、建物であれば建築時に適正に建物が建てられたことの証明になる「検査済証」、設計会社が構造や設備等を記した「竣工図書類」などは、将来その不動産を売却しようとした時や、紛争が発生したときに必要になる書類です。
原則として不動産に係る書類は多いに越したことがありませんが、これらの書類は特に重要とされるものですので、予め揃っているのかを確認しておいた方がよいと思われます。
(これらの書類が無いからといって、将来売却ができないということではありませんが、余計なコストがかかったり売却価格が下がる可能性があります)
4.抵当権がついている
不動産は価値が高いので借り入れの担保になりやすい財産です。
売却を検討している相続不動産に抵当権が設定されている場合には、抵当権を外さないと売却が出来ません。
抵当権者は債務を返済しない限り抵当権は外してくれませんので、売却代金の中から返済が出来るのであれば問題はありませんが、複数の金融機関等が抵当権を設定している場合には、全員の了解を得る必要があり話しが難航する恐れもあります。
稀に抵当権が第三者の保証のために設定されている場合もあります。
この場合は第三者の返済事情次第で不動産が競売にかけられたりする恐れがありますので、早急な事実確認が必要です。
また余談になりますが、被相続人の債務の担保として抵当権がついている場合には、不動産を相続する相続人が債務を引き受けるのが一般的ですが、これは債権者(金融機関等)の承認が必要となる事項です。
法律上はすべての相続人が法定相続分に応じて債務を負担することになっていますので、債権者の同意が得られない場合には、不動産を相続していなくても債務は引き継いでいるという認識が必要です。
5.他人の権利が付着している
相続不動産に抵当権以外の第三者の使用収益権が設定されている場合もあります。
土地であれば借地権、建物であれば賃借権などが代表的ですが、空中を送電線が走っていてその地役権が設定されている場合などもあります。
またこれらの権利は正当な対価を得ているものばかりとは限らず、囲繞地(いにょうち)通行権など無償で他人が土地を通行する権利を負担していたり、地中に第三者の水道管やガス管が埋まっていたりすることもあります。
いずれも第三者の利用権利により、所有者の自由な利用が制限されてしまうものです。
多くの場合は土地所有者や近隣住民への聞き取りや役所調査で判明するものですが、契約書等の記録が残っていない場合が珍しくありません。
この様な権利により不動産そのものの価値が下がってしまうことがあるので注意が必要です。
6.建物が建たない
土地上に建物を建築するためには、建築基準法などの諸法令に合致している必要があります。
市街化調整区域にある農地や道路に2m以上接していない土地などは原則として建物を建てることはできません。
土地は有効活用ができることで価値があるとも言えますので、建物を建てることのできない土地は価値が激減してしまいます。
中には一見何の変哲の無いように見える土地が、実は建物を建てることのできない土地に該当しているという事例もありますので、役所等での調査は必須です。
7.有効活用できない
土地や建物を財産と考えると、有効活用されることにその価値があると言えます。
最適な利用用途が無い土地や、老朽化が進み通常の使用に耐えない建物などは不動産としての本質的な価値に問題があります。
社会問題化している相続における空き家問題(引き取り手がいない空き家)もこの一種に該当していると言えます。
8.土壌汚染・自然災害等のリスク
土地や建物が過去に土壌汚染を引き起こす恐れのある工場に使われていたり、過去に浸水等の被害が発生している土地などは、今後の利用に差し支える恐れがあります。
土壌の入れ替えや床上げなど、余計なコストがかかる場合があります。
9.近隣問題(トラブル住民・嫌悪施設等)
不動産そのものではなく、周辺の環境に問題があることもあります。
隣の家がごみ屋敷になっていたり、一般に嫌悪施設と呼ばれる用途に利用されている土地や建物が近くにある場合は不動産の価値に影響があります。
ここで取り上げた事柄は遺産分割だけでなく、売却を試みる際にも影響を与えます。
またこれらのトラブルは、現時点では表面化していないというケースが少なくなく、いざ売却の必要に迫られたときなどに顕在化することが少なくありません。
出来ればあらかじめ調査・確認をしておければ言うことはありません。
これらの内容は不動産業者の調査業務の範疇に属するものが多く、事前に調査を依頼することも可能です。
不動産が絡む相続手続きにおいては信頼できる不動産業者との関係構築が欠かせないものとお考え下さい。