相続財産とは
相続が発生すると被相続人が生前に所有していた財産や権利義務は一部を除きすべて相続財産となります。
相続手続きにおいては、相続財産が確定しないことには遺産分割協議も相続税の計算も行うことが出来ませんので、相続財産を確定することは、「遺言書の有無の確認」と「相続人の確定」と並んで相続手続きにおける最重要な作業となります。
1.相続財産の種類
一口に相続財産と言っても色々な種類があります。
遺産分割の観点で言うと、遺産分割協議の対象になる財産とならない財産がありますし、相続税の計算においても金銭的な価値を持っていても相続税計算の対象にならない財産があります。
また金銭的な価値を持つ「モノ」として具体的に存在する財産もあれば、目に見えない権利として存在する財産もあります。
更に金銭的な価値がプラスの財産もあればマイナスの財産もありますし、相続人に引き継がれない財産もあります。
<主な相続財産の種類>
財産の分類 | 財産の種類 | 遺産分割協議 の対照 |
相続税 の課税対象 |
金融資産 | 現金 | 〇 | 〇 |
預貯金・小切手 | |||
有価証券等 | |||
生命保険契約の権利(解約返戻金相当額) (※1) |
|||
私的年金の受給権(※2) | |||
貸付金 | |||
自社株(自営業者) | |||
被相続人が受け取ることが決まっていた損害賠償金 | |||
不動産 | 土地 | 〇 | 〇 |
建物 | |||
借地権・地上権・不動産賃借権等 | |||
動産等 | 自動車・絵画・宝石・骨とう品・ゴルフ会員権・家財道具等 | 〇 | 〇 |
債務(※3) | 借入金 (団信で完済できる住宅ローンは含みません) |
△ (※4) |
〇 |
未払いの税金や医療費 | |||
預かり敷金 | |||
弁済が確定した保証債務 | |||
葬式費用 | |||
みなし相続財産(※5) | 生命保険金 | × | 〇 |
死亡退職金 | |||
生前贈与財産 | 特別受益(相続開始前3年以内) | 〇 | 〇 |
特別受益(相続開始前3年超以前) | 〇 | × | |
相続開始前3年以内の贈与 (特別受益に該当しない) |
× | 〇 | |
相続時精算課税制度による生前贈与(※6) | 〇 | 〇 | |
非課税財産 | 祭祀財産 (墓地・墓石・仏壇・仏像・神棚・庭内神し) |
× | × |
生命保険金・死亡退職金の非課税額(※7) 500万円 × 法定相続人の数 |
× | - | |
損害賠償金(※8) | × | - | |
その他 | 契約者の地位等 | 〇 | × |
※1
被相続人=契約者≠被保険者の契約の場合。被保険者=契約者=被保険者の場合は死亡保険金が「みなし相続財産」になります
※2
被相続人が受給していた私的年金の他、受給開始前の私的年金も含みます
※3
債務はマイナスの財産なのでプラスの財産から差し引くことが出来ます
※4
債務についても遺産分割はできますが、債権者に対してはその内容を主張出来ません(債権者の了解が必要です)。
※5
みなし相続財産は本来は相続財産ではないものの、相続税の計算上相続財産として取り扱う財産となります。(「みなし相続財産」についてはこちらをごご参照下さい)
※6
相続時精算課税制度で贈与された財産は、特別受益に該当します。(「相続時精算課税制度」についてはこちらをご参照ください)
※7
死亡保険金、死亡退職金の非課税は受取人が相続人の場合に限ります
※8
被相続人の死亡により生じた損害賠償金は遺族に対する精神的苦痛の補償となり相続財産にはなりません。税務上は遺族に対する所得税の対象になりますが実務上は非課税になる可能性が高いです
2.相続人に引き継がれない財産
相続においては、被相続人の一身専属の権利は相続人に引き継がれません。
具体的には以下の財産が該当します。
- 使用貸借権
- 雇用契約
- 生活保護費の受給権
- 民事(家族)信託の受託者の地位など
<死亡直前の公的年金-未支給年金>
公的年金は毎年偶数月の15日に前月と前々月分が支払われる後払いなので、年金受給者が亡くなると必ず未受給分が発生します
(例えば6月に死亡の場合、4・5月分が未支給になります)
未受給の年金は遺族に支払われますが、これは相続財産ではなく配偶者や子など受け取った遺族の固有の財産(所得)となります。
尚、公的年金の受取人が死亡した場合には速やかに年金事務所に「年金受給者死亡届」を提出して受給を停止する必要があります。
相続手続きにおいては相続財産の確定した上で、財産評価を行います。
財産評価とは相続財産を金銭的価値に換算する作業です。
相続手続きは相続財産の種類と評価額が分かって初めて遺産分割協議や相続税の計算という手続きに進むことができますので、相続財産の確定は極めて重要な作業となります。
しかし現実には現物の見えづらい財産(インターネットでの証券取引等)や田舎の土地の共有持ち分、個人的な貸付金や借入金(特に被相続人が事業者だった場合には貸付金や売掛金、保証債務などを疑う必要があります)など相続人の立場では存在を把握することが難しい財産もあります。
本来は被相続人が財産目録を残してくれていれば良いのですが、そうでない場合には相続人自らが調査をしなくてはなりません。
不動産であれば固定資産税の納税通知書、預貯金であれば通帳以外にも金融機関からのお知らせやカレンダー等を手掛かりして調べますし、それ以外にもタンスの中や日記帳の記述、社名入りノベルティグッズやティッシュまでを丹念に調べて財産を探す必要があります。
またそうした作業にもかかわらず、財産探しに漏れがあった場合には、遺産分割協議や相続税申告がやり直しになる可能性もあり非常に手間がかかります。
被相続人の生前の生活から推測して、ある程度の資産規模や財産種類が見込まれる場合には弁護士、税理士等の専門職の手を借りて職権で財産調査を依頼することも検討する必要があります。