戸籍の取得

前ページで、私の家族関係図と父が被相続人になった場合の相続人の関係を確認しました。
しかし相続人を正式に確定するためには、単に「自分がそう認識している」というだけでは不十分で、公的書類により相続人を法律的に確定する必要があります。
これは金融機関での名義変更や不動産登記の手続きでも必ず必要になる手続きです。
そして相続人が確定すると、その相続人が相続放棄をした場合や、相続欠格あるいは廃除に該当して相続権を失わない限りは、その全員が遺産分割協議の当事者となります。
このページでは私が実際に父の戸籍を辿り、相続人を法的に確定するまでの流れを説明してみたいと思います。

1.相続人の確定

親子関係や兄弟姉妹関係が近しい家族の場合、相続人が誰かということは言うまでもなく理解されているという面があるのは事実です。
しかし第三者にそれを事実として証明するためには、法的な根拠が必要となります。
具体的には被相続人(予定者を含む、以下同様とします)の最後(最新)の本籍地の役所に行き戸籍を取得して、それを振り出しに過去へ戸籍をさかのぼる必要があります。
戸籍をさかのぼるというのは、戸籍は出生時の戸籍から転籍(住所地の異動など)や除籍(婚姻等により元の戸籍を抜けること)により異動をしますので、その流れを現在から過去へと辿り、被相続人が「誰から生まれて、誰と結婚し、子供が何人生まれて」といった事実を、出生から死亡までの全ての期間において確認することで、相続人が誰かということが確定する作業を指します。
結婚して戸籍から抜けた子供の存在や、実は離婚していて前婚の子がいるとか、養子縁組をしていたという様な事実は、この作業によって明らかになります。

2.専門家への依頼

このページでは、私が実際に父の戸籍を辿り相続人を確定する手順を紹介しますが、そもそも戸籍を辿っていくという作業は一般にはかなりの面倒を強いられます。
特に被相続人が何度も本籍地を異動している場合や、婚姻と離婚を繰り返している場合などには、それぞれの期間において戸籍を確認する必要があり一層手間が増えます。
また戸籍制度ははるか昔から連綿と続いてきているものなので、制度の改正や書式の改製が行われていて、最低限それらの基本的な内容を理解していることも求められます。
いきなり戸籍を辿ると言っても慣れていないと見落とし等が起きがちですし、特に本籍地が遠方にある場合には、郵送で戸籍の取り寄せることが多くなるため難易度はより高くなります。
高齢化社会になり、被相続人だけでなく相続人ご自身も高齢というケースが珍しくない時代ですので、時間や知識の問題だけでなくそもそも面倒なことをしたくない(できない)という場合には、弁護士や司法書士、行政書士といった専門家に戸籍の取得を依頼することも可能です。(弁護士以外は一定要件がありますが、あまり気にしなくて大丈夫だと思います)
専門家に依頼をすれば当然お金はかかりますが、職権で戸籍が取得でき何よりも不備なく相続人が確定できるというメリットがあります。
相続人が複数人いて費用を分担できるなど金銭面で不都合が無いのであれば、むしろ前向きに戸籍の取得を専門家へ依頼することをお勧めします。

3.自分で戸籍を取得する場合の具体的な手続き

先に専門家へ依頼することを紹介しましたが、もちろん戸籍を自分で取得することは可能です。
どのくらいの手間なのかは、私が実際に父の戸籍を集めてみましたので、参考にしていただければと思います。
表現の問題もありますが、もし読んでみて途中で嫌になってしまうようであれば、専門家に頼むという方法を検討してみてください。
尚、戸籍を委任状なしに取得できるのは、本人以外では「その戸籍に記載されている人(婚姻等により除籍していても構いません)」と「その配偶者」、および直系尊属(親や祖父母)と「直系卑属(子や孫)」となります。
私は直系卑属(子)ですので父の戸籍を委任状なしで取得することが出来ます。
(子の配偶者が義親の戸籍をとる場合や、孫が祖父母の戸籍をとる場合など、本人の戸籍に取得者が記載されていないケースでは、本人との関係性を証明する書類が必要になります。)

<手順>
戸籍は現在(最新)の戸籍から一つ一つ古い戸籍へと辿っていきます。
私の父の場合は現在の戸籍が大宮区にあることが分かっていますので、まずは大宮区役所へと出向きます。
もし本籍がどこにあるかがわからない場合には本人の住民票で確認をすることが出来ます。(本籍地記載の住民票を取得してください)
尚、最終的に私の父がどのような戸籍を辿っているのかは最後に時系列でまとめています。
文章だけでは理解しづらいと思いますので対比しながらご覧いただけると幸いです。

1)大宮区役所へ行き、現在(最新)の戸籍を取得します

区役所に備え付けの交付請求書に記載をします。

<大宮区の交付請求書>

必要な戸籍と、そこに記載されている誰の証明が欲しいのかを記載します。
窓口では「この役所にある、塚本由雄の全ての戸籍をください」と申し添えます。

「必要な証明」欄にある改製原戸籍(かいせいはらこせき)とは、戸籍の様式が法令により改製された場合の改製前の戸籍を指します。
改製前の戸籍に記載されていた人が死亡や婚姻等によりすでに除籍となっている場合、新たに改製された戸籍にはその人の名前は載らないため、最新の戸籍を見ているだけでは相続人等の存在は確認できません。
改製原戸籍等を取得することにより時間軸を途切れることなく戸籍を確認する必要があります。

2)大宮区役所に保管されている戸籍を受け取りました

私の父の場合、大宮の現住所が生家で本籍は元々大宮にありました。
サラリーマンとして大阪勤務時代に婚姻し、当時の住所地である兵庫県宝塚市で新たな戸籍をつくり、大宮の戸籍から除籍されています。
その後、転勤が終わり大宮に戻り、再び大宮に転籍したため今度は宝塚の戸籍が除籍となりました。
この戸籍の流れは私も予め知っていましたが、もし知らなくても取得した戸籍をみると、婚姻前の大宮の戸籍には

「昭和四拾四年五月拾弐日(中略)宝塚市仁川北三丁目〇〇番地に新戸籍編成につき除籍」
(注:昭和44年5月21日新戸籍編成/〇〇には地番が入ります)

とあり、
その後、大宮に戻って来た時に作成された戸籍には

「昭和六拾参年拾月壱日兵庫県宝塚市仁川北三丁目〇〇番地から転籍届出」
(昭和63年10月1日転籍届)

とあるので大宮から出て期間をおいて大宮に戻って来たことがわかります。
私の父の場合はたまたま大宮→宝塚→大宮という戸籍の流れだったため、大宮区役所には「婚姻前の戸籍」と「婚姻後、宝塚から転籍した後の戸籍」の2種類がありました。
婚姻前の戸籍は父は当然独身ですので戸籍は筆頭者である父の父(私の祖父)の戸籍に入っています。
婚姻前の戸籍は法令で改製された改製原戸籍も複数ありました。

3)宝塚市へ除籍謄本を郵送で請求します

私と妹は宝塚で生まれていますが、その事実は宝塚での戸籍を取得しないことには証明されません。
また他にも子供がいてすぐに養子(普通養子)に出されていたなどの事実があれば、そのことも記載されているはずですが、その事実は大宮での戸籍を見ただけではわかりません。(養子に出た子は除籍され、新しく編成された戸籍には記載されません)
つまり宝塚時代の戸籍も取得しないことには相続人の確定はできないということになるのです。
宝塚時代の戸籍は兵庫県まで戸籍を取りに行くことが出来ないため、郵送で請求をしました。
書式は宝塚市のホームページからダウンロードします。
宝塚市での戸籍は最終的には大宮への転籍で除籍となっていることは先に説明しましたが、途中で改製が行われている可能性があるので予め電話で新戸籍が作成された日と除籍となった日を伝え確認をしたところ「その期間であればおそらく改製は無いと思いますが、申請書には“戸籍が出来た時から除籍までの期間の全ての戸籍を取得したい”という旨を記載してください」という指示がありました。
戸籍を郵送で所得する場合、費用は郵便局で郵便小為替という証書を申請書に同封して送ります。
戸籍謄本は1通450円、除籍謄本・改製原戸籍は1通750円です。
今回は除籍謄本だけと思われるので750円の郵便小為替を郵便局で購入しました。
私の父の場合は元々大宮に戸籍があり、宝塚へ転籍した時期が分かっているので、「大宮で除籍された日(=宝塚で新戸籍が作られた日)」を伝え、今回のような質問が出来ましたが、本来であれば現在の戸籍を見ただけでは、宝塚でいつ戸籍が出来たのかはわからないわけですので郵便小為替を多めに同封しておくといった手続きが必要になります。

申請書、私の身分証明書(写)、返信用封筒を同封して宝塚市へ送ります。
戸籍は通数や枚数が不明ですので返信用封筒には「料金不足分着払い」と記載します。

郵便小為替も忘れずに同封します。

4)宝塚市から戸籍が届きました

宝塚市から申請した除籍謄本が届きました。
ちなみに申請内容に不備があると、申請書が戻ってきて再申請となり時間のロスが生じますので注意が必要です。
宝塚の戸籍は、婚姻により新戸籍が編成された後、大宮への転出で除籍されていますが、その間に私と妹が生まれていることが確認できました。
またこの期間中に他の実子・養子がいないことも確認できました。

5)東京都小金井市に戸籍を申請します

ところで大宮区役所で取得した父の戸籍のうち最も古いものを見ると、父の身分事項に

「昭和弐拾壱年七月五日父録朗分家ニ付キ共ニ入籍」
(昭和21年7月5日父録朗分家につき共に入籍)

とあります。
これは私の祖父(父の父である録朗)が昭和21年7月5日に当時の戸籍から分家して新たな戸籍を作った時に、私の父も一緒に籍に入ったということを表しています。
分家というのは戸籍制度が家督相続(長男がその家の当主としてすべてを相続するという考え方)から夫婦と子を単位とする制度に変わったことに伴い行われた手続きで、この時に新たに家族単位の戸籍が再編されているものです。
私の父は昭和15年生まれで、分家が行われた昭和21年7月には既に出生していますので、分家によって祖父(録朗)の戸籍に入る以前はどこの戸籍に入っていたのかを調べる必要があります。

そこで祖父(録朗)の身分欄を見ると

「東京都北多摩郡小金井町×××戸主塚本○○弟分家届出昭和弐拾壱年七月五日受付」
(実際には〇〇や××には地番や名前が入ります。弟とは録朗さんのことです)

とありますので、昭和21年7月5日以前の父の戸籍は、今の東京都小金井市の祖父(録朗)の長兄(当主)の戸籍にあることがわかります。
そこで小金井市で祖父(録朗)の長兄を筆頭者とする戸籍を取得します。
大宮と小金井であれば車で半日あれば往復できますが、面倒であれば郵送で取り寄せることも可能です。
個人的には結果が早く、何か問題があった時でもその場で確認ができるため行ける範囲であれば出来るだけ窓口に出向くことをお勧めしています。

6)小金井市で戸籍を取得しました

小金井市で取得した戸籍によると、戸主である塚本○○さん(祖父録朗の長兄)は昭和20年5月10日に名古屋市から転籍して小金井市で戸籍を作っていることがわかりました。
小金井市の戸籍には

「名古屋市榮区桑名町〇丁目〇番地の壱ヨリ転籍届出昭和弐拾年五月拾日受附入籍」

とあります。
私の祖父と父の戸籍は祖父の長兄の戸籍の中にありますが、その戸籍自体も昭和20年5月に名古屋から転籍しているということは、昭和15年生まれの父の戸籍を出生まで辿るには、塚本○○さんの名古屋にある除籍謄本も取り寄せる必要があるということになります。

7)名古屋市に戸籍を申請します

ここまで来ると戸籍を集めることの面倒さ加減がよくわかるかと思いますが、父の戸籍を出生までを辿るには、名古屋市へ祖父録朗の長兄〇〇さんを筆頭者とする除籍謄本の取得申請をします。
尚、戸籍を辿る作業は相続人を確定するために行うものですので、本来であれば本人が出生能力を有する以前の幼少期の戸籍は不要です。
名古屋の戸籍に入っている父は当時5歳ですので到底出生能力はなく、父の実子がいる可能性はありませんが、相続手続きでは出生まで遡って確定を図ります。

8)戸籍を出生まで遡ることが出来ました

名古屋市から申請していた除籍謄本が届きました。
名古屋市から届いた戸籍を確認すると、祖父録朗の長兄○○さんの身分欄には

「大正八年七月参拾日前戸主由太郎死亡により家督相続届出同年八月六日受付」

とあります。
大正8年に祖父録朗と長兄〇〇さんの父由太郎さんが亡くなり、長兄○○さんが家督相続をして新戸籍が出来、その新戸籍に祖父録朗も入籍しています。
その後祖父は祖母(父の母)と婚姻し、父が生まれた後、長兄〇〇さんの戸籍が小金井に異動→昭和21年7月に祖父録朗が分家という変遷をたどっていることがこれで分かりました。
昭和15年生まれの父の最初の戸籍は、大正8年に編成された祖父の長兄○○さんの戸籍に最初に記載されていることで、出生までの戸籍が確認できたことになります。

4.戸籍の確認

戸籍が揃ったところでようやく相続人の確認ができます
揃えた戸籍の内容を整理すると下図の通りとなり、父の相続人は当初の理解通り「配偶者(私の母)」、「私」「妹」の3名ということが確定できました。
私の父の今までの居住地は、「大宮→宝塚→大宮」となりますが、戸籍は「名古屋市→小金井市→大宮→宝塚市→大宮」という変遷を辿っていることがわかりました。

<私から見た父の戸籍の構成>

<私から見た父の戸籍の時系列>


戸籍という言葉を知らない人はいないと思いますが、制度の仕組みに精通しているのは一部の専門家だけだと思います。
私にしても戸籍について十分な理解があるとは到底言えません。
今回はホームページの記事のためにあえて自分で戸籍を集めましたが、実際に手続きをするのであれば専門家に依頼したほうが無難だと考えています。
特に相続が発生してから戸籍を集めるとなると、資産家の場合には10ヶ月以内の相続税の納付という時間的な制約もあり、慌ただしい中での作業を強いられます。
相続手続きにおいて相続人を確定するという作業は非常に重要で、間違いがあってはその後のすべての作業に狂いが生じてしまいます。
お客様から相談を受けた際にも、戸籍の収集は専門家に依頼することをお勧めしたいというのが私の本音です。