何も対策をしていない

何も相続対策を行わずに人が亡くなるということは、相続に関わるあらゆる問題が解決されないまま相続を迎えるということでもあります。
相続においては、財産があることで問題が起きると考えられがちですが、実際には財産が無くても問題は起こります。
むしろ相続争いに財産の多い少ないはあまり関係なく、相続人同士の人間関係や生前対策の有無による部分が大きいということをご理解ください。

こんなことが起きるかもしれません

1)相続問題の解決は全て法定相続人に委ねられます

遺言や生前贈与、信託契約といった生前の相続対策が何も無い場合、相続財産の分割は相続人全員による遺産分割協議に委ねられます。
遺産分割協議では、相続の対象となる財産の配分等について協議を行いますが、相続人全員が同じ方向を向いて協議が出来るとは限らず、むしろそれぞれが自分の主張をすることで収拾がつかなくなりがちです。
被相続人が考えているほど、相続人による遺産分割協議は円満には進まないものだということをご理解ください。

2)調停等、司法の判断に委ねられます

遺産分割協議がまとまらない場合の手続きには次の2つの方法があります。

・そのまま何もしない

全ての相続財産は法定相続分で共有となります。
しかし共有のままでは預貯金の引き出しや名義変更は出来ず、不動産についても売却等を行うには共有者全員の合意が必要となるため現状維持で凍結となることが多いです。
特に不動産が共有になると、共有者にも相続が発生すると共有持分がさらに細分化してしまい収拾がつかなくなるという問題が発生してしまいます。

・調停手続きを裁判所に申し立てる

調停は司法に遺産分割の判断を委ねる方法です。
調停はあくまでも相続人同士の間を取り持つという手続きですので、不調に終わることもあり、その場合には正式な裁判(審判手続き)となります。
審判による判決は必ず法定相続分となりますので、不動産など物理的に分割できない財産は強制的に競売手続き等にかけられある意味機械的に遺産分割が行われることになります。
また解決を司法に委ねた場合、相続人同士の親戚としての関係性はもう元に戻ることはできなくなってしまうのが普通です。

3)相続税の特例が使えなくなります

相続税を減らす代表的な特例である「配偶者の税額控除」や「小規模宅地等の評価減の特例」は、遺産分割協議が相続税の納付期限までに終了していることが適用の条件となります。(相続税の納付期限は原則として相続開始から10ヶ月以内となります)
遺産分割協議が終了していない場合には、それらの特例を利用することなく法定相続分で分割したとして各相続人が相続税を納付する必要があるため、多額の相続税を納付する必要が生じる可能性があります。
(所定の手続きにより一定期間を延ばすことはできます)

対策

残された相続人が上手く遺産分割協議を行ってくれるだろうと根拠なく信じることは危険です。
被相続人に対して法定相続人が一人しかいない場合や相続財産がプラスもマイナスもゼロという方以外は遺産分割による相続問題が生じる可能性があるとお考え下さい。
遺言による財産の受取人の指定や生前贈与、生命保険契約による財産の遺産分割協議対象からの除外(原則として生命保険金は遺産分割の対象とならず受取人固有の財産となります)、民事(家族)信託契約の締結など実情に合った対策をとることで被相続人の手で遺産分割の道筋を付けておくことが必要です。