家族関係が複雑である

昨今は様々な家庭の形があります。
子供を連れての再婚(連れ子)や前婚で設けた子供がいることなどはよくありますし、婚外子や養子、婚姻していない実質的な夫婦(内縁関係)などの関係も決して珍しくありません。
しかし様々な家族の関係と今の法律の定めが実情と合っていないことも多く、それが思わぬ相続トラブルにつながることがあります。

こんなことが起きるかもしれません

1)法定相続人は戸籍ベースで決まります。

法定相続人になれるのは被相続人に対して次の人です。

  1. 配偶者(いれば相続放棄をしない限り必ず相続人になります)
  2. 子(第一順位)
  3. 直系尊属(第二順位)
  4. 兄弟姉妹(第三順位)

被相続人とこれらの人の関係は実態ではなく全て戸籍ベースで判断されます。
再婚の連れ子は養子縁組をしないと義理親の相続人になれないのに対し、前婚の子は両親の離婚とは関係なく当然に相続人となります。
婚外子は認知により実子と同じ立場になりますが、認知がなされなければ法律上は他人となります。
仮面夫婦であっても配偶者は必ず法定相続人になりますし、逆に内縁関係の夫婦は実態にかかわらず法律上は他人となり、養子は相続税の総額計算上の例外を除けば実子と同じ権利義務を有します。
これらは家族関係の機微にかかわる問題ですが、必要に応じて対策を取っておくことが望ましいと言えます。

2)遺産分割協議の難航

複雑な相続関係により円滑な遺産分割が出来ない可能性が高くなります。
配偶者と前妻の子、前婚の子と現在の婚姻関係の子、実子と養子などの関係は必ずしも円満な関係と言えないことも多く、相続財産の分割を当事者間の遺産分割協議にまかせてしまうのは危険な場合があります。

3)遺産分割協議が出来ない

法定相続人が疎遠となり連絡先が分からない場合、遺産分割協議自体を行うことが出来ません。
相続人がいることは明らかなのに連絡先が不明な場合には不在者財産管理人を家庭裁判所で選任してもらう必要がありますし、7年以上の生死不明の場合には擬制死亡である「失踪宣告」といった手続きがあります。

対策

当事者による円満な遺産分割協議が難しいと考えられるときは、生前対策として被相続人によって遺産分割の道筋を主導しておくことが望ましいと言えます。
また被相続人の立場からしても、財産を遺したいと思う相続人とそうでない相続人がいる場合や、相続人ではない人に財産を残したいという希望があることもありえます。
被相続人の希望や実態に合った相続を実現するためには生前の手続きが重要になります。

1)遺言・贈与等

生前対策としては遺言により遺産分割の内容を指定しておくことが原則となります。
相続人等が円満な人間関係でない時に遺言を残す場合には、法定相続人の遺留分を侵害しない内容にしておくことが絶対条件です。
万が一、遺留分の侵害がある場合、遺留分を取り戻すための遺留分減殺請求(げんさいせいきゅう)が行われる可能性が高くなり、折角の生前対策の意味がなくなってしまいます。
特に財産が高額多岐にわたる場合には、税理士などの専門家の協力を得て、間違いのない遺言を準備する必要があります。
また遺言ではなく、生前贈与で財産を相続前に渡してしまうという方法もあります。
一度に多額の贈与をすると高額な贈与税が加算されますので、ある程度の年月をかけて少額の贈与を続けることで税負担を軽くすることができます。
民事信託(家族信託)の遺言代用機能を利用することで相続発生後の財産の移動に細かい指定を行うことも可能となりますが、民事信託(家族信託)は被相続人とそれ以外の当事者の同士の関係が円満でないときに行うのは残された当事者の負担が大きく難しい点が多いと思われます。

2)生命保険の活用

終身保険契約に加入することで、受取人には必ず生命保険金が支払われます。
生命保険金は原則として相続財産にはなりませんので、遺産分割協議を行うことなく受取人がお金を受け取ることが出来ます。(遺留分の対象にもなりません)
「預金は三角、保険は四角」の言葉通り、契約が効力を得た直後から満額の保険金が支払われる保険本来の効果に加え、現金を揉めることなく受け取らせるという点において生命保険は優れた対策となりえます。
また遺産分割とは関係ありませんが、生命保険金の非課税額として「500万円 × 法定相続人の数」が相続税の計算上非課税となりますので、節税対策としても極めて有効です。
(詳細は「相続対策における生命保険の概要」をご参照下さい)

3)離婚等

個別の事情はあると思いますが、相続関係を法的に解消することも可能です。
例えば配偶者は必ず法定相続人になりますが、実質的に婚姻関係が破綻している場合などには離婚をすることで相続関係は無くなります。
一方、親子関係は離婚に影響を受けませんが、例えば連れ子養子(婚姻相手の連れ子を養子にしたケース)との関係を離婚により解消しようとする場合などには、双方の合意により養子縁組を解消することはできます(普通養子の場合)。