名義預金

相続税は申告納税制度ですので、相続税が課税される相続人等は税務申告をし、相続税が課税されない相続人等は申告をせずに相続手続きが終了します。
(相続税がかからなくても税額計算の特例や相続時性精算課税制度を利用している場合には申告が必要となります)
しかし実はこれは手続きが一旦終了したに過ぎず、本当の意味で手続きが終了するのは税務調査が終ってからとなります。
税務調査は全ての人が対象になるわけではなく、概ね5人に1人の割合で調査が入ると言われているのですが、調査に入られた方の実に8割が修正申告を迫られるとされています。
現在、税務調査で一番指摘を受けるのは名義預金といわれており、これは被相続人が自分以外の名義で行っている預貯金のことで、名義人ではなく実質的には被相続人の財産であると見なされて、相続財産から漏れていることを指摘されるものです。
相続財産からその預貯金分が漏れている以上、当然相続税額も少なく計算されていますので、相続財産に加算した上で修正申告を行い、過少申告加算税というペナルティも支払うことになります。
手軽に行える分、指摘がされやすい名義預金についてまとめてみたいと思います。

1.名義預金とは

名義預金とは、被相続人以外の名義の預貯金口座に入っている被相続人の金銭を指します。
「(他人)名義(の自分の)預金」と考えると分かりやすいでしょうか。
名義預金については、明確に財産を隠す意図をもって他人名義の口座を利用している場合はもちろんのこと、親心で子供名義の口座にお金をためていたというようなケースも対象になります。
判断の基準は財産を隠す意図の有無ではなく、他人名義の預貯金が客観的に見て被相続人の所有権下にあったのか否かという点にあります。

名義預金

2.名義預金とみなされないためには

1)相続財産として処理する

名義預金は他人名義の預貯金口座に被相続人のお金があることが悪いのではなく、その預貯金が実質的に被相続人のものであるにもかかわらず、相続財産から意図的あるいは気づかずに漏らしてしまうことに問題があります。
つまり他人名義であろうとも実質的に被相続人が所有していた預貯金であれば、被相続人の相続財産として相続手続きをすれば問題はありません。

2)贈与として成立させる

口座に入っている金銭の原資は被相続人であっても、その預貯金の実質的な所有権が口座名義人に移っているのであれば、それは生前贈与となり名義預金にはなりません。
生前贈与は当然贈与税の対象になりますが、贈与税には年間110万円の非課税額がありますのでその範囲であれば贈与税がかからずに生前贈与を成立させることが可能です。

3.生前贈与の要件

名義預金が生前贈与されているか否かの判断は当事者の主張ではなく、客観的な事実に基づきます。
具体的には以下の点が判断のポイントとなります。

  1. 口座名義人がその預金の存在や口座作成の経緯を知っているか
  2. 金融機関で手続きは誰が行ったのか(当然、受贈者であることが望ましい)
  3. その口座は実質的に誰が管理しているのか(当然、受贈者が管理していないとおかしい)
  4. 贈与の実行が明確になっているか
  5. 贈与税の申告はあったか
  6. 口座のお金が消費されているか

1)については口座名義人(受贈者)が預金の存在や口座開設の経緯を知らなければそもそもお話しにならないと言えます。
2)については、被相続人が口座を開設していたとすると、本当に受贈者の預金なのか?と疑われる余地が生じます。
例えば、口座を開設したのが口座名義人の居住地の最寄りの支店ではなく、被相続人の居住地の最寄りの支店である場合など細かい点も疑義が生じる要素になります。
3)は特に重要です。通帳や届出印を口座名義人が持っておらず被相続人が持っていたとしたらそれだけで贈与不成立、名義預金認定となる可能性が高いです。
4)本来、贈与契約は口頭でも成立します。しかし名義預金認定をされないためには贈与契約を取り交わすなど、贈与事実を明確にしておいた方が望ましいとされます。
5)贈与税の申告があるからと言って必ずしも贈与成立の要件とはなりません。
税務署は贈与があったと申告されればそれを受け入れますが、後から実際にはその贈与は成立していなかったと判断されることはあり得ます。
特にその贈与税の原資が被相続人によるものであった場合には贈与成立に関し極めて疑問が残ります
6)本来、自分のお金であれば多少はお金の出入りがあって然るべきです。全く手つかずの預貯金口座は名義預金の可能性を疑われやすくなります。

生前贈与は贈与者の「あげる」という意思表示と、受贈者の「もらう」という意思表示が成立の要件となります。
この要件を完全に満たさない限り名義預金認定を避けることは難しいと思われます。

なぜ名義預金が発覚するかというと、税務署は相続が発生してから調査を始めるのではなく、目を付けた方とその親族に関するお金の流れを相続が発生する何十年も前から追っているからに他なりません。
付け焼刃的な対策は却って自分の首を絞めるとされています。
財産隠しの意図のない名義預金であれば、被相続人の遺産の中に他の親族名義の通帳が比較的簡単に見つかると思います。
その場合は被相続人名義でないから相続財産ではないと判断するのではなく、名義こそ違ってもこれは被相続人の相続財産に他ならない認識して正規の手続きを取ることが肝要です。