二次相続

相続問題を考えるときには二次相続までを含めて考えることがとても重要です。
二次相続とは発生した相続の次の相続を指し、一般的にはお父様が亡くなった後、続いてお母様が亡くなるケースを指すことが多いです。
二次相続に関する論点は通常の相続と同様大きく二つに分けることができ、一つは遺産分割でもう一つが相続税の問題となります。

二次相続

1.遺産分割の問題

両親の相続において先に父が亡くなったとすると、一次相続では配偶者である母が健在であることから、遺産分割も母親を中心に財産を分配することで円満に終えることが可能です。
母親を中心とした遺産分割協議では、まずは母親の生活等を優先して考えることで子供同士の潜在的な主張や不満などは表に現れず、一見何の問題も無く相続を終えたという認識になりがちです。
ところが母親が亡くなり二次相続が起きると、相続人は子供だけとなり各々の考えがぶつかるようになります。
例えば、父母と同居していた相続人がいた場合、父が亡くなった一次相続の時点では自宅は今後も母親の住む家という位置づけですが、母親が亡くなる二次相続では兄弟姉妹が均等に権利を持つ相続財産へと性格が変わります。
預貯金の口座にしても、母の生前から通帳を管理している相続人がいる場合には、相続発生後にはとたんに不正な使用がないかが気になったりするものです。
そして遺産分割の問題をきっかけにそのような疑心の種が膨らみ、幼少期からの感情的なもつれやそれぞれの配偶者が口を挟むといった事態になると、いわゆる「争族」となってしまいます。
一次相続を問題なく終えられたからと言って兄弟(姉妹)の仲が良いと思い込み、母が相続対策を何もしていないと、親という拠り所が無くなった子供たちの遺産分割協議が揉めに揉めるという事例は非常に多いです。
二次相続の遺産分割協議で揉めないようにするためには、一次相続の段階で次の相続を意識した遺産分割を心掛けると共に、一次相続の手続き終了後も母親が次の相続に備え主体性をもって遺言や生前贈与、生命保険契約などを活用し相続の道筋を作ることが望まれます。
また二次相続の当事者である相続人においても自分の考え方を話し合うと共に、母の介護等の手間や費用を誰がどのように負担するのかなどを話し合い、その内容を記録しておくことが大切になります。
そして何よりも遺産分割協議は「二次相続が揉めるもの」という認識をそれぞれの方が持っておくことが重要になります。

2.相続税の問題

相続税の計算は複雑ですが、配偶者(通常は奥様)には相続税がかからない(かかりづらい)ということは比較的よく知られているところです。
これは社会政策的な見地から配偶者の相続後の生活安定のため、配偶者に対する手厚い税額軽減措置(配偶者の税額控除)が設けられているためで、一般に配偶者は相当多くの相続財産を取得しない限り相続税がかからない仕組みになっています(細かい規定はありますが、簡単に言うと相続財産が法定相続分あるいは課税価格1億6千万円以下であれば相続税がかかりません)
この手厚い配偶者税額控除があることから、一次相続では面倒な遺産分割協議を回避して配偶者にひとまとめで財産を取得させて相続手続きを終わらせてしまうケースが珍しくないのですが、これは相続税の負担という点では注意が必要です。
以下のモデルケースを参考に考えてみたいと思います。

<モデルケース>

<一次相続>
被相続人:父
相続財産:1.6億円(現金)
相続人 :母、子A、子B(3人)
基礎控除:4,800万円(3,000万円+600万円 × 3人)
<二次相続>
被相続人:母
相続財産:母が一次相続で取得した財産
相続人 :子A、子B(2人)
基礎控除:4,200万円(3,000万円+600万円 × 2人)
遺産分割:法定相続分(1/2ずつ)

1)一次相続で母(配偶者)が全て財産を取得した場合

一次相続では配偶者控除が適用できるので相続税はかかりません。

<一次相続>

相続人 子A 子B
相続財産 16,000万円
各人の課税価格 16,000万円
課税価格の合計 16,000万円
基礎控除 ▲4,800万円
課税遺産総額 11,200万円
法定相続割合 1/2 1/4 1/4
法定相続分で按分 5,600万円 2,800万円 2,800万円
税額(速算表) 980万円 370万円 370万円
相続税の総額 1,720万円
各人の課税価格の割合で按分 1,720万円
税額控除(※) ▲1,720万円
各人の納税額
納税額の合計

相続税 速算表

※相続財産を取得したのが母だけなので、相続税を負担するのも母だけとなりますが、配偶者は相続財産(課税価格)1億6千万円までは相続税がかかりませんので、結果的に一次相続の相続税はゼロとなります。

<二次相続>

相続財産は母が一次相続で取得した1億6,000万円となります。
二次相続では相続人の数が減るため基礎控除の額が少なくなります。
遺産分割は法定相続分(1/2ずつ)とします。

相続人 子A 子B
相続財産 16,000万円
各人の課税価格 8,000万円 8,000万円
課税価格の合計 16,000万円
基礎控除 ▲4,200万円
課税遺産総額 11,800万円
法定相続割合 1/2 1/2
法定相続分で按分 5,900万円 5,900万円
税額(速算表) 1,070万円 1,070万円
相続税の総額 2,140万円
各人の課税価格の割合で按分 1,070万円 1,070万円
税額控除
各人の納税額 1,070万円 1,070万円
納税額の合計 2,140万円

二次相続では基礎控除が少なくなったところに、相続財産は一次相続と同じ金額となるため相続税の累進性により多額の税金が課税されてしまいます。

結果として一次相続と二次相続における相続税額の合計は

  • 一次相続       0円
  • 二次相続  2,140万円
  • 合計    2,140万円

となりました。

2)一次相続を法定相続分で遺産分割をした場合

一次相続では配偶者には相続税がかかりませんが、二人の子供には相続税が課税されます。

<一次相続>

相続人 子A 子B
相続財産 16,000万円
各人の課税価格 8,000万円 4,000万円 4,000万円
課税価格の合計 16,000万円
基礎控除 ▲4,800万円
課税遺産総額 11,200万円
法定相続割合 1/2 1/4 1/4
法定相続分で按分 5,600万円 2,800万円 2,800万円
税額(速算表) 980万円 370万円 370万円
相続税の総額 1,720万円
各人の課税価格の割合で按分 860万円 430万円 430万円
税額控除(※) ▲860万円
各人の納税額 430万円 430万円
納税額の合計 860万円

一次相続で子A、子Bにも財産を相続させた結果、母は配偶者控除で税額ゼロになりますが、子A、子Bには相続税がかかります。

<二次相続>

相続財産は母が一次相続で取得した8,000万円となります。
相続人の数が減るため基礎控除の額が少なくなりますが、一次相続で8,000万円を子が相続しているため、相続財産は少なくなります。
遺産分割は法定相続分(1/2ずつ)とします。

相続人 子A 子B
相続財産 8,000万円
各人の課税価格 4,000万円 4,000万円
課税価格の合計 8,000万円
基礎控除 ▲4,200万円
課税遺産総額 3,800万円
法定相続割合 1/2 1/2
法定相続分で按分 1,600万円 1,600万円
税額(速算表) 190万円 190万円
相続税の総額 380万円
各人の課税価格の割合で按分 190万円 190万円
税額控除
各人の納税額 190万円 190万円
納税額の合計 380万円

一次相続と二次相続における相続税額の合計は

  • 一次相続    860万円
  • 二次相続    380万円
  • 合計    1,240万円

となりました。

一次相続で母が全ての相続財産を相続した場合と比べ、一次相続から法定相続分で遺産分割をした場合には900万円も相続税が少なくなりました。
相続税は累進課税のため相続財産(課税価格)が増えれば増えるほど相続税率が高くなる特徴があります。
相続税負担額を少なくするコツは、一次相続で配偶者に財産を集中させず子にもある程度財産を相続させて相続財産を分散しておくことで、そうすることにより二次相続での相続財産が少なくなり結果的に相続税率が下がり相続税の額が少なくなります。
特に配偶者自身にも固有の財産がある場合には、二次相続で相続財産が膨らまないよう一次相続での遺産分割が重要なポイントになります。


遺産分割は各相続人の実情に合った財産の分配を目指すと共に、相続税の負担額ついても考えなくてはなりません。
相続においては二次相続の方が遺産分割協議が揉めやすいという点と、一次相続で配偶者控除を見込んで安易に配偶者に相続財産を集中させてしまうと却って相続税の負担が大きくなってしまうという点に十分留意した遺産分割協議が必要になります。