被相続人が自営業者である

被相続人が法人化していない個人事業主の場合、自社株式の承継問題はありませんが後継者問題はあります。
法人化していない個人事業主の場合、現預金を含む事業にかかわる資産も個人が所有する相続財産となってしまうため、特定の相続人が家業を継ごうとするときには店舗や機械・自動車といった事業継続に必要な資産を確実に家業後継者に相続させる必要があります。
被相続人が事業を営んでいる場合は、相続人だけでなく共同経営者(兄弟など)や取引先、従業員といった関係者が多くなりますので、より綿密な相続対策が必要と言えます。

こんなことが起きるかもしれません

1)事業継続に必要な財産が遺産分割協議の対象になってしまう

自宅以外の財産が少ない場合の遺産分割では、法定相続分による遺産分割をするために自宅を売却して現金を分配する換価分割をすることができます。
しかし自宅の一角を店舗や工場にしている場合には売却をしてしまうと家業の継続が困難になってしまいます。
これは事業に必要な動産についても同様です。

2)借入金は法定相続分で分割されてしまう

個人事業主の場合は、個人の財産と事業の財産の区別がありませんので、個人が事業のために行った借入れ等も相続財産となります。
借入れ等の債務は債権者に対しては法定相続分で分割されてしまいますので、債務を引き継ぐ相続人がいる時には、その旨を債権者から了解を得る必要があります。

3)事業承継者がいない場合

事業承継者がいない時でも、それらの相続財産を遺産分割する必要があります。
その場合は、相続人によって売却や廃棄等の手続きをする必要があります。

対策

1)遺言

被相続人の財産を確実に特定の人に承継する方法として遺言が有効なのは他のケースと同様です。(法定相続人の遺留分を侵害しないよう留意することも同様です)
特に事業の後継者が相続人でない場合には遺産分割協議で財産を相続することはできませんので遺言は必須と言えます。

2)代償金の用意

事業用の財産を事業後継者に相続(または遺贈)した場合、それ以外の相続人に対して充分な財産が遺せるかという問題が生じます。
事業承継者を受取人とする生命保険契約に加入し、相続時に支払われる生命保険金を他の相続人に対する代償金の原資とするなどの対策を併せて検討する必要があります。
他の相続人の遺留分侵害を避けるためにも代償金等の用意を早めに心がけておく必要があります。

3)生前贈与と遺留分放棄

早くから事業後継者が決まっている場合で、他の相続人には住宅資金援助等でまとまった資金を贈与している場合などには、併せて遺留分放棄をしてもらうことで遺留分を考えることなく遺言で事業承継者に財産を承継させることが出来ます。(遺留分の放棄には家庭裁判所の許可が必要です)

4)財産の棚卸し

本来は事業用の財産に限ったことではないのですが、事業を行っていると財産の種類が大幅に増えますので、事業用財産の棚卸しは非常に大切です。
特に借入金や保証債務についてはどのような形で承継をしていくのか金融機関や債権者との協議が必要になりますので、早めの準備が必要です