不動産の売却にかかわる準備

不動産はある日突然売却するというわけにはいかない財産です。
拙速に売買契約を結んでしまうと、思わぬ安値で不動産を手放すことになったり、買主に対しても充分な情報を伝えることが出来ず、最悪の場合、契約の解除や債務不履行による損害賠償請求といった事態にもなり兼ねません。
不動産の売買は事情を知らない買主に対して売主が情報を伝えることで成立する取引ですので、故意過失の有無にかかわらず売主が告知しなかったことに起因するトラブルについては買主が責任を問われることになります。(地中埋設物の存在など)
円滑な不動産売買を行うためには、売却活動を始める前の準備がとても大切になります。

1.準備の必要性

不動産を売却する場合、理由が相続によるものか否かにかかわらず一定の準備が必要になることに変わりはありません。
不動産の売却準備を一言でいうと、その不動産に関わる客観的な情報を整理するということで、それが購入希望者にとっては不確定要素(リスク)が少ない状態となり、物件として売れやすい状態となります。
また不確定要素の少ない物件は安心して購入を検討出来るため各種交渉も円滑になりますし、値引き交渉もされづらくなるため、結果的に高い金額での売却にも繋がります。
不動産を売却するための準備には時間のかかる手続きもありますが、特に相続発生後に相続税の納税資金のために売却を図る場合には、10ヶ月後の申告期限までにこれらの手続きを済ませる必要があり時間的な余裕が殆どありません。
将来、売却を考える可能性のある不動産については相続発生前の段階から準備を始め、時間的にも気持ち的にも余裕を持っておくことが肝要です。

2.土地の調査

土地は建物が建築できるか否かで市場価値が大きく変わります。
建物が建てられる土地であれば、自宅にせよ賃貸物件にせよ建物を建築し有効活用を図ることができる前提で売却を図れますが、建物が建築できない土地では利用方法が駐車場や資材置き場、家庭菜園等に制限されてしまいますので高額での売却は難しくなります。
具体的には都市計画法や建築基準法といった、建物の建築にかかわる法律の規定を役所等で調査し、建てられる建物の種類や規模・構造、インフラの整備状況、道路への接道義務や土地利用上の制限等を把握する必要があります。
調査項目は多岐に亘りますので、これらの作業は不動産業者か建設業者に依頼して行ってもらうのが一般的です。

1)都市計画法(市街化区域かどうか)

建物が建てられる土地として通常売買されるのは都市計画区域内の市街化区域にある土地です。
市街化区域は市街化を促進する区域と定められていて、市街化区域の中でも閑静な住宅地から一般的な住宅やお店が混在した地域、大規模な商業施設や工場などが建てられる地域などに細かく用途が決められており、建築できる建物の大きさなども規定されています。
一方、都市計画区域には市街化調整区域という自然環境を守り市街化を抑制するため原則として建物が建てられない区域もあります。
売却を検討する場合には言うまでもなく市街化区域内にある土地の方が価値が高く、建物を建てることができない市街化調整区域の土地は購入希望者が少なく、価格も安くなってしまいます。
また都市計画区域の外にある土地や、都市計画区域内であっても市街化区域でも市街化調整区域でもない土地というものもあります。
これらの土地では建物を建てることは出来ますが、元々行政が「都市化の計画」を定めていない区域ですので、郊外の生活インフラ等の整備が進んでいないエリアが多くなります。
市街化調整区域でも例外的に家が建てられるケースもありますが、不動産を売却して現金化を図る場合には、まずは市街化区域内にある土地ということを条件に考えると良いと思われます。

不動産の売却にかかわる準備

2)接道義務

原則として土地上に建物を建てるためには、その土地が建築基準法に基づく幅員4m以上の道路に2m以上接している必要があります。
これは土地上に建物を建てる場合の大原則で、不動産の調査の必須項目となります。
非常に困るのは一見土地に接しているように見える道路が実は建築基準法に定める道路の要件を満たしていなかったり、現状では2m以上の接道を満たしているように見えても法的には2m未満の接道になっている土地が少なくないことです。
言うまでもなくその様な土地は何十年も売買取引がなされていない古い土地であることが多く、残っている測量図等も不正確で、詳しい事情を知る当事者も不在になっていることが多いことも問題解決を困難にします。
この様な土地は現行法のもとでは建物建築が出来ませんので、今現在建物が建っていたとしても建て替えはできず売却には非常に制約がかかります。
道路の接道状況調査には現地確認に加え役所等での調査が欠かせませんので、専門家への相談が必須と言えます。

不動産の売却にかかわる準備

土地の調査には上記以外にも様々な項目がありますが、結局のところ目的となるのはその土地にはどのような法令上の制限があり、どのような利用が出来るのかというこということになります。
その土地の購入を検討する人はその土地を利用するために購入するわけですので、その土地で可能な利用用途について調査をすることが売主側の義務となります。

3)インフラの整備状況

電気・ガス・上下水道といった土地利用に不可欠なインフラの整備状況を確認します。
前面道路まで配管が敷設されていることもあれば、都市ガスでなくてLPGを利用しているケースや、下水処理が浄化槽式である場合なども珍しくありません。
その様な場合には設備の維持コスト等を確認しておく必要がありますし、敷地内に既存の上下水道管等がある場合でも、それが今後の使用に耐えるものであるかどうかはわかる範囲で確認をしておく必要があります。
また奥行きの深い土地であれば敷地内での配線・配管工事にかなりの費用がかかる場合もあり、その様なことも買主(あるいは不動産業者)は売主に伝えておく方が望ましいと言えます。
これはその様なことまで売主は告知する義務があるのかということではなく、分かっていることは基本的に伝えるという姿勢が、後になって売主の「そんなことは聞いていなかった」というクレームを回避することに繋がるからです。
結局のところ、売主が「知らなかった」と言えば、どちらが正しいというは関係なくそれ自体がトラブルになってしまいますので、その様なリスクは少しでも減らしておくことが円滑な取引の実現のために必要となります。

4)ハザードマップ等

現在は多くの市町村でハザードマップが備え付けられており、河川氾濫時の危険性や大雨による浸水被害の可能性を高い精度で確認することができます。
また過去の災害記録や土砂災害の危険性、活断層の有無等、土地の価値に大きな影響を及ぼす事柄についても、公共あるいは民間の資料にて確認をすることができます。
昨今は自然災害が多く、災害リスクの可能性が土地の売買価格に大きく影響します。
また歴史のある地域では遺跡等が発掘されることもあり得ます。
その場合の発掘調査費用は所有者の負担となりますので、その土地が「埋蔵文化財宝蔵地」に該当するか否かも調査をする必要があります。
その他周辺の騒音、粉塵、嫌悪施設の有無や将来計画されている都市計画の種類なども調査します。

土地の調査はここで取り上げた基本項目以外にも複雑多岐に渡ります。
取引をトラブルなく終えるためには、不動産業者を始めとする専門家への依頼は必須とお考え下さい。

3.建物の調査

建物の調査は大きく3つに分かれます。
1つは間取りや方角、建物の傷み具合や地盤沈下など目に見える部分の調査で、これはある程度一般的な感覚で調査をすることが出来ます。
2つ目は書類によって確認できることで、これは登記や設計図面、あるいは検査済証や上下水道・ガス管の引込み管理図など役所が発行・管理する公的な書類、既に行われた修繕記録等によって状況調査が可能になるものす。
設計図書の内容など専門家でないと理解が難しい部分もありますが、基本的には書類の内容がそのまま調査結果になるとも言えます。
3つ目は建物の構造等に関する専門家による調査となり、これは建物の実際の状態を把握するものですが専門の有資格者の手に拠らないと行うことは出来ません。
従来は1と2が建物売却の際の調査の中心でしたが、昨今は国を挙げて中古住宅市場の活性化を図っていることもあり、3の領域の調査が重視されつつあります。

1)耐震基準

現在の耐震基準は1981(昭和56)年6月1日より施行されており、これを新耐震基準と呼んでいます。
新耐震基準は「震度6強から7に達する大規模地震で倒壊・崩壊しない」強度を満たすとされているもので、この日より後に建築確認を受けている建物は新耐震基準の建物ということになり、それ以前の旧耐震基準の建物とは区別されます。
また木造住宅の場合は阪神淡路大震災を踏まえた建築基準法の改正により、2000(平成12)年6月1日から基礎や筋交いに関する規制が厳しくなっており、建物が建築された時期によって求められる建物の強度が異なります。

2)インスペクション(建物状況調査)

インスペクション(建物状況調査)とは、既存住宅の売買または賃貸を行おうとするときに売主または買主が、建物の構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分について専門の資格者による調査を依頼することを指します。
2018年(平成30年)4月1日より、既存住宅の売買においては不動産業者が売主及び買主にインスペクションについて制度概要を説明することが義務付けられました。
但し、インスペクションの実施は売主・買主とも義務ではありません。
インスペクションを実施した建物は調査報告書が作成されますので、現時点での建物の主要部分の状態がわかり取引の安全性が格段に高まります。

<インスペクションのイメージ/国土交通省ホームページ>

不動産の売却にかかわる準備

最初から取壊しを目的としない限り、買主は土地上の建物の使用を前提に購入します。
売主としては建物が買主の通常の使用に耐えうる状態にあるかどうかをわかる範囲で調査しておく必要があります。

4.登記を売主の名義にする

不動産を売却しようとする場合、その不動産は原則として売主本人の登記名義である必要があります。
これは相続で取得した不動産を売却する場合であっても同様で、不動産登記という手続きで、取得原因を相続や遺産分割等としてその不動産を取得した方の名義に変更します。
時折、相続がかなり以前に発生しているにもかかわらず、登記名義人が故人のままになっているというケースが見受けられますが、この様な場合で遺産分割の手続きすら済んでいない場合には、相続時点に遡ってその時の相続手続き(遺産分割)を済ませてからでないと現在の名義の変更ができません。
長い時間が経過するうちに次の相続が発生して、相続人を確定するだけでも大変な苦労をすることがありますので、古い登記名義が残っている不動産については少しでも早く真正な所有者の名義に変更することが必要です。
(現在、相続により所有権が移転した場合の相続登記を義務付ける法改正が検討されています)

5.売れづらい状態を解消する

1)売却する土地や建物の特定(登記情報の確認)

土地や建物(区分所有のマンションを含む)には地番や家屋番号という、不動産を特定する固有の番号が付されています。
それらは登記情報という形で公開されており、不動産の売買では登記上の番号(地番や家屋番号)によって対象となる不動産を特定します。
土地の地番は土地の見た目の区分とは異なり、あくまでも行政による管理上の区分であり、いわゆる住居表示とは異なりますので注意が必要です。
(但し、都市部以外では地番と住居表示が同じ場合も多いです)
例えば、一つの地番の広い土地の一部だけを売却しようとするときには、その部分を専門家にきちんと測量してもらった上で、分筆(ぶんぴつ)と言って地番を分けて対象地を特定する必要があります。
また建物においては、古い建物ではそもそも登記がされていないこともありますし、登記が建築当初に行われたままでその後の増改築部分は登記が行われておらず現状と一致していないということもあります。
買主は不動産の登記情報により購入する不動産の特定と所有者の確認を行いますので、土地が分筆されていなかったり建物が未登記では売却することができませんので、登記を真正な所有者名義に変更しておく必要があります。

不動産の売却にかかわる準備

2)土地の測量

土地の分筆時には専門家による測量が必要という話しをしましたが、分筆する時以外でも、土地を売却しようとする時には正確な面積を測量するのが原則です。
比較的最近分譲された土地などでは既に精度の高い測量が行われていることが多いですが、相続の対象になるような土地では何十年も測量をしていないということが珍しくなく、結果的として登記上の面積と実際の面積が全く違っていることは珍しくありません。
また更に大事なこととして、隣接する土地所有者との間で境界が確定していない場合には、そもそも境界が確定しないため正しい測量を行うことが出来ません。
境界未確定の土地というのは、言い換えると所有権の範囲が確定していない土地ということになりますので、住宅ローンを組む際の担保価値が低くなったり、建物建築時の建ぺい率、容積率の計算根拠が無いというように、資産としての価値が下がります。
確定測量は相手のいることでもあり、完了するまでには思いのほか時間がかかる可能性があります。
相続が始まってから確定測量をしようとしても時間が足りず、結果として売却が出来ない、あるいは市場価格よりもかなり安い価格での売却を余儀なくされたという例は少なくありませんので、相続に併せて売却する可能性のある土地については予め協会の確定と確定測量を行っておくことが望ましいと言えます。

3)隣地越境の解消

隣地所有者との間で境界は確定していても、現地においては越境が生じているということもあります。
越境には植栽の枝程度で容易に取り除けるものから、基礎のある強固な塀など解消に手間がかかるものもあれば、隣地所有者の水道管等が自分の敷地を通っていたり、逆に自分の敷地のための配管が他人の土地を通って引き込まれているといった直ちには解消が不可能な越境もあります。
また現地では完全に越境状態が定着した状態で生活が営まれているというケースも少なくありません。
越境は最悪の場合は時効取得により所有権が移ってしまうということもありますが、そうでなくても深刻な近隣トラブルに発展しかねない問題であり、売却価格に与える影響も少なくありません。
不動産の売却時に越境の事実が確認されたときには、基本的には越境を解消をした上で引き渡すのが原則ですし、買主もそれを求めることが多いです。
但し、実務上は越境状態を認識したまま売買取引を行うこともあります。
その場合でも売主は隣地所有者のとの間で越境の事実を確認し、越境の事実とともに将来の解消に向けた合意書を結んだり、それがかなわない時には現状に関する正確な情報を買主に伝え内容を理解してもらった上で取引を行います。

不動産の売却にかかわる準備

4)地盤の調査、建物の調査

不動産を売却する際に、予め地盤調査や建物状況調査を行っておくことはあまりありません。
但し、以前の土地利用状況等により地中埋設物の存在や土壌汚染の可能性が強い場合や、建物においては既に雨漏りや傾きといった目に見える支障が生じているときには、
いずれそのことが問題になることは明らかですので、先行して調査を行い問題があれば対策を講じておくということが必要です。
耐震補強などもそうですが、仮に物件に問題があったとしても改善策を施していれば、それは問題点ではなくむしろアピールポイントにもなる得るということをご理解ください。

売却する不動産の調査は、売却対象の不動産をよく知っておくという意味と併せ、その事実を売主に伝えるために行うものです。
売主としては悪い情報は隠しておきたいと思うのが人情ですが、「知っていて伝えない」ということは後に深刻なトラブルにも繋がりかねません。
「この不動産にはこういう問題があります」と言えば売主は腰が引けますし、売却価格への影響も避けられませんが、それでも正しく情報を伝えることが権利意識の向上した現代では必要ですし、そのことが結果的に売主の損害賠償請求リスクを回避することにもつながります。