遺産分割のための財産評価

相続税の計算をする上での財産評価に続き、遺産分割協議をするための財産評価を見てみたいと思います。
言うまでもなく、遺産分割協議は誰がどの財産を取得するのかを相続人同士で決める手続きですが、そのためにはどのような相続財産があって、どれくらいの価値があるのかがわからないと協議のしようがありません。
しかし、遺産分割のための財産評価は「原則として遺産分割時の時価」とする以外にルールはなく、相続税を計算する際の「財産評価基本通達(国税庁通達)」の様な指針もありません。
要はその財産に実質的にいくらの価値があるのか?ということなのですが、一口に時価と言っても現金や預貯金以外の財産の時価を求めることは決して簡単ではありません。
特に不動産は価格も大きく時価算定の難しい財産です。
遺産分割協議の現場では、当事者が財産評価額に合意できず、遺産分割手続きが進まないことが少なくなく、遺産分割の内容が決まらなければ相続税の計算も進めることが出来ません。(申告期限までに遺産分割が終わらない場合には、法定相続分で遺産分割したものとして相続税の申告を行います)
この様に、少なからず揉めるリスクのある遺産分割協議ですが、いずれにしても基本となるのは財産の棚卸しと財産評価です。
本項では遺産分割における各財産の財産評価の考え方を整理してみたいと思います。

1.現金・預貯金

現金・預貯金は相続開始時点の残高をもって評価額としますが、生前に特定の相続人による使い込みなどがあると揉める原因となります。
本来は使い込みなどがあれば持ち戻すのが原則ですし、逆に相続手続き等のために一部の相続人が出費した(立て替えた)金銭がある場合には、その中から精算をした後の金額となります。

2.上場株式等

上場株式は市場での取引価格で評価できます。
相続発生時と遺産分割時では価格が変動する可能性がありますが、通常は遺産分割時の価格を基準にするとされています。
尚、公社債や投資信託等の評価については、債券の種類や価格、適用税率など複雑なルールがありますので、専門家に依頼をするのが無難です。

3.自社株、未上場株等

取引価格の無い株式を評価をしようとする場合には専門家に委ねるしか方法がないのが実情です。
その場合は会社の規模、保有資産、同業他社との参照等の基準により価格が算定されます。
自社株は法人の後継者にとっては経営支配権の観点から最重要の相続財産ですが、市場換金性は低く財産の実際の金銭的な価値も必ずしも高いとは言えません。
しかし専門家が計算する自社株の理論上の価格は驚くほど高く見積もられることがあり、それが遺産分割協議をさらに紛糾させる原因になることも珍しくありません。

4.生命保険契約の権利

被相続人が保険料を負担していた生命保険契約で、保険事故が発生していないものは解約返礼金の額が評価額となります。
解約返戻金の額は保険会社で確認ができます。

5.生命保険金・死亡退職金

生命保険金と死亡退職金は受取人固有の財産となるため、原則として遺産分割の対象にはなりません。
よって遺産分割を行うための財産評価の対象にもなりません。

6.不動産

財産評価で最も揉めやすい相続財産は不動産です。
特に土地については一物四価ともいわれるほど様々な価格があります。
(一物四価については「不動産の評価・価値の把握」をご参照ください)
不動産は価格が高く簡単に分割や売却が出来ないという性質上、正確な金額が分からないと皆が納得する公平な取り扱いが難しいという特徴があります。
相続税計算上の評価額は、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基準としますが、遺産分割協議で重視されるのは市場での実際の取引価格となります。
不動産の市場価格を知るためには不動産業者による査定が最も現実的ですが、不動産には自宅以外にもマンションの一室(区分所有建物)、賃貸アパート(土地建物)、更地、借地権など様々な形態が存在し、査定段階では数百万円単位で差額が生じることも珍しくありません。
さらに不動産業者に査定を依頼すると、売り煽るためにわざと高値の査定をする業者などもおり相続人が混乱することがあります。
基本的には、信頼できる不動産業者に事情を話して査定を依頼するなどの対応が必要になります。
また、遺産分割協議が難航し調停等による解決を目指す場合には、不動産業者の簡易査定では不十分で、不動産鑑定士による評価が必要になります。
不動産鑑定士の鑑定評価は過去の事例を基準にすることが多いため、その時点での市場の雰囲気を反映した実勢価格とは必ずしもリンクはしないという問題もありますが、「お墨付き」という意味では非常に説得力のある価格査定となります。

7.動産

車や貴金属など一定の価値がある動産であれば、専門家に鑑定を依頼したり、インターネット等で実際の販売価格を調査します。
骨董品や掛け軸、絵画、家具、食器といったものは、未使用でよほどの価値があるものでない限り高額な査定になることは少ないので、実務上はひとまとめで何万円といった査定にすることも多いです。

8.特別受益

遺産分割協議を行う際には生前贈与による特別受益(被相続人から特別に受けた利益)を考慮する必要があります。
特別受益とは、簡単に言うと「遺産分割で無視することのできない特別な生前贈与」という様な意味で捉えるとわかりやすく、具体的には以下のような内容が該当します。

・結婚や養子縁組のための贈与
被相続人から結婚の際の持参金や嫁入り道具などの贈与を受けたり支度金を受け取ったりした場合、あるいは養子縁組の際に被相続人から居住用の家の提供を受けた場合などが該当します。
・生計の資本としての贈与
相続人が起業する際の事業資金や住居を新築したときの費用援助、新居の不動産や土地の贈与を受けたり、大学や留学などの高等教育のために他の兄弟よりも多くの学費の援助を受けた場合などが該当します。

特別受益は数十年前に受けた生前贈与であっても遺産分割の対象として持ち戻され、持ち戻す価格は「現在(相続開始時)の価格」に評価し直すとされています。
これは言葉で言うのは簡単ですが、例えば現金による特別受益があれば物価上昇率等を参考に、土地であれば地価の上昇率などを参考に現在価値に引き直して計算をするため、相続人間で意見が分かれやすくなります。
(詳細は「特別受益」をご参照下さい)

ここまで相続財産ごとの評価の仕方を説明してきましたが、現実の遺産分割ではそこまで厳密な査定を行わずに協議をしているケースも少なくありません。
本来、相続財産の価値を知ることなく遺産分割協議を行うことは難しいですが、遺産分割協議はあくまでも当事者が納得すれば、周りが異議を唱えるものではありませんので、当事者がどのレベルで財産評価を求めるのかをすり合わせることも重要です。
相続税計算上の評価とは違い、必ずしも厳密な財産評価をすれば良いというものではなく、相続人皆が納得できる財産評価を行うということが重要になります。