相続人間の人間関係

戸籍を辿り相続人を確定する作業と並行して行うのは、相続人同士の関係性の整理です。
相続手続きでは基本的には相続人が遺産分割協議の当事者となり、相続税の納付義務を負うことになります。
(遺言や生前贈与により相続人以外が遺産分割協議の当事者や相続税の納付義務者になることもあります)
よく相続は「感情」と「勘定」と言いますが、その基盤となるのは人間関係です。
相続人とその家族同士がどのような関係性にあるのかということを理解することなしに、相続対策はできませんので、私の相続においても、父(被相続人予定者)と相続人(母、私、妹とその家族)および相続人同士の関係性を整理してみたいと思います。

1.家族の現状分析

前のページでも書きましたが、相続手続きにおいては、年齢や住んでいる場所、仲の良し悪し、被相続人との生活の扶助度合いや関係性、健康状態、経済状況など様々な要素が複雑に絡み合います。
私が認識している範囲で家族の関係性を整理してみたいと思います。
具体的には生活面、性格面、健康面、経済面などの観点から見ていきたいと思い
ます。

<家族関係図>

「1.最初にやること」に掲載した家族関係図を再度掲載します。

家族関係図
<家族の現状分析>

1)父母について

  • 父母は高齢になり、年相応に体の不調を訴えることが増えました。
    今現在はまずまず健康で自立した生活を送っていますが、先のことは分かりません。
  • 父母が暮らしている家は父の所有の自宅で、元々は父の生家です。
    築年数は相当経過していますが10年ほど前に大掛かりなリフォームをしたので、当面の居住に支障はありません。
  • 父母の収入は年金(厚生年金と国民年金)と、下記の通り弊社(しあわせハウジング)からの給与収入となります。
    余裕があると言わけではありませんが、近い将来に極端に経済的に困窮する可能性はそれほど大きくはないと思われます。
  • 父は生真面目、物静か、争いごとを好まない温和な性格ですが頑固です。
    加齢による弱気や怒りっぽくなるといった年齢なりの変化はあります。
    世間的に常識とされる価値観を持っているため、突拍子もないことをしでかす可能性は低いと思われます。
  • 父は近年加齢による物忘れや勘違いは増えていますが、現在のところ認知症が疑われる傾向は無いように思います。
  • 母の性格は、関西生まれらしく基本的におおらかですがやや悲観主義的なものの見方をすることがあります。基本的には真面目な性格です。
    情に篤いところがある反面、時として理屈よりも感情で物事を判断する傾向があります。
  • 母も認知症の気配は今のところ感じませんが、近年は体調がすぐれない日が多くなってきました。

2)私について

  • 私は父母と同居しています(同一生計の親族 ※1)
  • 性格は基本的には真面目ですが、お調子者のところが大いにあります。社交的と思われがちな反面、内心では人との距離感を気にするところがあります。
    悩み・煩悩は人並みにありますが、あまり表には出さないようにはしています。
    争うよりは丸く収めがちな性格ですが、それが原因でイライラすることも少なくなく、内心にストレスを溜めることがあります。
  • 独身で(結婚歴無し)、子供はいません
  • 私は10年ほど前に父に代わり(株)しあわせハウジングの代表に就任しています。父母は引き続きしあわせハウジングの社員として仕事をしています。(家族経営)

3)妹家族について

  • 妹は既婚者で、配偶者(夫)と子供(私から見ると姪)と、都内にある配偶者所有のマンションに住んでいます。(当然、父母や私とは別生計となります)
  • 妹は現在子育て中心の生活を送っています。しっかり者のお母さんという印象ですが、性格の深い部分は実は私もよくわかっていません。
  • 最近でこそ姪を連れて家族で遊びに来ることが多いので話す機会も増えましたが、それ以前は頻繁に会話をするような関係ではなかったからです。
  • 父母と妹夫婦の関係は良好で、頻繁に連絡を取り合っています。平均して月に一1度程度の行き来があります。
  • 妹の配偶者は会社員で、比較的安定した仕事に就いています。細かなことに動じないおおらかな性格ですが、私からするとあくまでも義兄弟という関係ですのでそこまでお互いを深く理解していない部分はあると思います。
  • 夫婦は年相応に病院にかかったりすることはありますが、現在のところ深刻な病気等は抱えていません。
  • 姪っ子はまだ未就学で可愛い盛りです。叔父である私の立場からしてもそれ以外に言うことはありません。

全体的にはどこにでもある一般的な家庭であり、小さな問題はそれなりにありますが、全体としては現時点で深刻な問題はなく、まずは良好な家庭であり、家族関係だと思います。

2.特徴的な点、留意する点

ごく普通の家族関係とはいえもちろん特徴や留意すべき点はあります。
相続を考えるという切り口で言えば、次のようなことが挙げられます。
私の家族特有の内容と一般的な内容に分けて考えてみることにします。

1)私の家族特有の内容

ごく一般的な家庭とは言いながら、次の点が特徴として挙げられます。
これは主には私に関することと言ってもよいと思います。

・私が未婚で子供がおらず、父母と同居していること
・私が父から法人の代表権を引き継いでいること

最近は高齢独身の男性が増えているといいますが、私もその一人です。
相続という観点から見ると、相続人が「父母と同居しているか別居しているか」、「婚姻しているかしていないか」、「直系卑属(家系を継ぐ人)の有無」という点は、お互いの認識に齟齬が出やすく特に敏感な部分です。
また、自営業の場合、事業用財産の取り扱いも非常に重要になります。
父が所有している事業用財産には、次の「4.相続財産の種類と評価」でも触れますが、自社株式と自宅の一部である店の土地・建物となります。
相続の基本は、事業用の財産は後継者が取得し事業の継続性を維持するというものですが、我が家の様にお店の土地・建物が自宅と一体の場合には、単に後継者の私が相続すると私の相続分が大きくなってしまうという問題が生じかねません。
遺産分割における不動産の取り扱いは、事業を行っていない場合でも特に揉める原因になりがちですが、事業用財産が絡む場合にはさらに問題は深くなります。

2)一般的な内容

法律上、遺産分割協議には相続人だけが参加しますが(※2)、実際には家同士の話し合いという側面が間違いなくあります。
相続対策を考える時には、相続人だけではなくその配偶者も含めた家族関係を理解しておく視点はとても重要です。
またこの分析はあくまでも私目線のものであるため、例えば各人の性格や父母と妹夫婦の関係性等に関する理解は、立場を変えればまた違う考えがある可能性は十分にあります。
相続対策を検討するにあたっては、これらの事柄を踏まえ適切な対策や手続きを具体的に検討していくことになります。

※1
同一生計とは生活にかかわる収入と支出を一体に賄っている関係性を指し、同居をしている場合には完全に世帯毎に会計を分けていない限りは原則として同一生計に該当するとされています。
但し、同居をしていなくても親が子に仕送りをしているといった場合には同一生計に該当することがあります。

※2
遺産分割協議には遺言で指定された包括受遺者も加わります。包括受遺者とは遺言で「財産の半分を取得する」というように割合で相続分の指定を受けた人を言います。