不動産を遺産分割する際の注意点

相続財産としての不動産には、価格が大きく、物理的な分割が難しいという特徴があるということには何度も言及してきました。
言い方を変えると、遺産分割では不動産をいかに取り扱うかが成功の鍵を握っていると言っても過言ではありません。
本項では不動産の遺産分割に関して留意するべきポイントについてご説明をさせていただきます。

1.不動産の評価

不動産の遺産分割協議においては、不動産をどの様に財産評価するのかが重要なポイントとなります。
例えば、現物分割において、不動産を取得する相続人と他の相続人の間で相続財産の価格的なバランスを取ろうとすれば当然不動産の価格がいくらなのかという点が問題になりますし、代償分割を検討する場合でもその不動産の価格が分からなければ代償金額を決めることは出来ません。
ところが、財産としての不動産の特徴には「価格が大きく、分割がしづらい」という特徴に加え、「評価がしづらい」という特徴もあります。
遺産分割における不動産の価格は、相続税計算における一定のルールに基づいて算定される価格とは異なり、市場で取引される正真正銘の時価となりますので、それ故実際にその不動産を売却しない限りはどこまで行っても理論値にとどまるという問題が生じます。
不動産を相続する相続人からすれば少しでも安い金額で不動産価格を見積もりたいのに対し、逆に他の相続人からすると不動産価格を高く見積もることで、他の財産の取り分を多くしたいと考えます。
相続人全員が納得できる不動産価格を決めることは思いのほか大変ですが、現実的には信頼できる不動産業者に簡易査定を依頼することが最も市場価額に近い金額を知る方法になると思います。
但し、この金額もあくまでも理論値に過ぎませんので、複数の不動産業者に依頼をした場合には百万円単位で差が出ることが珍しくなく、複数の依頼を行った時には平均値を採用するといった工夫は必要です。
尚、不動産価格を遺産分割の審判などにも耐えるレベルで評価をしようとするのであれば、不動産業者ではなく不動産鑑定士に鑑定評価を依頼するのが一般的ですが、鑑定評価は生の取引価格というよりは理論値という側面もあり、費用面なども考えると遺産分割協議において採用するのは少々大げさと思われます。

<不動産業者に価格査定をする場合の注意点>
不動産業者に価格査定を依頼するときには以下の点にご注意ください。

  • 通常、不動産業者が行う価格査定は無料です。
    但し、売却を前提としない不動産の価格査定は不動産業者にとって必ずしもメリットのあるお話しではありませんので、どこまで熱意をもって価格査定をしてくれるのかは未知数となります。
  • 不動産業者の中には売却を受注したいがため、相場を無視した高値の査定をする業者も少なからず存在します。(大手の不動産業者にもその様な会社が多いのでご注意ください)
    査定価格を聞くときには、その価格に至った根拠も併せて教えてもらうようにしてください。
  • 査定を行った後には、その後必ずご意向伺いの営業電話が来ると思われます。
    あまりしつこい様では困りますが、無料査定を行うこと自体が営業活動の一環ですので、ある程度は仕方ないと割り切ることも必要です。

不動産の無料査定は不動産業者にとっては売却を前提とした営業活動の一環です。
査定を依頼する際には、このことを理解しておくことが大切です。
また査定はある程度の概算に過ぎないことを理解をするとともに、金額の根拠を理解することが重要です。

2.不動産の遺産分割方法

不動産においても他の相続財産と同様に「現物分割」、「代償分割」、「換価分割」の3種類の遺産分割方法が採用されます。
但し、不動産は価格が大きく、物理的な分割が難しい財産であることから、単純な現物分割では相続人間の相続分が不均衡になりやすくなるため、取得者が他の相続人に代償金を支払う「代償分割」を採用することも多いです。
(代償分割自体が不動産を遺産分割するための分割方法という性格があります)
また代償分割を検討しても折り合いがつかない時や、その不動産の相続を誰も希望しない場合などには、不動産を売却して売却代金を相続人で分割する「換価分割」を検討する必要があります。
近年は遠方にある実家などが相続により空き家となるケースが増えていますが、場合によっては換価分割を図ろうにも買い手が見つからないということがあります。
不動産は動産と異なり廃棄処分が出来ない財産ですので、売却もできない、遺産分割も折り合いがつかないとなった場合には、最終的には法定相続分による共有しか方法はなくなります。
但し、共有はあくまでも当面の処理であり、最終的な解決方法ではありませんので、時間をかけながらも解決を図っていく必要があります。

3.安易な共有は避ける

不動産は物理的な分割が難しく、不動産が原因で遺産分割協議がまとまらないということがよくあります。
そんな時に採用されがちなのが共有です。
相続財産である不動産を共有する場合、殆どのケースで法定相続分による共有になると思われます。
法定相続分による共有は一見すると平等な遺産分割のように感じますが、一般論として共有は以下の理由から避けるべき遺産分割方法とされています。

  1. 不動産の処分(売却や大規模修繕、建て替え等)には共有者全員の合意が必要であること →合意が出来ない可能性があります
  2. 相続人同士の関係が、今は良好でも将来は分からないこと
  3. 共有者に相続が発生すると共有持分がさらに細分化し、他の共有者との関係性が希薄になっていくこと
  4. 共有持分の買い取り等には譲渡所得税が課税される可能性があること

但し、最初から換価分割を行う予定など処分方法が決まっているときに、便宜上一旦共有にするといった場合はこの限りではありません。

4.相続登記

通常の相続財産は「遺産分割協議書」をもって遺産分割の成立を証明します。
遺産分割協議書は戸籍の添付と実印による署名捺印が要件となりますので、当事者の正式な意思判断と確認できるからです。
但し、不動産の場合には遺産分割協議書と併せ、相続登記(あるいは遺産分割登記)が実務的に必要になります。
相続登記等によって真実の所有者であることを表示しない限り、第三者に対抗(所有権を主張すること)は出来ないからです。
尚、現在は相続登記をすることは義務付けられていませんが、相続登記が未了のまま所有者不明となっている不動産が非常に増えているため、法改正により相続登記の義務化が検討されています。

5.財産ごとの遺産分割

1)土地の遺産分割

土地を遺産分割する場合で、一つの広い土地を複数の相続人で分割取得したり、一部分を売却しようとする場合には、対象となる土地の部分を特定するために分筆という登記上の区分手続きを行う必要があります。
また併せて地積測量により面積を確定する必要もあります。
隣地所有者と境界が確定できないかったり、越境等が生じている土地は将来的なトラブルにつながる可能性があり売却の支障となる恐れがありますので、遺産分割を行う過程で解消を図ることが望ましいと言えます。

2)建物の遺産分割

実務上、建物だけを遺産分割することは多くなく、土地と一体で遺産分割の対象とします。
これは売却を図る場合でも同様です。
また区分所有建物の様に構造上区分されている場合を除けば、建物を複数人で所有する形態は共有しかありません。

3)賃貸不動産

賃貸不動産動は将来に渡り収益を生む財産ですので、遺産分割時の財産としての評価額の算定は難しくなります。
賃貸不動産を売却・購入する際の価格を評価する手法のひとつに収益還元法という方法があり、遺産分割協議における評価額の算定にも一定の基準にはなります。
また賃貸不動産特有の事情としては、入居者管理や建物メンテナンスなど賃貸経営を行うための手腕や知識、時間的な余裕なども考慮する必要もあります。
特に金融機関からの借り入れを伴っている場合には、通常は物件の取得者がローン債務も引き継ぎますが、その内容は金融機関の承諾が必要となりますので、遺産分割内容を決める前に金融機関との調整も必要になります。
尚、金融機関の承諾がない場合には、ローン債務は法定相続分で各相続人に引き継がれますのでご注意ください。

4)借地権

建物を建築する目的で土地を借りる権利を借地権と言い、財産的な価値を持った権利として相続の対象になります。
借地権は借地上の建物と一体の権利ですので、通常の相続では、借地権と建物(上物)をひとまとめの財産として遺産分割の対象をすることが殆どです。
尚、借地権を単独の相続人が相続する場合には地主の承諾は不要となりますが、借地権を複数の相続人が取得する場合には地主の承諾が必要になり、その場合には地主から承諾料の支払いを求められる可能性が高いです。
また借地権そのものの留意点として、

  1. 契約が存続する限り地代の支払いが必要であること
  2. 売却が難しい財産(権利)であること。また権利の譲渡には地主の承諾が必要であること
  3. 建替え、増改築などを行う際にも地主の許可が必要であること
  4. 地主の許可を得る際には承諾料の支払いが必要であること
  5. 契約期間の満了時には更新料(数百万単位のこともあります)が必要であること

などを理解しておく必要があります。
また借地権だけを売却することも簡単ではないので、将来的には

  1. 地主からの底地の買い取り
  2. 地主への借地権の売却
  3. 地主との底地と借地権の等価交換
  4. 地主と共同での底地と借地権の売却

といった方策を検討することも借地権を相続する相続人は頭に入れておく必要があります。

遺産分割が揉める理由の大半は不動産に係るものといっても過言ではありません。
相続財産が不動産だけというような相続で代償金の支払いも売却も難しいとなると、遺産分割協議が難航する可能性は極めて高くなりますので、被相続人が遺言で取得者を指定しておくなどの対策が必須となります。