成年後見制度の留意点
意志判断能力を失った人の身体や財産を守る成年後見制度ですが、デメリットもあります。
人は意志判断能力を失うと法律行為を行うことが出来なくなるため、成年後見制度の持つ役割は極めて重要ですが、デメリットも理解した上で制度を利用する必要があります。
1.後見人選任まで時間がかかる
法定後見の場合、申し立てに基づき家庭裁判所が審判を行います。
通常申し立てから後見開始までには3ヶ月から6ヶ月程度がかかりますので、すぐに法律行為を行うことは出来ません。
本人が予め後見人を選任しておく任意後見制度の場合はもう少し期間は短くなりますが、それでも数ヶ月は時間がかかります。
2.後見人は家庭裁判所が選任します
法定後見の場合、後見人は家庭裁判所が選任します。
申立書には家族等を後見人の候補者として記載することは可能ですが、被後見人に財産がある場合には、使い込み等のリスクを避けるため弁護士等の専門職が選任されることが殆どです。
希望の候補者が選任されない場合でも、後見の申し立てを撤回することはできませんので、結果として家族の関係に権限を持った第三者が入り込んでくることになってしまいます。
3.後見人の役割はあくまでも本人のためであること
後見人の役割は「本人の身上監護」と「財産管理」です。
特に専門職の後見人の場合、財産管理については「本人のための財産保護」の観点が徹底されており、家族のための支出は最小限の扶養義務以外は考慮されていません。
相続対策など家族全体を考えた総合的な裁量権は有しておらず融通が利きません。
4.報酬が発生すること
法定後見の場合、後見人に対しては月額1~6万円の報酬が発生します。
報酬額は管理する財産規模に拠りますが、5,000万円超の財産の場合、3万円から6万円程度が相場とされており、それ以外に特別な行為(※)を行った場合には数十万円以上の報酬が必要になることがあります。
また後見監督人(後見人を監督する人)が選任された場合には別途数万円の報酬が必要になります。(任意後見の場合にも報酬は発生します)
※特別な行為には、成年被後見人にかわり遺産分割協議を行うことや、訴訟の当事者になること、自宅に売却等が該当します。
5.後見人の専門知識不足(不動産等)
本人の自宅に関する不動産の管理・処分について後見人が十分な知識や経験を有していない場合があります。
不動産には売買以外にも、自宅の賃借権や借地権といった専門的な知識が必要な権利がありますが後見人がそれらの知識を有していないことで被後見人に損害を与える可能性があります。
6.途中でやめられない
後見制度が終了するのは、本人の意志判断能力が回復するか本人の死亡しかなく、途中で中止は出来ません。
(後見人についても途中で後見人を辞任することは原則できません)
現実的には本人が死亡するまで後見が続くことになります。
後見人には、意志判断能力を喪失した本人の身体と財産を守るために極めて重い権限が付与されるため、厳しい要件が設けられているのはある意味仕方がありません。
しかしその結果として硬直的な運用にならざるを得ない側面は否定できず、また第三者である専門職が家族関係への介入してくることへの感情的な拒否感や、コストの観点から後見制度の導入を躊躇うケースは少なくありません。
後見制度を申し立てるにしても、制度のメリット・デメリットを理解の上、判断する必要があります。