相続税の申告と納税
ここまで相続税の計算方法等について説明をしてきましたが、相続税額が確定した後は、税務署への申告と納税が必要になります。
本項では具体的な納税の実務について簡単にご説明をさせて頂きます。
1.相続税の納税義務者
相続税の納税義務者は、一般論としては相続で財産を取得した人のうち、相続税の計算で相続税が計算された人となります。
法律の定めるところによると、被相続人あるいは相続財産を取得した人が日本国内で実質的に居住をしている場合には、日本国内で相続税が課税されることになっていますが、国外財産については被相続人と財産を取得した人が10年超に渡り海外で居住している場合には日本の税法における相続税の対象にはならないとされています。
(従来は5年でしたが資産家の課税逃れを取り締まるため10年に延長されました)
2.相続税の申告制度
相続税は、相続財産を取得した人が自ら納税義務者になるか否かを判断して、税額を計算の上、申告をする必要があります。(自己申告制度)
原則として、その相続における相続財産の合計額(課税価格)が基礎控除を下回る場合には相続税は課税されず申告も必要ありませんが、「配偶者控除」や「小規模宅地等の評価減の特例」を適用した結果として相続税が課税されない場合や、相続時精算課税制度を利用して生前贈与を受けていた人は必ず申告が必要になります。
尚、相続税の申告は相続人それぞれが行う必要がありますが、被相続人に対して複数の相続人がいる場合には共同して申告をすることも可能です。
3.申告期限
相続税の申告は、「自分に相続があったと知った日の翌日から10ヶ月以内」となります。
基準日が「相続が開始した日」ではなく「知った日」とされているのは、例えば被相続人と音信が途絶えており、相続開始(被相続人の死亡事実等)を知りようが無かった相続人等が遺言により財産を取得している場合があるからです。
尚、当サイトを含む多くの相続解説において相続税の申告期限を単に「相続開始から10ヶ月」と表記していますが、これは実質的な分かりやすさを優先しているためとご理解ください。
4.申告書の提出
相続税の申告書は「被相続人の住所地を管轄する税務署」となります。
申告漏れ等を調べるには、被相続人が住んでいた場所を管轄する税務署が都合よいのは自明ですので、その様に定められています。
5.相続税の納付
相続税は相続税の納付期限までに金銭一括納付が原則となり、この期限に遅れると原則として加算税と延滞税が課税されることになります。
納付の仕方は税務署あるいは金融機関で納める方法が主流ですが、最近では電子納税(e-TAX)やクレジットカード納税などインターネットを利用した納税方法も採用されています。
尚、金銭による納付が困難な場合には、税務署長の許可を受けて「延納(納税の延期)」や「物納(現金以外の財産で納税)」という制度をとることも出来ますが、物納については近年要件が厳しくなっていますので、物納を検討される場合には、物納申請に精通した税理士の協力が欠かせません。
また延納の場合にも担保提供が必要などの要件がありますのでご注意ください。
6.申告期限までに遺産分割が終了しない場合
相続税の申告期限までの間に遺産分割協議が終了せず、各相続人が取得する財産が確定しない場合があります。
その様な場合の相続税の申告は、法定相続分で遺産分割をしたものと仮定して相続税を計算し、法定相続人が申告期限までに納税を行うものとされています。
(結果として僅かな遺産しか取得する予定の無い相続人が、仮の納税とは言え多額の納税を迫られる可能性があります)
1)特例の不適用
申告期限までに遺産分割が終了しない最大のデメリットは、「配偶者の税額控除」や「小規模宅地等の評価減の特例」といった相続税額を抑える効果の高い特例を使うことが出来ないことです。
これらの特例は遺産分割が申告期限までに終了していることが適用要件の一つとなっているからです。
但し、原則として申告期限から3年以内に遺産分割協議がまとまった場合には、これらの特例を適用して再申告が可能になり、更正の請求により差額の還付が受けられます。
(その場合には、相続税の申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を提出しておく必要があります)
2)一部未分割の場合
遺産分割が一部未分割の場合は、分割済みの相続財産をその相続人に帰属させた上で、相続財産の総額が法定相続分となる様に遺産分割をしたものとして計算を行います。(これを穴埋め方式といいます)
3)相続放棄をした相続人がいる場合
相続放棄をした相続人がいる場合には、民法の規定通り「最初から相続人でなかったもの」として取り扱います。
相続税の総額の計算や基礎控除の計算、生命保険金の非課税等の計算で「相続放棄が無かったもの」として計算するのとは異なりますのでご注意下さい。
7.連帯納付義務
他の相続人が相続税を納付しない時に、他の相続人にはその税金を肩代わりして納付しなくてはならない義務があります。
これを連帯納付義務といい、同一の被相続人から相続または遺贈により財産を取得した者は、取得した財産価額を限度として相互に連帯して相続税を納付しなくてはならないとした法律上の定めです。
何としても相続税の取りはぐれを回避したいという国の意向が強く反映されている法律ですが、相続する側からすると相続税の納付における最後の関門ともいうことが出来ます。
相続人の中にルーズな相続人がいる時には要注意です。
相続税については、いかに税額を抑えるかという絶税対策と相続税自体の計算方法に関心が行きがちですが、実務上は税金を納めるところまでが相続税の規定となります。
特に円満な遺産分割が行えない場合などには、税額等の負担が大きなものになることがありますので、納税手続き全体について理解をしておくことが必要です。