ネットのおとぎ話~名義預金や生前贈与

ネットには色々な人の体験談が載っていて面白いですね。
私は仕事柄、相続についてのお話しを興味半分と勉強半分で読むことが多いです。

実際問題として相続は何かと揉めやすいものですが、その内容を現実社会の知人や友人に話しをするというのは、極めてプライベートなことでもあり躊躇われる感は否めません。

そこで勢いネットの掲示板などに書き込んで思いのたけを吐露したり、憂さ晴しや自慢をしたりといった行動に出る方が多いのかもしれませんが、時には「んっ!?」と疑問を感じるお話しもあったりして一人もやもやする時があります。

 

おとぎ話

 

先日読んだお話しは、よくあるお話しといえばそうなのかもしれませんが、ある姉妹がいて一人(私)は気が弱くいつも貧乏くじを引いていてばかりで、もう一人(姉)は気が強くて要領が良いという真逆の性格とのこと。
しかも器量も不公平で、自分は十人並みなのに対し、姉は美人でいつもちやほやされていて、とにかく対照的な二人の姉妹だったという前提です。

そのうち親が病気になり寝込んでしまったのですが、すでに独立していた姉は知らんぷりでろくに家にも寄り付かないのに対し、同居していた妹(私)は一生懸命看病をしました。
そしてとうとう親が亡くなってしまい相続となりましたが、いざふたを開けてみたら相続財産はほとんど無く、その代わりに大金の入った私名義の預金通帳が見つかり、また自宅の名義もいつのまにか私の名前に変わっていました。
遺産を当てにしていた姉は怒りましたが、すでに後の祭りでいつも苦労をしていた私は報われました、というある種ハッピーエンドなお話しでした。

と、めでたしめでたしと言いたいところですが、現実はもっと世知辛くそうは簡単には行きません。
ネット上のお話しですから、すべてを真に受けるのもどうかとは思っていますが、それでもこれはちょっと問題が多すぎます。

名義預金

まずは私名義の預金通帳の存在について。
いくら通帳の名義が私であってもお金を入金していたのが亡くなられた親で、且つその事実を妹である私が知らなかったのであれば、それは「名義預金(他人名義の預金の意)」といって親の相続財産として扱われます。
つまり相続財産として、遺産分割協議や相続税課税の対象になり、そのルールに則って取り扱いがなされ、自動的に名義人である私のものになるということはありません。

これが親と私の間で正式な贈与契約を結んだ上で私名義の口座に振り込まれていたのであれば贈与という法律行為となり問題はありませんが(別に贈与税の問題はありますが)、今回はそうではない様子です。
親は「私」のためによかれと思ってやっていたことでしょうが、残念ながらこの預金は「親の財産」として遺産分割協議の対象になりますので、すんなりと全額が私のものになるとは思えません。
むしろ私名義の預金があったことで姉は態度を硬化するでしょうし、なまじ名義預金の準備をしていたことで遺言等の備えをしていなければ、相続財産は関係の悪い姉妹の話し合いに丸投げされてしまいます。

そして遺産分割協議がまとまらない時には最終的に裁判手続きとなり、その場合の分け方は法定相続分、つまり姉妹二人が相続人の場合には折半ということになってしまいます。

これが名義預金ではなく、遺言で「預金は全て私(=妹)に相続させる」としてあれば、姉の遺留分の問題はありますが、私が堂々とその預金を相続することが出来たわけですので残念です。

家の所有権移転

そしてもう一つの問題は家の名義がいつの間にか私の名義になっていたという内容。
名義が変わっていたということは、親から私への所有権移転登記が行われていたということですが、所有権の移転登記は「登記義務者(財産を手放す人)=この場合は親」と「登記権利者(財産を受け取る人)=この場合は私」による共同申請が原則です。
いつの間にか名義が変わっていたということは、親は私の知らぬ間に実印を盗み出し売買契約書や委任状などを作成して勝手に手続きをしたのでしょうか?
だとするとこれは有印私文書偽造とか窃盗にあたる立派な犯罪です。
(そもそも今は本人確認と言って本人の意思確認を厳密に行いますので、印鑑や契約書があったとしても勝手に手続きは出来ません)

またこの場合、家という財産の精算はどうなったのか?ということも問題になります。
通常、土地・建物には財産的な価値がありますので、親子間とは言えただ単に「これをあげる」という訳にはいきません。
(それがまかり通れば、相続税の節税対策など不要になります)
余程価値のない家なら別ですが、通常は不動産の権利移動は有償での譲渡(売買)か贈与という形になります。

譲渡であれば私から母への売買代金の支払いがあるわけですが、この場合私は知らなかったわけですから対価の授受はありません。
であれば贈与かと言えば、そもそも贈与とは「あげる人」と「もらう人」の合意、すなわち契約によって成立するものですので、勝手に贈与をするという行為自体がそもそもあり得ません。

また不動産の固定資産税は1月1日時点の所有者(登記名義人)に課税される税金ですので、所有権移転登記がなされると翌年からは固定資産税の納税通知書が私宛に届くはずです。(当然、納税義務者は私です)
私がその通知書を見ていないとすると、固定資産税は一体誰が納付していたのでしょうか。

要するに知らない間に家の名義が私に変わっていたというお話しは、法律違反を犯したり税金の問題を無視しないと実現不可能であり、正直者が報われるという美談どころか犯罪の香りすらする危険なお話しになってしまいます。

ネットの物語にいちいち目くじらを立てるのも無粋ですが、こういった間違ったお話しにより不正確な認識がまかり通ってしまうと、現実の相続手続きに何某かの宜しくない影響を与えることにもつながります。
参照「長嶋一茂さんの相続放棄」

ネットの話しは話し半分ぐらいで聞いておくのががちょうどよいという良い事例だと思います。

 

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