家族信託シリーズ第8弾は「受益者連続型の家族信託」についてです。
前回、家族信託ならではの特長として「遺言代用機能」をご紹介しましたが、家族信託にはもう一つの大きな特長として、「受益者連続型信託」と呼ばれる仕組みがあります。
これは信託契約に基づく受益者が死亡した場合などに、信託を終了させることなく受益権をそのまま別の人に継承させるもので、受益権を引き継ぐ人のことを「第二受益者(後継受益者)」と言います。
信託契約では当初の受益者(第一受益者)から別の受益者(第二受益者)へ受益権を移行していくことも可能です。
例えば父が委託者兼(第一)受益者、長男が受託者という形で信託をスタートし、父が死亡した時には受託者はそのままで母が第二受益者となるような形です。
(一般に第二受益者は第一受益者の相続人となるケースが多いです)
また第二受益者だけでなく、その後の第三受益者、第四受益者を定めることも信託契約上は可能です。
さらに第二受益者以降の受益者が設定された信託の場合で、第二受益者等の死亡により信託が終了する際の信託財産の分配についても信託契約で定めておくことが出来ますので、結果的に委託者は自分の相続以降の相続についても財産の行方を定めることが可能になります。
遺言では自分の相続時の遺産分割の指定はできても、その次の相続における財産の行方については指定できないのに対し、家族信託では自分の相続の次以降の相続についても財産の行方(実質的な遺産分割)を指定することができ、これは家族信託だけで実現が可能な特別な特長です。
受益者連続型信託を組成する目的としては、主に次のような理由が挙げられます。
上でも取り上げましたが、高齢の両親が子を受託者とする信託を組んで、第一受益者である父が死亡した後は母を第二受益者とするようなケースです。
また障害を持った子がいる場合などには、親の死後にその子を後継の受益者として信託を継続するようなことも可能です。
不動産を信託した場合などで、相続人が複数いるときには第一受益者である父が死亡した時に信託を終了させ実物の不動産を複数人で共有するよりは、信託を継続したまま受益権という形で共有したほうが望ましい場合があります。
実物の不動産を共有してしまうと共有者全員の合意がない限り売却等の処分が出来ず、結果的に意見がまとまらず凍結状態になってしまうことが起りがちですが、受益権という形での共有であれば受託者が引き続き単独で管理・運用を行えるため共有者の意見の相違による財産凍結を回避することが出来ます。
家族信託は不動産等の共有化対策としても有効です。
地主さんの家系などでみられるパターンですが、自分の家系に財産をとどめておくための対策として家族信託を用いることも可能です。
これも自分の相続の次以降の相続まで財産の行方を決めること出来るという家族信託の特長を活かした対策となります。
先祖代々の財産を父から相続した長男には子供がいません。
長男が引き継いだ財産は父方の家系から引き継いだものですが、長男が死亡した後に妻が法定相続分の四分の三(次男が四分の一)を相続したとすると、さらに妻が亡くなったときには妻の相続財産は全て妻方の兄弟姉妹へと移ってしまいます。
結果として、長男が父から引き継いだ相続財産の四分の三が妻方の家系へと移ってしまうことになります。
家族信託を利用すると、長男を委託者兼受益者、次男の子を受託者とした信託を組み、その後長男死亡後の第二受益者を長男の妻、妻の死亡後は信託を終了させて財産を受託者である次男の子という信託を構成することで、長男亡き後の妻の生活も守られるとともに財産は父方の家系に戻すことが可能になります。
(結果的に長男が妻の死亡時の財産取得者を決めていることになります)
但し、このような複雑なスキームを組む場合は、当初の想定通りに相続が発生するとは限らないなど不測の事態が起きても対処できるよう、様々な可能性を考慮の上信託を組む必要があります。
受益者死亡により受益権が次の受益者に移るときには受益権(信託財産)が相続税の対象となります。
(上の例では、次男の子は長男の妻の相続人では無いので、相続税が課税される場合には2割加算の対象となります)
また相続された受益権は遺留分請求の対象にもなりますが、学説的には受益権が遺留分の対象となるのは最初の相続の時だけとされています。
信託開始後30年が経過し、それ以降に新たに受益権を取得した受益者がいた場合、その受益者が死亡した時点で当該信託は信託契約の定めに関わらず終了します。
これはあまりにも期間の長い信託は当初の信託目的と必ずしも合致しないという観点によるものと考えられます。
受益者連続型の信託は家族信託の応用編ともいえる仕組みで、実務上は採用されているケースはそれほど多くありません。
受益者連続型では様々なケースを想定した仕組みづくりをする必要があり、信託を組む当事者及び後継者においても充分な理解をしておく必要があります。
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