民法改正シリーズ第二弾です。
今回の民法改正では不動産の賃貸借にも大きな影響がありました。
実務面で大きな変更となったのが、個人が連帯保証人となる場合の極度額の設定です。
極度額とは元々金銭の借り入れについての借入枠(上限)という意味で使われる言葉でしたが、不動産賃貸借においては連帯保証人が責任を負う限度額という意味で用いられます。
従来の連帯保証人は自身が連帯して保証する賃借人が家賃の滞納などをした際には、その責任額は青天井(上限なし)でした。
しかしそれでは連帯保証人の負担が大きすぎることもあり、今回の法改正で極度額(上限額)が設けられ、4月1日以降は連帯保証人はあらかじめ定めた極度額の範囲内でのみ責任を負うようになりました。
また賃貸借契約で極度額が設定されていない場合は、連帯保証条項が無効になりますので貸主にとっては注意が必要になります。
今回の法改正により賃貸借契約の連帯保証人は極度額をいくらに設定すればよいのかという問題が新たに生じました。
極度額は〇〇円と具体的な金額を定額で設定する必要があるとされていますが、極度額が少なすぎては連帯保証の意味を成しませんし、多すぎては連帯保証人の抵抗感が強くなりなり手がいなくなる恐れがあります。
実務上は賃料の6ヶ月から24ヶ月の範囲で設定することが多くなるのではないかと言われておりますが、この金額には家賃の滞納だけでなく、未払いの原状回復費用などをすべて含まれていますので、貸主としては極度額一杯まで家賃を滞納されてしまっては費用の持ち出しとなるリスクが生じるものと思われます。
今回の法改正に関わらず、昨今は住宅や事業用物件の賃貸借契約においては賃貸保証会社を利用することを条件とするケースがほとんどです。
賃貸保証会社とは賃借人が家賃を滞納をした時に、貸主に対して立て替え払いをしてくれる会社で借主と賃貸保証会社の間で保証契約を結ぶことが一般的です。
但し、保険とは違い賃貸保証会社はあくまでも立て替え払いをするだけですので、賃貸保証会社は貸主に対して立て替え払いをした後は借主に対して立て替え分の請求を行います。
賃貸保証会社も立て替えする金額には上限がありますが、連帯保証人の負担額に極度額が設けられる以上、今後はさらに賃貸保証会社の利用が必須化するものと思われます。
事業用の賃貸物件においても極度額が設定されることには違いがありませんが、家賃がより高額になる傾向のある事業用物件では連帯保証についてさらに厳しい条件が設けられました。
具体的には事業用物件の賃貸借契約においては、連帯保証人に対し借主は契約に先立ち自身の財務状況を提供する義務が課せられることになりました。
これは連帯保証人としても自分が保証しようとする相手がどの様な資産状況なのかを知ることなしに保証の是非を判断することは出来ないという考えに基づくものと思われます。
この場合、提供する財務状況とは
となります。
そしてこの財務状況の提供がなされていない連帯保証は無効とされており、これは貸主にとっても非常に重要な内容です。
しかも今回の改正民法では、借主が連帯保証人候補者に対して財産状況を提供していないことを貸主が知っていた、あるいは容易に知りえた時には連帯保証人は連帯保証を取り消すことが出来ると定められているので、貸主も借主あるいは連帯保証人に財務状況の提供はしましたのか?ということを確認する必要が生じることになりました。
今回の改正により事業用賃貸借契約において個人の連帯保証は非常に難しくなりました。
何よりも連帯保証を頼む借主にしても自分の財務状況を提供することには非常に抵抗があると思われるからです
今後は法人が借主でその代表者が連帯保証人になるとか、子供の事業に対して親が連帯保証をするとか特別な関係がない限り事業用物件での個人連帯保証は難しいと思います。
4月1日以降の事業用賃貸物件の契約においては、ほぼ100%賃貸保証会社を利用することになるものと思われます。
今回の連帯保証に関する改正は、賃貸借契約における連帯保証の責任を個人から職業保証会社へ移行する動きに拍車をかけるものと思われます。
そのこと自体は悪いことではありませんが、設立間もないなど保証会社の審査を通過しない借主においては物件を借りることが難しくなるかもしれません。
また極度額の設定が連帯保証人になろうという人に与える精神的な負担も見過ごせません。
我が国の不動産賃貸借はたとえ滞納等の契約違反があっても貸主側からは容易に契約解除が出来ないという問題があり、それが連帯保証人になる人の負担を大きくする要因の一つにもなっています。
難しいのかもしれませんがもう一歩踏み込んで、家賃の慢性的な滞納など契約違反を繰り返す借主とは簡単に契約を解除できる仕組みを整えることを併せて考えることも連帯保証人問題を考える上では必要だと思います。
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