指値(さしね)をする時の心構え

不動産売買でも賃貸でもお客様が値引き交渉(指値)をすることは自由です。

この金額だったら契約をしたいという条件は人それぞれですので、その条件に近づけるべく交渉をすることに何ら制限はありません。
もちろんそれは売主あるいは貸主にしても同様ですので、売主・貸主は指値をされたからと言って必ずしも応じる義務はありません。
値段交渉は駆け引きとも言えるある種当たり前の行為です。

不動産取引 駆け引き

 

その様な両者の思惑をぶつけ合い、条件が折り合った時にはめでたく契約成立となります。
一連の取り引きにおいて大きなハードルを越えた一瞬です。

しかしここで問題となることが一つあります。
それは「契約はいつの時点で成立しているのか?」ということです。
民法では双方が合意した時に契約は成立するとされているので、口頭であってもお互いが条件を合意していれば契約は成立することになりますが、不動産取引では多くの場合契約書を取り交わした時と定められています。(判例など)
条件の合意と契約成立は全く違う概念ですので注意が必要です。

1.契約の成立

民法では契約は当事者双方が条件の合意(申し込みと承諾)をしたときに成立するとされています。
しかし不動産取引では、正式な契約書を取り交わした時あるいは手付金の授受があった場合に契約が成立するとされており(判例)、特に私たち不動産業者が取引に介在する場合には契約前に行う「重要事項説明」と「契約の締結」を書面によって行うことが義務付けられていますので、通常の不動産取引においては「契約書を取り交わした時に契約は成立する」というのが一般的な考え方となります。
不動産の取引では単にいくらで売ります・買います、あるいは貸します・借ります以外にも取り決めることが沢山あるので、単に価格を合意しただけでは契約は成立したとは言えないと判断されているものと思われます。

2.指値とは

指値とは通常買主(あるいは借主)が値引き交渉をすることを指します。
値引き交渉をするのはもちろん自由ですが、相手のいることですのでそれが通るかどうかは分かりません。
首尾よく条件交渉がまとまった場合、例えば3000万円で売り出していた一戸建て住宅を2800万円で売買することに合意したというようなケースでは、交渉としては非常に良い結果と言えますが指値をしたことにより合意から契約書の取り交わし迄の期間について契約の成立(効力?)という点で極めて不安定になってしまうという問題が生じます。
つまり2800万円で売買契約を結ぼうと話がまとまった後に、満額の3000万円で購入したいというお客様が現れたとすると、当然ですが売主は後から来たお客様と契約を結びたいと考えます。
しかし買主からすると、先に私と2800万円で契約すると約束したではないか?という主張をする訳ですが、そこで重要となるのが「不動産取引は売買契約を結んでいないと成立したとは認められない」という考え方です。
不動産取引は契約書を取り交わした時が契約の成立時点ですので、口頭での合意や単なる「買い付け申込書」と「売り渡し合意書」の取り交わしでは不十分ということになり、結果として2800万円で一度は条件合意をしていたとしても、買主は売主から「もっと高く買ってくれる人が現れたのでごめんなさい」と言われてしまうと、なすすべはなくなってしまいます。
これは売主にしても契約締結前であれば買主から「もっと良い物件が見つかったのでやっぱり買いません」と言われたところで、特段のペナルティを請求できるわけではないので、ある意味公平ではありますが、断られた当事者からすると非常に納得しがたい出来事です。
そしてもちろんこの定めは売買だけではなく賃貸借でも同様となります。

3.指値のリスク

ここで私が言いたいのは指値をすることが悪いということではなく、指値をするということにはそういうリスクが伴うのだということを理解してもらいたいということです。
お客様は気に入った物件が見つかると、自分と売主(貸主)の関係以外目に入らなくなる傾向がありますが、実際には物件を検討しているライバルは他にもいるわけで売主(貸主)はそこは天秤に掛けています。
(お客様も気に入る物件が見つかるまでは色々な物件を検討して天秤にかけているのですが、いざ良い物件が見つかると安心感からかその物件を検討している人が他にもいるということを忘れがちになってしまう傾向があるように思います)

ですので指値をして売主あるいは貸主からうまく合意を引き出せた場合には、すぐに契約を取り交わすというのが鉄則です。
指値をしていない場合でも相手方の心変わりなど契約に至らない事情は沢山ありますが、指値をした場合にはそのリスクは格段に高くなりますので注意が必要です。
ときどき「忙しくて契約にうかがえるのは2週間後になります」などと平気で仰る方がいますが、言葉は悪いですが随分呑気だなと思います。
物件が決まったというのは契約を結んだ後の話しで、それまではあくまでも最有力の取引相手という地位にいるに過ぎず、その地位は意外と安定的なものではありません。
ご自身の権利確保のためにもその点は充分ご理解をいただけたらと思います。

 

山登りに例えると契約の成立を頂上だとすると、条件の合意は八合目ぐらいの感覚でしょうか。
随分高いところまで苦労して登ってきたことには違いがありませんが、まだまだゴールではないのです。
そのことを私たち不動産業者は経験上よく知っていますが、お客様には中々実感としてご理解いただけない部分だと思います。
意外とよくあることなのでご注意いただけたらと思います。

 

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