土地の評価額と時価

相続においては土地の価額をどう見積もるのかが非常に重要です。
土地の評価額には「相続税計算上の評価額」と遺産分割協議や実際に売却を検討する場合の「時価」の二つがありますが、この算定は単に重要というだけでなくややこしい部分が非常に多いです。
同じ面積の土地であっても相続税計算上の評価額は同じではありませんし、時価に至っては土地の形状や立地などの諸条件によりさらに大きく価額が異なります。

1.相続税計算上の評価額

相続税を計算するにあたっては土地の評価額がいくらになるのかということが相続税額に対して非常に大きな影響を与えます。
これは一般に土地は財産としての価値が高く、財産に占める価額の割合が大きいことに由来します。
土地の評価額は市街地の土地であれば路線価という各道路ごとに付された評価額を基準に計算します。
路線価とはその道路に面した土地の1㎡当たりの価格を国が定めたもので、整形地であれば「路線価×土地の面積」という単純な計算式により計算することができますが、実際には土地の形は千差万別なのでこの式を基本として様々な調整を行います。

例えば次のような土地があったとします。

土地の評価額と時価 例7

面積は同じ300㎡ですが道路に対して「横に長い土地」と「縦に長い土地」という違いがあります。
相続税計算上の土地評価額は前面道路の路線価に面積を掛けますが、奥行きが標準的な距離よりも短かったり長かったりする場合には利用上の制約があるという考えから補正(評価減)が認められています。
これを「奥行価格補正」と言います。
但し、その補正(減額)割合はそれほど大きなものではなく、住宅地であれば標準的な奥行きは10m以上24m未満となり、それよりも奥行きが短い場合や長い場合には補正が行われますが、その割合は最大で20%減で通常は5~6%減程度になることが多いです。

ちなみに上の図で言うと左の土地は奥行きが15mなので補正率はゼロ(1.00)、右の土地は2%減(補正率0.98)となります。(普通住宅地の場合)

仮に前面道路の路線価が㎡当たり15万円だったとすると、左の土地は

15万円×300㎡×1.00=4500万円

となるのに対し

右の土地は

15万円×300㎡×0.98=4410万円

と僅かですが評価が低くなります。

また実際には間口と奥行きの比率によっても利用効率は変わりますので、その観点からの補正も入ります。(奥行きは標準的な15mであっても、間口が3mしかなければ有効な土地利用が出来ないという観点です)
これを「奥行長大補正率」と言い、詳細は割愛しますが右の土地であればこれも補正割合は0.98となるため、右の土地の場合は

4410万円×0.98=4321.8万円

が土地の評価額となります。

左右の土地の価格差は178.2万円(乖離差3.96%)となり、これがそれぞれの土地の相続税計算上の基準となる価格となります。
しかし実際に上記のような土地があった場合には、時価ではもっと大きな価格差が生じると思われます。
一概には言えませんが相続税計算上の土地の評価額は時価よりも形状による価額の乖離は小さくなる傾向があり、時価は決して高くないのに相続税計算上の評価額は高く結果として相続税負担が大きくなってしまうというケースは少なくありません。

尚、実際の土地の評価では奥行きの距離や間口と奥行きの比率だけではなく、様々な補正項目が設けられている上、土地の形状も様々ですので実際の相続税申告の際には税理士による土地の評価が必要になります。

2.時価

次に時価の比較をしてみたいと思います。
時価とは一般に商品としての価格という意味ですので、土地であれば実際に取り引きされる価格あるいは取引されるであろう価格を指します。(ですので時価と言っても「取引されるであろう」価格の場合には幅があるのが普通です)
相続に関連して土地の時価を評価するケースは主に2つあり、一つは遺産分割協議をする場合の基準としての評価と、実際に売却を検討する場合の目安としての評価となります。

今回も例として同じ大きさの「横に長い土地」と「縦に長い土地」を比較してみたいと思います。(実際にはあり得ませんが立地などの諸条件も同じとします)

土地の評価額と時価 例7

一般に土地は間口の広い土地の方が奥行きが広い土地よりも動線の確保など建物建築上の自由度が高いため時価が高くなります。
また土地の時価は相続税計算上の路線価ベースの価格と近いこともあればはるかに高くなるということもありますが、一般にさいたま市などの首都圏市街地の時価は路線価よりも高くなる傾向が強いです。

例えばこの土地が比較的人気の高いさいたま市某駅徒歩10分の土地であれば路線価の1.5倍前後になることも珍しくありません。
この場合、路線価が㎡当たり15万円であれば時価は1.5倍の22.5万円程度になる可能性がありますが、この場合も間口の広い土地であれば更に高くなる可能性がある一方で間口が狭く奥に長い土地であればそこまでの高値にはならない可能性もあります。

また間口が狭く奥が広がっているいわゆる「旗竿地」では土地の利用は制限されてしまうため時価は路線価並みか場合によってはそれよりも下がってしまうこともありえます。
また万が一間口が2m未満であれば建築基準法という法律により建物を建てることすらできず、好立地にあったとしても極端に価値の低い土地となってしまいます。
相続税路線価に基づく評価額が理論値なのに対し、時価は個別事情に基づく絶対評価なので土地の形状等により人気のある土地と人気のない土地のふり幅は大きく、人気のある土地の価額が青天井なのに対し、不人気の土地では取り引きすら成立しないという極端な差が生じることが珍しくありません。

 

一般にこの様な旗竿地は利用がしづらいと考えられるため時価は安くなってしまいますが、
竿の部分が程よい距離であれば車を駐車するのにちょうどよく、道路に面していない分静かでしかも価格も安いと積極的に評価する方もいます。
不動産は同じものが二つとない個別の商品ですので、少数でも「良い」と評価する方がいれば高値での取引が成立することもあります。

旗竿地

 

上で掲げた300㎡の土地についてこの土地が住宅地の場合、土地の形状とは別の観点でそもそも300㎡という広さが時価評価上のネックになることもあります。
つまり土地の広さがそのエリアの標準的な広さと比べて広すぎると買い手が少なくなるという問題です。
もちろん300㎡(約100坪)を超える広い敷地に家を建てたいという方は少なくありませんが、路線価ベースで㎡当たり15万円で総額が4000万円を超える土地の場合の場合、その上に一戸建てを建築するとなると総額で6000~7000万円ぐらいの価額になってしまい購入者層のボリュームゾーンからは外れてしまいます。
その場合、この土地を分割して小さくして売却出来ないかと考えることになりますが、実は一つの広い土地を分割して売却するには宅建業の免許が必要となり、そもそも一般の方は土地を分割して複数の買主に直接売却をすることはできないという問題があります。(不特定多数の人への不動産の売却は「業」と見なされてしまうためです)
広い土地を分割して売却をするためには、一度宅建業者に土地を卸してから販売する必要があり、土地所有者様から見ると買主は不動産業者でありそこで売買関係は終了してしまいます。
通常、不動産業者は土地を転売する目的で購入するわけですので、利益や経費などを見込む必要がある分買い取り価格(土地所有者様からすると売却価格)は安くなってしまいます。
そしてその場合にも土地の形状が大きく売却価格に影響を及ぼします。

広い土地を分割して売却

 

土地を売却すようとした場合、立地や土地の形だけでなく土地の広さがそのエリアにおける標準的な画地であるかという点が非常に重要になります。
例えば300㎡では広すぎると判断される場合には、不動産業者に一括で売却するという方法を採ることになりますが、不動産業者にしてもその土地をそのまま売るということはせずに分割して売却を図るのが普通です。

その際に下の図のように間口の広い土地であれば3分割してもロスが出ないので不動産業者も高い金額をつけやすくなりますが、

区割り図

間口が狭いと分割がしづらくロスが出てしまいその分価額は下がってしまいます。

区割り図

土地の時価は大きさや形状によって大きく価額が異なりますので、近所の土地がいくらで売買されたという周辺相場感以上に、対象となる土地の個別性の方がはるかに価額に大きな影響を及ぼします。

相続財産に土地がある場合、遺産分割協議は時価をベースに協議をするのが原則ですし、相続財産である土地を売却して分割する場合でも(換価分割と言います)、そもそも土地がいくらで売れそうだという相場観は非常に重要です。
結果的に遺産分割協議においては、土地の時価について相続人間で合意が得られるかどうかが相続手続きにおける大きなポイントになることが少なくありません。

相続問題はつまるところ不動産の問題という性格が少なからずあります。
相続税を減らすのも増やすのも不動産次第、遺産分割協議が揉めるも揉めないも不動産の取り扱い次第という部分があるからです。
いずれにしてもその不動産にいくらの価値があるのかということが重要ですので、そういう意味でも相続不動産における相続税計算上の評価額と時価の考え方、あるいは関係性を知ることは相続に向かい合う上で非常に重要な問題だと言えます。

 

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