相続のご相談~大宮で多い事例

地元の知り合いの方と立ち話しをしていると「うちも相続のこと考えないとなー」というお話しになりました。

聞けば高齢のお父様とお母様がいて、お父様はデイサービスを利用していて、お母様は既に施設に入所されているとのこと。
地元で古い方なのでご両親のご自宅は比較的駅に近いいわゆる”良いところ”にあり土地は時価にすれば数千万円になると思われます。
一方、その上にある建物はかなり年数が経過しておりそのまま住み続けるには少し難がある感じです。

またお父様の相続を考えた時の相続人は、奥様(配偶者)とお子様が二人。
そのうちのお一人が今回の私の立ち話のお相手なのですが、お二方ともすでに独立されていてそれぞれがご家庭を持ちご両親とは同居していません。

「相続税がかかっても払うの大変だしなー」

そういう切り口で始まったお話しですが、実際に相続問題として考えたときにはどのような問題があるのかを考えてみました。

 

円満な家族

 

1.相続税

ご本人が「相続税が心配」と言っていますのでまずは相続税の方から考えてみたいと思います。
実際問題としては相続税は自宅以外に財産がどれくらいあるのかによって税額が大きく変わりますので税の負担額がどれくらい重くなるのかは一概には言えません。
ただ相続人が3人いますので基礎控除は4800万円(3000万円+600万円×3人)となり、相続財産の評価額がこの金額以内に収まればそもそも相続税は課税されません。
また、評価額がこの金額を超えたとしても、自宅以外の財産がそれ程多くないのであれば、配偶者の税額軽減措置などと組み合わせることでそこまで税負担は大きくはならないことが多いです。(とは言え百万単位のお金になる可能性はあります)
因みに相続税計算上の財産評価額は、現金などは相続時点の残高がそのまま評価額となりますが、不動産の評価額は時価よりもだいぶ低く計算されるのが普通です。(首都圏の土地の時価が高いエリアの場合です)
さらに相続税には相続税計算上の軽減特例もありますので必ずしも自宅の土地の時価が高いからと言ってその金額がそっくりそのまま評価額になるわけではありません。(特例適用には要件があります)
また自宅以外の財産がそれなりにあった場合でも、それが現金であれば、例えば相続財産の総額が1億円程度で仮に法定相続分で遺産分割をした場合の各人の相続税額は、

  • 配偶者(法定相続分1/2なので5000万円)→ 配偶者の税額軽減により相続税ゼロ
  • 子A(法定相続分は1/4なので2500万円)→ 相続税額145万円
  • 子B(        〃         )→ 相続税額145万円

となり相続財産に相応の現金があれば、相続税の支払いは相続財産の現金で賄うことができるため納税そのものは可能です。
但し、相続税は相続財産を孫や兄弟姉妹など1親等の親族以外の人が相続した場合には2割加算となりますので注意が必要です。

相続税に関しては相続人が3人で相続財産が1億円程度までであれば、相続財産にある程度の現金があれば納税ができずに不動産を売却して支払わなければならないという事態にはそうそうはなりません。
但し、残された配偶者がいる場合の相続後の生活を考えると最も必要な財産は家とお金になるでしょうから、相続後の(納税後の)資金や生活の事情についてもどの様な備えが必要なのかという観点からも相続財産の構成を検討する必要があると言えます。

2.遺産分割

次に遺産分割という観点で考えてみたいと思います。
実は私がお話しを伺っている限りではこちらのほうがより心配な点があるように思います。
ただここからの内容は私のお話し相手の方の事情をベースにはしていますが、むしろ遺産分割協議における一般的、普遍的な留意点としてお読みいただいた方が良いと思います。
金額の問題である相続税に比べ、感情が絡む遺産分割協議は揉める要素が複合的に絡むためより解決が難しいことが多いです。

①遺言が無い

まず相続財産の分配についてご両親が法的な意思表示をしていないという点はリスクとして挙げられます。
揉めない遺産分割の大原則は、「被相続人(亡くなる方)が遺産分割の道筋を作っておく」というものですが、それがなされていない場合(と言ってもこれがよくあります)、相続財産は相続人全員による遺産分割協議にそっくり丸投げされてしまいます。
つまりご両親や一部の相続人の方が何らかのビジョンを持っていたとしても、それが遺言等で法律的に意思表示がなされていない限りは必ずしも実現するとは限りません。
(少なくとも孫や第三者など相続人でない方に財産を渡すことは非常に困難です)
遺言等が無い場合、相続財産は相続全員による遺産分割協議に委ねられることになりますが、その場合に仮にお孫さんに財産を取得させようと考えるのであれば、一度相続人が財産を取得し、その財産を改めてお孫さんに売却したり贈与をするしかなく、その場合には売却であれば売った人に所得税(譲渡所得税)が、贈与であれば贈与を受けた人に贈与税が課税されることになります。(但し、贈与税が課税されない贈与の仕方もあります)
これらの税金は相続税よりも高額になることが多く、あまり現実的な方法ではありません。

②認知症

次にお母様が既に施設に入所されているということですが、万が一お母様が認知症等になり意思能力を喪失してしまうと遺産分割協議の当事者になることが出来なくなってしまうというリスクがあります。
その場合でも遺言があればその内容に従って遺産分割が出来るのですが、そうでない場合にはお母様に後見人を立てて遺産分割協議などの法律行為を代わりに行ってもらうしか方法はなくなります。
またその後見人も相続財産が数千万円になると弁護士等の専門職後見人が選任される可能性が高くなります。
さらに後見人による遺産分割協議は必ず法定相続分となりますので、自宅以外に現金があればまだ良いのですが、もし自宅が主たる相続財産であるという場合には自宅を法定相続分で共有するか売却して現金を法定相続で分割(換価分割)するというケースが考えられます。
共有された不動産は、処分(売却や建て替え)をするには共有者全員の合意が必要になるため、財産を守る立場の後見人を交えた共有の場合には処分の合意が得られる可能性はかなり低く、実質的に不動産が塩漬けとなるリスクが高くなります。
また専門職後見人に支払う報酬は月額数万円となり、原則それが後見を受けた方(被後見人)がご健在である限り一生涯続きますのでその負担はかなり重いものがあります。

③遺産分割協議

繰り返しになりますが遺言等が無い相続の場合、相続財産は相続人全員による遺産分割協議に委ねられます。(遺言等の「等」には死因贈与など遺言と同じ効果を持つ手続きを含んでいます)
遺産分割協議では相続財産の分配や処分について相続人が話し合いで自由に決めることが出来ますが、それだけに話がまとまらないということがよくあります。
特に相続財産が自宅などの不動産だけの場合、その不動産に価値があれば誰がその不動産を相続するのかということが当然問題になります。
遺産分割協議は必ずしも法定相続分に合わせなくてはならないという決まりはありませんが、各相続人は法定相続分をもらう主張をすることはできます。
相続人全員がその不動産を欲しがり、結論が出ない場合には最終的に

  1. 法定相続分で共有
  2. 売却して法定相続分で分配
  3. 不動産を相続する人が他の相続人にそれに見合うお金などの財産を自らの負担で給付する(代償分割)
  4. 訴訟→訴訟の結果、上記1~3のいずれかの方法を採ることになる可能性が高いです

という方法を採ることになります。
しかし共有は前述の通りその不動産が塩漬けになってしまうリスクが高くなるため極力避けるべきですし、売却ではその不動産を手放すことになってしまいます。
また代償分割は不動産を相続する相続人に自己資金が無いと取ることのできない方法ですし、そもそも代償金がいくらであれば適正なのかという点で揉める可能性が高くなります。

一方、相続財産が不動産と現金の場合は話が大きく変わります。
昨今は土地神話も薄れ不動産よりも現金が欲しいという相続人の方が増えました。
特に土地上に古い建物が建っている場合、その取り壊し費用やその後の活用方法の検討、その際の資金手当てなど煩わしい点も多く、その場合には相続人による現金の取り合い(=不動産の押し付け合い)になることも少なくありません。
現実的には揉める遺産分割協議にはほとんどの場合で不動産が絡んでいるというケースが非常に多いです。

④遺産分割協議が揉める理由

不動産があると遺産分割が揉めやすいというのは事実ですが、それ以外にも遺産分割協議が揉める原因はあります。
以下に主なものを取り上げてみたいと思います。

ア.認識の甘さ

一番多いのが、何となく相手(他の相続人)は理解してくれるだろうと甘く考えているケースです。
相続は見方を変えると、多額の財産がポンと手に入る特別な機会だという性格があります。
しかも各相続人には「法定相続分」という強い後ろ盾があるのです。
親と同居して親の老後の面倒を見ていた相続人が、親が亡くなった後は自分が自宅をもらえるものと考えていたら、相続発生後に他の相続人から法定相続分の主張をされ泣く泣く自宅を手放さざるを得なくなったという話しは実によくある話しですのでご注意ください。

イ.相続人の家族の干渉

相続人の間では話がまとまっていても相続人の家族が納得せず遺産分割協議がこじれるというケースは少なくありません。
しかしそれぞれのご家庭にも事情があり、子供の進学や収入の多寡、体調の不安など切実にお金が必要な事情は各ご家庭にあります。
その様な時にみすみす相続人が自身の相続分の主張をしないとなれば家族としては当然黙ってはいられないというのはある意味当然なのかもしれません。(法律的には何の権限もありませんが)
法律的な遺産分割協議は相続人だけで行うものですが、実際には家庭と家族による話し合いという側面があるという点には注意が必要です

ウ.過去の不満

上でも少し触れましたが、親の面倒を見た相続人とみていない相続人では主張は異なることが多いです。
面倒を見た相続人は自分の時間を削って苦労をしたと言いますし、離れていた相続人はその分家計は楽だったのでは?ということがよくあります。
また相続が発生するよりも随分前の話しが蒸し返されることもあります。
ある相続人は家を建てる際に親から資金援助を受けていたとか、あるいはある相続人は子(被相続人からすると孫)の進学費用を出してもらったなどという話しが相続をきっかけに噴出することがあります。
現実問題として誰がいついくらの援助を受けたのかということがはっきりすることはほとんど無く、結果としてお互いの不信感だけが残ることになりかねません。
またそれどころか「いつもお兄ちゃんは贔屓されていた」とか「末っ子だから甘やかされていた」といったお金とは違う幼少期の不満まで出てきてしまえば、円満な遺産分割協議など望むべくもありません。

3.どうすればよいのか?

実は相続問題にこうすれば万事うまくいくという方法はありません。
各ご家庭の事情や考え方に応じて、オーダーメードで対策を検討するしか方法はありません。
ただオーソドックスな考え方をするならば、まずは相続税が心配であるのであれば相続税に強い税理士に相談をして、今のままだとどれくらい相続税がかかるのかを計算してもらうことは必要だと思います。
しかし相続税額は遺産分割の仕方によって大きく変わりますので、これはある程度遺産分割とも絡むお話しであることは理解しておく必要があります。
また相続税額が安くなりさえすれば良いという対策は遺産分割協議という観点からするとマイナスに働くことも良くありますのでご注意ください。
それと配偶者(お母様)はそもそも配偶者の税額控除により評価額1億6千万円(または法定相続分)までは相続税が課税されませんが、だからと言って安易にお母様が全ての財産を相続してしまうと、今度はお母様が亡くなった時の相続(これを二次相続といいます)の相続税負担が大きくなってしまう可能性があります。
これは相続税は相続人が減れば減るほど税額負担が大きくなるという計算上の性質があるためですが、非常に注意が必要な論点です。
さらにお母様が大方の財産を相続した後に判断能力を喪失してしまうと、お母様の財産は後見人を立てない限り法律上は全て凍結することになってしまうというリスクがあります。
相続税の検討とは言っても単に目先の税額が安くなれば良いというものではなく、二次相続対策や認知症リスクまでを考えて、相続財産の分け方を検討しトータルでの相続税額の見込みを立てた上で節税対策などを考える必要があります。
また相続税の検討を進める過程を通じてあるべき遺産分割の形も見えてくることがあります。
本来、相続対策は相続税の対策よりも遺産分割の対策の方が重要で難しいと言われていますが、円滑な話し合いをするためには相続税をきっかけにしたほうが話しがはじめやすいという場合があるからです。
こんなに相続税がかかるのなら負担が軽くなるように頑張ろうと、共通の敵を作るイメージで遺産分割の内容を詰めていくというのも一つの方法です。
その遺産分割ですが、そもそも遺産分割では各相続人には法定相続分というものが定められていますが、じつは法定相続分には強制力がありません。
法定相続分はあくまでも遺産分割の目安であり、絶対的な効果が生まれるのは裁判になった場合の最終的な遺産分割としての割合ぐらいしかありません。
実は当事者間で行う遺産分割協議が法定相続分でまとまるというケースは、相続財産が現金だけとか不動産を共有するといった特殊な場合に限られるのが実情です。
現実問題としてお父様とお母様が健在の内であれば、遺産分割が大きく揉めるというケースはそこまで多くはありません。(例外は多々ありますが)
遺産分割協議が揉めに揉めるのはお父様が亡くなり次いでお母様が亡くなり(順番は逆の場合もあります)、親という歯止めの亡くなった後の相続です。
遺産分割の基本は親が健在のうちに、親の意見を踏まえつつ合意を形成し、それを遺言等法律的に効力のある形で固めておくことです。
但し、特定の相続人が偏って財産を相続する内容の遺言では他の相続人に対する遺留分侵害が発生してしまい、結果的にまた揉める火種になってしまうことがあります。
遺言は各相続人の遺留分を侵害しないということも鉄則の一つです。
(遺留分は法定相続分の1/2が基本ですが、直系尊属だけが相続人の場合には法定相続分の1/3となり、兄弟姉妹相続人には遺留分はありません)

 

ここまで読んで頂いただけでも、考えることがありすぎてもう勘弁してほしいというのが本音ではないかと思います。
しかしこれがごく一般的なご家庭で起きている現実の相続なのです。
相続問題の解決は正解が一つとは限りません。
相続手続きがあっさりと終わるご家庭もあれば、揉めに揉めるご家庭もありますが、生前に何も対策や準備をしていない場合にはどのような相続になるのかは蓋を開けてみるまで分かりません。
むしろ世間的に一番多いのは相続人全員が心から納得する遺産分割が難しい以上、どこかに不満を抱えつつも飲み込んでまとめるというケースの方が多いように思います。
原則は親を中心にある程度公平な財産の分配、過度な負担の無い相続税額の2つの問題をクリアする遺産分割の方向性を検討し、相続人の間で合意が出来たらそれを遺言等により強制力のある形でまとめるという生前の対策が相続対策の基本的な考え方となります。
その気になるならないに関わらず相続はいずれ必ずやってきますし、相続対策は実に幅広い検討が必要な問題ですので、ぜひ相続に詳しい専門家にご相談をいただき問題点の洗い出しとあるべき対策を検討していただけたらと思います。

 

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