相続の大原則!【時価】と【評価額】の違い

相続で重要なのは「遺産分割を”争族”にしないこと」と「相続税の負担を少なくすること」です。
もちろん納税資金を用意することや認知症対策も同様に大切なのですが、今回はちょっと横に置いておいて、「遺産分割」と「相続税計算」における財産の評価額に関する大原則について話してみたいと思います。

「遺産分割協議」を行うにしても「相続税の計算」をするにしても、前提となるのは相続時に被相続人が残した財産の棚卸し(リストアップ)と財産評価です。
遺産分割も相続税も、その対象となる財産の種類と価額が確定しなければ話が進まないので、これは当然です。

ところでその財産の評価額について、実は「遺産分割」と「相続税の計算」とでは非常に大きな違いがあります。
簡単に言うと、遺産分割における財産の評価額は「時価(=市場価格)」となり、相続税計算における評価額は「相続税計算上の評価額」となります。
但し、「時価」と「相続税計算上の評価額」が同じ財産もあり、具体的には「現金」や「預貯金」が該当します。
例えば預貯金であれば、相続が発生し、被相続人の銀行口座に1000万円が残されていた場合、この1000万円が遺産分割の対象となる「時価」であり、相続税計算上の「財産評価額」となります。
現金はその価値が明確で、「時価」と「相続税計算上の財産評価額」が同じと言われても違和感なくご理解いただけるところだと思います。
では逆に「遺産分割協議における時価」と「相続税計算上の評価額」が異なる財産には何があるかと言えば、代表的なものが不動産です。
それ以外にも「株などの有価証券」や「生前贈与」なども該当します。
ややこしいかもしれませんが、これは相続手続において非常に重要な考え方となりますので、少し詳しくご説明をさせて頂きます。

 

財産評価

 

1.遺産分割協議における時価とは

遺産分割協議における時価とはよくお寿司屋さんなどでも見かけるあの「時価」と同様、その時その時で取引される金額が変動する価額のことを言います。
例えば相続財産に不動産が含まれている場合、その価額は常に変動しますし、最終的には実際に売ってみないと本当の時価は分かりません。
しかし現実問題としては、相続=不動産の売却ということではありませんので、ある程度理論的に時価を算定して遺産分割協議をする必要が生じるわけですが、同じ不動産であってもA不動産鑑定士とB不動産鑑定士がつける価額は異なりますし、C不動産業者とD不動産業者が査定する市場で売却できるであろう価額も異なります。
つまり遺産分割協議をしようとする場合、「この不動産は一体いくらなのか?」という点を合意しない限り、不動産の遺産分割協議を進めることが出来ないということになります。
また株などの有価証券も日々価格が変動しますので、いつ遺産分割をするかによって時価が変わるという問題があります。
遺産分割協議における財産の価額評価時点は「遺産分割をする時」なので、相続発生時に1000万円の価値があった株式が、遺産分割協議をする時には500万円になっていたということもあり得ない話しではありません。
株式などの有価証券は比較的その時点の時価は把握しやすい財産ですが、価格変動が大きすぎるという難点があることには注意が必要です。
生前贈与された財産(特別受益)については遺産分割協議においては「現在の価値(時価)に持ち戻す」というルールがあります。
しかし20年前に親から贈与を受けた土地や現金を現在の価値に持ち戻すといくらなのか?と言えば、これがかなり難しいということは容易に想像がつくと思います。
今の時点の時価ですら話しがまとまりづらいのに、その昔の財産を今の価値に持ち戻すには物価上昇率などを加味して相続人同士で合意をしなくてはなりません。
遺産分割協議における財産の評価には「時価の合意」という大きな問題があることをご理解いただけたらと思います。

但し、遺産分割協議における「時価」の確定については一つだけ良い点があります。
それは「当事者が合意さえすればそれが時価になる」ということです。
不動産にしても、「大体いくらぐらいだよね」という程度で相続人同士で合意できれば、不動産鑑定士や不動産業者による鑑定や査定は不要です。
それどころか、「不動産はおれが相続するから、お前は貯金を相続しろよ」といった合意が出来るのであればそもそも時価がいくらなのかという擦り合わせすら必要ありません。
つまり遺産分割協議で「財産の時価がいくらなのか?」ということがシビアにクローズアップされる相続というのは、その時点で「争族」になる可能性をはらんでいると言ってもよいのかもしれません。

2.相続税計算における「評価額」

実は相続税計算における評価額も「時価」で行うものとされています。
但し、上でも書いた通り時価の確定には様々な議論がありますし、そもそも相続税は納税者の申告納税制度を採っていますので、納税者の自由な財産評価を認めれば、当然財産評価額は安く見積もられるのは自明です。
そこで国税庁は相続税計算上の評価額について計算の指針(財産評価基本通達と言います)を設けており、そこで定められた相続税計算上の評価方法が実質的な相続税計算上の財産評価の基準となっています。
また相続税計算上の財産評価時点は「相続が発生した時」と決められていますので、遺産分割の様に相続発生時と時点がずれるという問題はありません。

相続税計算上の評価額について、最も影響が大きいのはやはり「不動産」です。
土地は路線価という相続税や贈与税を計算するために付せられた土地の価格をもとに計算し、建物は固定資産税評価額を基準とします。(路線価が定められていない地域では土地の固定資産税評価額を基準に所定の倍数を乗じます)
路線価は「およそ時価の80%」が目安とされていますが、この時価というのも「実際にいくらで売れる」という現実的な市場価格ではなく、公示価格(基準価格)という国や県が年に1回主要ポイントごとに定める価格を基準にしていますので、現実の取引価格とは大きく乖離することがあります。
さらに不動産の評価額はさまざまな特例により引き下げることも可能ですので、最終的に相続税計算上の評価額はいわゆる「時価=市場での取引価格」とは全く異なった価額になることが多いです。
都心部などでは実際の取引価格と比べ評価額は半分以下になるということも珍しくなく、この特徴を利用したのが「不動産を利用した相続税の節税対策」となります。
またそれ以外の財産については次の通りの評価額となります。

・「株式」の相続税計算上の評価額
株式は相続開始時点を基準にしますが、相続発生月、その前月と前々月の終値の平均と比較して一番低い価額を評価額とします。
株式の相続税評価額の確定は比較的簡単です。
またその他の有価証券等についても所定の評価方法が決められています。

・「生前贈与」の相続税計算上の評価額
相続税の計算では、生前贈与は相続開始前3年以内に行われたものが持ち戻されて課税対象になります。(相続で財産を受け取った人が受けた生前贈与が対象です)
持ち戻される価額は贈与時の価額となり、例えば不動産の贈与が行われている場合には、通常は贈与税の申告をしていることが多いと思われますので、その価額のまま持ち戻すことになります。

相続財産の「時価」と「評価額」を考える時には、遺産分割と相続税の計算では対象となる金額が違うということがまず重要になります。
遺産分割協議は遺産分割をする時点の「時価=市場価格」を基準に行い、相続時税の計算は相続開始時点における「相続税計算上の評価額」を基準に行うということをご理解ください。

 

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