賃貸仲介手数料1ヶ月は取りすぎ訴訟

少し旧聞に属しますが、今年の8月に不動産業者としてはあまり触れたくない内容の高裁判決が下されました。

仲介大手の東急リバブルが家賃月額24万円の賃貸住宅の賃貸借契約において、賃料1ヶ月分の仲介手数料を借主から受け取ったとして訴えられた裁判です。

 

仲介手数料半額訴訟 1ヶ月分は取りすぎ

法律では賃貸物件の仲介においては、貸主・借主双方が支払う仲介手数料の合計額は賃料の1ヶ月分を上限とすると定められています。
つまり本件の様に賃料24万円の賃貸物件であれば、仲介手数料は24万円(税別)が上限になるということで、その点については本件においても問題は無いように思います。

しかしその1ヶ月分の仲介手数料を誰が負担するのかという点について、法律では居住用物件の場合、貸主・借主がそれぞれ0.5ヶ月分を負担することを基本としていて、例外的に「不動産業者が事前に(=仲介の依頼を受けた時に)貸主または借主から承諾を得ている場合には、どちらか一方から1ヶ月分を受け取っても良い」としています。
つまり、東急が借主から1ヶ月分の仲介手数料を貰おうとするのであれば、そのことについて借主から事前に承諾を得ておく必要があったということになります。

<仲介手数料の仕組み>

仲介手数料の仕組み

 

今回の訴訟では、東急は借主から仲介手数料を1ヶ月分もらっていたわけですので、そのことについて「仲介依頼時に承諾を得ていたのか」という点が問題になりました。
入居申込書には「仲介手数料賃料は1ヶ月」と書いてあったということなので、その時点で承諾を得ていることにはなるのですが、判決は承諾を得る必要があるのは仲介を依頼する時点であり申し込み時ではないので(東急は申込時が正式な仲介の依頼時点と主張)、東急は法に定める承諾を得ていなかったとして東急側の敗訴を言い渡しました。

私の個人的な意見では、借主は仲介手数料1ヶ月と明記してある「入居申込書」を自分の意思で提出しておいて、後で文句を言うのはいかがなものかと思う反面、本質的な問題点は別の部分にあるように思います。
すなわち本来、居住用の賃貸物件の仲介手数料は貸主・借主双方が0.5ヶ月分ずつを支払うことが原則であり、「あくまでも例外として、仲介の依頼を受けるにあたって承諾を得ている場合に限り、片側の当事者から1ヶ月分の仲介手数料をもらうことが許されている」ということを、きちんと借主に伝えていたのか?という点にあるのではないかと思うのです。
本件の借主には本来支払わなくても良いはずの仲介手数料を支払わされたという怒りがあり、その正当性を裁判に訴えた結果、その承諾を得たのがいつなのか?ということが問われこのような判断になったのではないかと推測します。
(そのようなことは記事には書いていませんし、裁判記録も見ていないので私の完全な推測ですが・・)
裁判の行方という観点では、東急側は既に上告をしており、いずれ最高裁で最終的な判決が下されますのでその結果を待ちたいと思いますが、問題になるのは実務です。

事実としてこの手数料に関する定めを知らない不動産業者はいませんが、それをきちんと借主に説明している不動産業者は極めて少ないと思われます。
慣習的に「仲介手数料は1ヶ月分です」と伝えているだけのことが多く、その理由は言わずもがなで、それを詳しく説明するとじゃあ0.5ヶ月分しか払いませんと言われるのが嫌だからです。
なので、多くの場合で今回の事案の様に入居申込書への記載をもって承諾を得たと自己判断しているケースが殆どで、これは恥ずかしながら弊社も同様です。
今回の判決の言わんとするところは、この原則を知らない借主に、単に「仲介手数料1ヶ月」という入居申込書に記載させたことをもって仲介依頼時の承諾を得たとすることは法の趣旨に反するということを指摘しているのだと私は思いました。

実務上、少なくとも今後弊社では居住用の賃貸物件を借りたいというお客様がご来店されたときには、その旨を正直にお伝えするようにする必要があると考えます。
そして、その上で率直に言えば、物件を借りたいという方が仲介手数料は法律の規定通り0.5ヶ月分しか払わないけれど物件を紹介して欲しいと言うのであれば、弊社では申し訳ないですが基本的にはお断わりするか、高額物件に限り割引をするという対応しかないと思います。
理由は一言で言えば割に合わないからで、裁判になった20万円以上の賃料の物件であればまだしも、賃料10万円以下の物件を手数料0.5ヶ月分で応対するのは難しいというのが本音です。
仲介の仕事というのは、物件を探して紹介して、案内の段取りを組んで現地に案内し、気に入った物件があれば契約条件の交渉をして、最後に契約をして引き渡しをする。
言ってみればこの繰り返しなのですが、基本すべての作業で人が動く典型的な労働集約型産業なのでこなす仕事量にはおのずと限界があります。
しかも成約して初めて報酬を頂ける成功報酬型の手数料体系ですので、成約率を考えると例えば賃料8万円の物件で頂戴する仲介手数料が半月分の4万円では事業としてはちょっと厳しいです。

今回の判決は、不動産業者としては色々思うところもありますが、割り切ってしまえばあるべき姿を正直にお伝えして、どうするのかをお客様に判断していただくとともに、こちら側も判断をさせていただくという方が、気持ち的にはスッキリするのかもしれません。

実際問題としては、ここでは触れませんが不動産賃貸における仲介手数料には他にも色々と取り扱いがグレーな部分が多々あって、そのことは不動産業者も大家さんも、もっと言えば監督官庁も知らないはずはないのです。
それでもグレーがグレーなままであるのは法律の定めを厳格に運用していると不動産の賃貸仲介業が成り立たないからで、今回の一件もそのグレーに甘えていた部分が消費者の訴えによって明るみに出たということが言えると思います。

何が正しいのかは分かりませんが、今回の様な問題が起きれば我々は対応をせざるを得ず、その結果が不動産業界にとって良い方向に行くのかはわかりませんし、もっと言えば消費者にとって良い方向に行くかもわかりません。
そもそも法律が実態と合っているのかという問題もありますし、考えることはたくさんあると思いますが、いずれしてもそういうきっかけになった一つの判決なのだと個人的には考える次第です。

 

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