身寄りなき高齢者 保証人なく入院「拒否」も

16日付の読売新聞朝刊の記事です。

高齢者 保証人なく入居拒否

身寄りがない一人暮らしの高齢者が、医療サービスを受けることに苦労している現状についての記事です。

医療機関からすると、身元保証をしてくれる人がいないということは、

  1. 緊急連絡時の対応
  2. 費用の支払い
  3. 退院や退所の支援
  4. 手術など医療行為への同意
  5. 遺体や遺品の引き取り(死後対応)

に不安があるということになります。
文中では「医師法では正当な理由なく患者の受け入れを拒否できないとし、保証人がいないことを理由に入院を拒否することは同法に触れる」とも書いていますが、そういう指摘は問題の根本的な解決にはなりません。

これは私たちの不動産業界でも同じような問題があるのでよく分かります。
借地借家法というアパートやマンションを借りる際に適用される法律と判例は、「住宅」という生活の基盤を、「弱者」である入居者(賃借人)が失う事態を極端に制限しています。
つまり契約書には賃貸借期間が定められていますが、この期間はせいぜい更新料をもらう目安にすぎず、契約満了期日が来ても入居者が同意しない限り契約は終了しません。
これは入居者が家賃を支払わない場合でも同様で、家賃の不払いを理由に貸主が賃貸借契約を終了させるためには、貸主が裁判所に訴え→勝訴→強制執行という手続きが必要になり、月々数万円の家賃の滞納のために100万円単位のお金が必要になることもしばしばです。

なので、不動産業界では家賃の支払いや生活態度に問題がありそうな方には率直に言って部屋を貸したがりません。
そして残念ながらその中には身寄りのない高齢者(あるいは身寄りのある方であっても単身の高齢入居者)との契約も含まれます。
今は誰もが家賃さえ支払えれば部屋を借りられるという時代ではなく、収入、身元引受人、勤務先、年齢など様々な要素が加味され、多くの方が審査ではねられます。
近年は賃貸借契約を結ぶ際には、入居者と賃貸保証会社との間で賃料支払い保証契約(お金を支払って連帯保証を引き受けてもらう様なイメージの契約です)を結ぶことが当たり前ですが、その賃貸保証会社にしても身元の不安な方の保証は引き受けようとしませんので事態は深刻です。

我々の業界では、一度賃貸借契約を結んだら入居者が相当な契約違反をしても契約を終わらせることができませんので、入口の部分ではどうしても慎重になってしまいます。
私はここに貸主側の罪は無いと思っています。
むしろ入居者の生活の基盤である「住宅」を守るということの社会的な責任を、法律や社会が貸主に一方的に押し付けてしまっていることに問題があり、却って生活弱者の方が部屋を借りづらい現実を招いていることを、もっと行政や世間の方には知ってもらいたいと思っています。

話しを戻しますと、身寄りのない方の受け入れを医療機関にだけ押し付けることは間違いです。
むしろ医療機関が安心して医療サービスを提供できる環境を、国をはじめ行政側が整える方向で制度設計をしていかないと、不動産業界と同様歪んだ法制度になりますし、結果として多くの方に悪影響を及ぼすことになりかねません。
記事を読む限りでは、医療機関に受け入れを強いるというよりは、社会制度として身寄りのない方を守ろうという動きが市町村や社会福祉協議会などを中心に始まっていることは非常に良いことだと思います。
厳しいことを言うようですが、実は私も独り者なので独居老人問題は他人ごとではないのです。
高齢独身者をめぐる問題は今後も必ず増えていく問題なだけに関心を持っていきたいと考えています。

 

<余談ですが>
先日、ネットでこんな記事を読みました。
政党れいわ新選組の代表山本太郎氏が、先の参議院選挙で政党自体は2人の当選を果たし自身はその政党の代表ではあるものの、本人は落選したため議員会館を退所することになり、ところが賃貸マンションの契約で審査に落とされ続けているため新居が決まらないという内容でした。
貸す側からするとややエキセントリックなイメージのある新党の代表(政治家)を、入居者として歓迎するかといえば一般的には否定的でしょう。
家賃が遅れることはないにしても、何か問題が起きれば世間からも注目されますし、それが自分との間で起きたトラブルであればかなり面倒なことになりそう、と考えても不思議ではないからです。
山本氏の場合は自身の支持者などで受け入れてくれる方もいるでしょうから、ある意味パフォーマンス的な面もあるのかもしれませんが、その一方で彼はこういうことも言っています。

(山本氏のTwitterより)

山本太郎 twitter

「どの様な立場にあっても、住まいは権利として保証される世の中」
もちろん総論としては賛成ですが、各論は?と思います。
少なくともこれは公共が主体となって動くべき話しであって、民間の大家業の方々にこれ以上の制約を課すべきではないと思います。
あまり政治のことに触れることは避けたほうが良いとは思っていますが、与野党を問わず政治家の中には有権者にとって一見耳障りの良い政策を、深く考えずに打ち上げる方がいるのでその点が少し心配です。

 

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