2019年7月20日日経新聞朝刊より
来年の法改正により「相続登記」が義務化される見通しです。
相続登記とは、相続財産である不動産の登記名義人を遺産分割協議等の結果に合わせて故人から相続した人に変更する手続きです。
相続登記に限らず不動産登記は義務ではありませんが、自分がその不動産の所有者であることを善意の第三者に主張するためには登記が必要ですし、その不動産を売却しようという様な時にも正しい登記名義人になっていないと取引はできません。
もちろんその不動産に「大きな価値がある」時には、人は自分の権利を侵害されたくないので、言われなくても自分名義になるよう登記手続きを行います。
問題はその不動産を欲しくないという場合です。
相続の場合、親が住んでいた田舎の実家、既に財産的な価値も無く売ろうにも売れないような不動産が、相続財産として自分のものになることがあります。
また相続人が複数いる場合には、相続人同士で遺産分割協議を行って、相続する人を決めなくてはなりません。(遺産分割協議が済むまでは法定相続分で共有の状態となります)
自分の権利を主張する気もない不動産に対して、費用をかけてまで登記名義の変更手続きをしたくないという気持ち、これはわかります。
しかし、その結果、相続登記が先送りされて所有者が不明になっている土地や家屋が、すでに大量に発生しています。
しかも相続登記を行っていない不動産、つまり相続人による未登記共有状態の不動産にさらに次の相続が発生した場合、不動産の共有持ち分が相続財産となって更に細分化され次世代の相続人へと引き継がれていきます。
この様な状態が続くと、一つの不動産に数十人の相続人がいることにもなり、正しい登記名義人にするためには、最初の相続時点に遡ってそれ以降の相続人全員による遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議は相続人が一人でも欠けたら無効ですので、連絡がつかない相続人がいる場合などには手続きそのものが進まないか、裁判所に代理人を立てる申請をするなど膨大な手間と費用がかかってしまいます。
正しい登記がなされていない不動産は誰が持ち主かが分からなくなり、その不動産を買いたいという人がいても交渉そのものが出来ません。
これは公共事業による土地の買収などが遅れる原因にもなっており社会問題となっています。
またそのような不動産は往々にして管理不十分の状態になりがりで、防災や防犯あるいは衛生面で近隣に多大な迷惑をかけることにもなりかねません。
今回の法改正は相続登記を義務付けることで、誰が所有者なのかを明確にしてそのような弊害を解消しようという試みです。
相続人の負担は増えてしまいますが、社会的には必要な措置だと思われますので、登記手続きの税金である登録免許税の軽減なども併せて実現して欲しいと思います。
(罰則付きになるかは不明ですが、実効性のある内容になることを期待します)
(注)
既に遺産分割協議は行われていて、相続人の印鑑証明書付きの遺産分割協議書も揃っており、単に相続登記が行われていないだけという場合には、その遺産分割協議書に基づいて登記手続きが出来る場合もあります。
相続登記は行われていなくても、固定資産税の納付(請求)は通常行われていますので、行政側で全く連絡先が分からないということは少ないと思われます。