成年被後見人が所有する不動産の売却について

人は認知症などにより判断能力を失うとあらゆる法律行為が出来なくなります。

判断能力喪失後に法律行為を行おうとする場合には、親族等の申し立てにより成年後見制度を利用し、成年後見人を選任してもらい法律行為を代行してもらう必要があります。
しかし成年後見人は被後見人(後見を受ける人)に代わり法律行為を行う権限を持ちますが、何でも自由に行えるわけではありません。
特に被後見人の生活基盤である自宅の売却等には厳しい制限があり、家庭裁判所の許可が必要になります。
これは後見制度は、被後見人の身上監護と財産管理を目的とした制度であるため、財産を減らす、あるいはその恐れのある行為は非常に厳しく制限されているためです。

例えばお父様が成年被後見人となり、その後老人介護施設に入所せざるを得なくなり、そのための費用を捻出するため自宅を売却しないとならない、そんなケースは少なくありません。
そんな時に家庭裁判所から売却の許可が下りなかったり、許可が下りるまで時間がかかってしまうと、その分リスクや家族の負担は大きくなってしまいます。
ちなみに一般的なタイムスケジュールで言うと、成年後見人の申し立てから後見人の選任までにかかる期間がだいたい4ヶ月前後、その後自宅売却の許可が下りるまでにも1ヶ月前後かかります。
もちろんその後売却活動を始めて、売買契約を締結し資金を受け取るまでにも時間はかかります。
売却活動は、自宅を適正価格で売り出して程よいところで買主が見つかり、順当に手続きが進んだとしても2~3ヶ月ぐらいはかかると考えると、自宅を売りたいと思ってから実際に手元にお金が入るまでは大体8ヶ月前後かかるということになります。

また後見制度では必ずしも本人や家族が希望しない後見人が選任されるということもありえます。
むしろ今の傾向としては、自宅や預貯金などの財産がある方の場合には、司法書士や弁護士といった専門職の後見人が選任されることが多く、その場合には月額3~4万円程度の報酬が必要となります。

将来的に本人のために自宅を売却する可能性がある時には、その時になって慌てて後見人の選任を申し立てをするよりは、事前の供えが重要になります。
その場合、本人の意識がしっかりしているうちに成年後見の申し立てを行うというのは現実的ではないので、自宅の売却という観点だけで言えば、民事信託(家族信託)を利用して、自宅を信託受託者に信託し、自らは受益者となるというスキームを組めば、自宅の売却を受託者の権限で行うことも可能になります。
家族信託もまた万能な制度ではありませんが、自宅の信託という限られた範囲であればそれほど論点もなく極めて有効な手続きとなりえますので、十分検討に値します。

 

記事は業界専門誌に掲載された、後見人が自宅を売却する際の所有権移転登記の必要書類についての解説ですが、この様な内容を個人の方が知っている必要性はあまりなく、大事なことは成年被後見人の自宅売却時におけるハードルの高さです。

後見制度 自宅の売却

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