利用が伸び悩んでいる成年後見制度の推進を図るための専門家会議で、最高裁が後見人には「身近な親族を選任するのが望ましい」との考え方を示しました。
現在は一定の財産を有する方の成年後見人には、親族ではなく弁護士や司法書士などの専門職が就任するケースが圧倒的に多いです。
これはかつて制度創設期に親族後見人による財産の不正流用が続発したためで、後見人を選任する家庭裁判所としても任命責任を問われかねない事態となり、業務上の倫理規定がある専門職を選任することを原則とするようにしたものです。
そのような経緯で現在の主流となった専門家後見人ですが、もっぱら財産管理に偏った手続きになりがちで、本人に寄り添ったきめ細かい身上監護が望めないことや、月々数万円に上る報酬負担が重く、結果として成年後見制度の利用自体を委縮させる結果となりました。
先般、連続して掲載した成年後見制度をめぐる様々な問題点も、突き詰めれば親族後見人と専門家後見人のそれぞれの問題点をどのように解決し、制度の普及を進めていくかの試行錯誤というのが大きなテーマでした。
今回、最高裁が示した親族後見人への回帰方針は、現行制度に大幅な方向転換を迫るものですが、個人的には妥当だと思います。
問題は、後見人に就任した親族が「被後見人の財産は自分の財産」という不心得を起こさないための心構えの周知と後見業務の検証、さらには後見人の義務違反に対する罰則や交代・解任を柔軟に行えるようにする仕組みを構築するところにあります。
従来は、その解決を図ろうとするのではなく、専門家へ頼むという方向に舵を切ったところにそもそもの無理がありました。
個人的には、
1)親族の中に後見人に就任するのに適当な人がいる場合には、原則として親族後見人を就任させ、その代わりに高い倫理義務を課し、守れない場合には罰則と解任という責任を負わせる
2)複数後見人による相互監視機能を活用する、あるいは親族監督人の就任を原則とする
3)自宅の売却など財産の処分等には従来通り家庭裁判所の許可を必要とする
4)それらを満たせない場合には、従来通り専門家後見人が就任する
5)全国の市区町村で設置される予定の「中核機関」や社会福祉協議会、NPO法人などと連携し、毎月の費用や報酬が掛からないチェック体制を作る
といったところが現実的なあるべき姿の成年後見制度ではないかと思っています。
高齢者の意思判断能力喪失は本人や家族、要するに誰にでも起きうる問題ですので、それを支える成年後見制度の充実は国の根幹をなす制度とも言えます。
とは言え、言うは簡単、実際には様々な問題があるとは思いますが、現実的で利用者が納得できる制度を作って欲しいと思います。
朝日新聞2019年3月19日朝刊