【家族信託⑤】受託者の役割

家族信託シリーズ第五弾です。

今回は、家族信託を組成する上でのキーパソンである「受託者」の役割についてです。
家族信託の仕組みにおいては実際に財産を管理・運用するのは受託者となりますので、誰を信頼して受託者にするのかということが家族信託を上手く運用する上で非常に重要な鍵となります。
一方、受託者には信託契約によって信託財産に対する権限と責任が生じます。

信頼イメージ

 

1.受託者になれる人

未成年や成年後見を受けている人等は受託者になれませんが、それ以外は個人・法人を問わず特に制限はありません。

2.役割

信託法という法律では次のように受託者の役割が定められています。

「受託者は委託者より信託された信託財産について、財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為を実行する権限を有します」

そしてその具体的な権限(あるいは制限)は信託契約の中で細かく定められます。
例えば一部業務の第三者への委託の承認や自宅売却の禁止、自宅売却時の同意権者の指定など、当事者間の事情に合わせた信託内容を定めることが可能になります。

3.信託財産の名義

信託の基本的な仕組みとして、信託財産の名義は受託者に移ります。
財産の実質的な所有権は受益権を有する受益者にあるとはいえ、財産を託す立場からすると抵抗を感じる部分ですが、これが家族信託という制度の根幹でもあり十分に理解しておく必要があります。
後で説明をしますが「信託監督人」を別に設定して受託者を監督するとともに、重要な法律行為については信託監督人の合意を得るといったように受託者が単独で行わないようにするなどの対応策をとることも可能です。

4.受託者責任

受託者は委託者からの信頼のもと財産を受託しますが、同時に重い責任も負うことになります。主な責任には以下のものがあります。

1)無限責任

運用の失敗など信託行為から生じた対外的な損失について、受託者は個人としても責任を負います。つまり信託財産以外に自己の財産からも債務の弁済等を求められる可能性があります。

2)受託者の利益のための行為の禁止

受益者あるいは委託者の利益に相反する行為や受託者のための自己取引は禁止されています。
これは財産を不当に安く処分したり自分の財産を高値で購入し信託財産に加えるような行為を指します。

3)分別管理

信託財産は自己の財産とは分別して管理する必要があります。
例えば現金であれば金融機関に「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」という信託財産専用の口座を設けて、自身の口座とは分別した上で管理・運用を行います。

4)善管注意義務

受託者は善良な管理者としての注意をもって信託事務を処理しなくてはなりません。

5)税務申告

信託財産から年間3万円を超える収益がある場合、受託者は信託計算書などの帳票を作成し税務署に提出する必要があります。
但し、これらの業務を含め受託者は信託行為の一部を第三者に委託することも可能です。(信託契約に定めます)

5.受託者の辞任(解任)

受託者の辞任の条件も信託契約の中で定めます。
一般的には受益者の合意を受けて辞任できるという様な定めにすることが多いです。
また解任については信託法では委託者と受益者の合意により受託者を解任できるとされていますが、実務上は受託者の合意を必要としたり、受託者の義務違反や信用不安を理由とする解任事由を設けることが一般的です。

 

受託者には受益者のために財産を当事者として管理・運用するという重い責任と権限が与えられます。
つまり家族信託の仕組みにおいては、受託者に適した人がいないとそもそも家族信託は成立しないとも言えます。
また信託開始後、受託者が不在となり一年が経過すると信託は自動的に終了してしまうという問題もあります。
受託者を誰にするのか、あるいは受託者を任せられる人がいるのか否かという点が家族信託を検討する上での出発点となります。

 

関連記事は右のカテゴリーか下のタグよりお願いします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA