生命保険を活用した相続対策のまとめ

当サイトでも生命保険は相続対策に有効というお話しを何度もしてきましたが、もう少し踏み込んだ検討をしたいと思い、最近はちょこちょこと勉強をしています。

空前の低金利時代ということで従来の「生命保険」のイメージは大きく変わっています。
簡単に言うと、従来の生命保険は「保障」と「貯蓄性」のバランスで考えるものでしたが、現在は低金利のため保険会社が受け取った保険料を運用できず、少なくとも円建て商品では保険における貯蓄性については殆ど意味がなくなりました。

では保障という観点を中心に相続対策を絡めてどのように保険を考えるのか?
私は保険の販売資格は持っていませんし、具体的にどの保険商品が良いかということまではご紹介できませんが、相続対策で保険に加入する際に頭に入れておくべき内容については私なりに整理をしてみました。
プロの方から見ると不十分であったり、認識違いの部分もあるかもしれませんが、私なりにまとめてみた資料です。
本来は手元資料ですので、皆様に公開するための加工はしていませんが、その分資料としての生々しさは伝わるかもしれません。

尚、保険商品を比較する際には以下のサイトが参考になりましたので、ご紹介をさせて頂きます。
このサイトでは不動産や相続についても書かれているのですが、とても簡潔明瞭で「分かっている人」が書いているなと思う反面、肝心の運営会社等についての記載が無いという不思議なサイトです。

UPSET

 

手元資料:生命保険による相続対策の検討

相続対策に有効な生命保険契約であるが、実際に保険を検討しようとしたときに悩むことは少なくない。
実際に生命保険を活用した相続対策を検討する際の具体的な留意事項をまとめてみる。

Ⅰ.保険の目的は

生命保険を利用した相続対策とはどのようなものなのか?
基本的な内容を整理してみる。

<基本の確認>

1.保障(貯金は三角、保険は四角)

貯蓄が自分が貯めた額の範囲でしか保障にならないのに対し、生命保険のメリットは保険契約が有効になれば、万が一の時に満額の保険金が受け取れる点にある。

2.遺産分割

受取人固有の財産となるため、お金を渡したい人(相続人等)に直接保険金が支払われる(遺産分割をせずに受け取り可能)。また相続放棄をしても受け取れる。原則として遺留分の対象にもならない

3.節税

相続人が受け取る保険金は、みなし相続財産として相続税計算の対象となるが、「500万円×法定相続人の数」までは非課税となる。
(現金で受け取るよりも保険金で受け取った方が節税になる)

(「相続対策における生命保険の概要」についてはこちらをご参照ください)

Ⅱ.加入すべき保険とは

相続対策で生命保険を活用する際の基本条件は、相続発生時に必ず保険金が支払われること。つまり終身保険が基本となる。
保険期間が限られる定期保険や貯蓄目的で満期のある養老保険は不向き。

Ⅲ.終身保険の特徴

1.一生涯の保障が続く。相続対策では死亡時に保険金が支払われないと意味が無い。

2.途中解約する場合、解約返戻金が支払われるため貯蓄性も備える。但し、現在は運用難で解約返戻率の魅力は失われている。(円建ての場合)

3.死亡リスクが低い若いうちに加入すれば保険料は安いが、年を取ってから加入すると保険料は高くなる → 相続対策を始めるのは高齢になってからが多いので、保険料は高くなりがち

4.低金利政策下において運用難のため、保険料月払い契約の場合、年を取ってから加入すると支払保険料総額>保険金となる。(死亡リスクが高く、運用期間が短いため)

5.保険料月払いの場合、年を取ってから加入すること自体が難しかったり、保険金の上限も低くなることが多い。保険料の支払いが終身払いになることも多い。

6.保険料の一時払い(全期間中の保険料を全額前払い)の場合でも、円建てでは運用難のため保険金は増えない。→貯蓄性の妙味無し、販売休止商品が増えている

7.一時払いは告知無しや病歴不問など加入がしやすい(高齢でも加入しやすい)

8.保険料の終身払いは、保険料を低く抑える効果はあっても長生きリスクが生じるため相続対策として有効かは疑問

<結論>

超低金利の現在は、終身保険における運用の妙味はほぼ無いと考えてよい。
よって基本は相続税の非課税額と遺産分割機能を利用することが目的となる。
そのため加入要件の緩い一時払いが検討しやすい状況。
経済的に余裕があり、比較的若い50代ぐらいから加入する場合には、「保険は四角」のメリットを生かして月払いにしたり、数少ない運用率の良い保険を選ぶことも可能

Ⅳ.終身保険の選び方

<通常の終身保険では>

・運用の内容(解約返戻金が多い、保障額の多さと保険料の安さ)
・加入のしやすさ(年齢と保障額、病気の履歴等の告知と健康診断)
・保険金の支払い条件(保険料の支払い免除条件→がん告知で保険料支払い免除など)
・付加できる特約(リビングニーズ、医療特約、三大疾病告知時に以降の保険料支払い免除など)

<相続対策では>

・運用の内容(保障額の大きさと保険料の安さ)
そもそも低金利につき運用は期待できない。また解約を前提としないため、解約返戻金はそこまで重視しない(とは言え、途中で解約をせざるを得ないこともあるので、解約返戻金が多いに越したことはない)

・むしろ加入のしやすさが重要(年齢と保障額、病気の履歴等の告知と健康診断など)

・保険金の支払い条件
特約は基本的には不要だが、月払いの場合はがん告知された場合などに保険料の支払いが免除になる特約は大いに検討の価値あり。(特約により要介護状態や3大疾病罹患により保険金が支払われるものもあるが相続対策にはならない)

・定期支払金(期間ごとのお祝い金など)は期待しない
保険料が上がったり運用利率が低下する要素なので意味は薄い。保険とは別に投資信託などで運用した方が利率が良いことが多い

 

Ⅴ.終身保険の種類

終身保険もいろいろな分類が可能だが、次の要素の組み合わせになる。
一つ一つの要素はややこしいが、保険商品の基本的な考え方である、保険会社は保険料を運用して解約返戻金や保険金に充当するという原則を考えると、分かりやすくなる。
例えば、低解約返戻金型は、保険会社からすると途中解約された際に支払う返戻金額が少ないので保険料は安くなる。
保険料が月払いの場合は、保険会社からすると被保険者がすぐに亡くなってしまっては困るので告知や健康診断により加入要件が厳しくなる。
逆に一時払いであれば保険会社は保険料は全て受け取っているので、後は運用するだけであり加入のハードルは低い。(保険契約者にとっては資金的な余裕が必要)
しかし昨今の低金利では運用の旨味は保険会社・契約者共にほとんどない。

<終身保険の分類>

1.(普通の円建て)終身保険

多くの保険で、高齢での保険加入では「支払保険料総額>保険金」となってしまう。

<例>

オリックス生命保険ライズ
65歳男性(1954年生まれ)、保険金1000万円、80歳払い済み(80歳まで保険料を支払い)の場合支払保険料は
59220円×15年×12ヶ月=10,659,600円
返戻率
1000/1065.96=93.81%

2.低解約返戻金型終身

保険料払い込み期間が終わるまでは解約返戻金が少ないが、その分月額の保険料は安い

3.引き受け基準緩和型

病歴や既往症があっても加入が可能。当初期間(通常5年程度)の保険金は少ないなど制限あり。
当然保険料は高いので、「支払い保険料総額>保険金額」になることもあるので、手持ち資金に余裕があれば一時払いも検討する。

4.月払い(年払)か一時払いか?

月払いは保険料高め、一時払いは保険料の割引率大が基本。
但し、昨今は一時払いでも運用難のため割引率が下がらないが、一時払いは加入しやすいというメリットがある(高齢可、無告知型あり)

5.円建て終身・外貨建て終身

・円建ての一時払い終身は運用難により販売縮小傾向(販売休止もあり)、よって外貨での運用をする生命保険が主流になりつつある。(米ドル、豪ドルが中心)
・外貨建ては保険料を日本円で支払い、それを外貨に換えて運用を行う。運用利率と為替レートのリスクあり。保険料の支払いは一時払いも月払いもある。月払いの方が運用の最低保証率が高い傾向はあり、為替リスクも多少軽減される。
・保険金も運用実績により増加するタイプの契約もあり → 保険金が増えるだけの運用実績や時期については注意が必要(実質的に不可能な場合もある)
・為替レートのリスクあり → 保険金は外貨で支払われるため、円高になれば当然為替差損リスクがある。
・外貨で生命保険金を受け取った場合には、その時点でのレートで円換算して相続税を計算するが、お金そのものは外貨のまま保有していてもよい。(レート改善を待つことで為替対策とする)
・円⇔外貨の交換手数料が保険会社によって意外と差がある(手数料が少ない方が当然お得)
・保険金の円払い最低保証特約もあり

 

6.積立利率変動型終身

運用により解約返戻金や保険金が増える仕組みだが、利率は経済情勢による。
増加保険料が発生する利率は保険会社によって異なる。
但し、円建ての場合はそれが達成されるのは一定期間経過後であるため、高齢時の加入ではメリットが少ない。
外貨建ての場合は最低運用が定められていることもある。

 

7.保険金が一定・漸増

漸増型の一時払い終身は当初5年間程度払込よりも保険金が少ないこともある。

 

Ⅴ.保険商品は誰から購入するのか

1.銀行や郵便局の窓口
2.保険会社の営業担当
3.保険代理店(専属と乗合い)

専属代理店は単独の保険会社の商品を取り扱い、乗合い代理店は複数の保険会社の商品を取り扱う。
銀行窓口でしか取り扱わない商品もあり、保険会社の営業担当は当然自社商品のみを取り扱い(専属代理店も同様)、乗合い代理店は複数の保険の比較が可能。
全ての保険商品を比較検討するためには、複数のチャンネルで保険を紹介してもらわないと不可能。
また顧客に最適な商品よりも売りたい商品(販売手数料が多いなど)を紹介する傾向は多かれ少なかれあり得る。

 

Ⅵ.保険に加入する際に大切なこと

1.目的を明確に

相続対策の場合には途中解約時の返戻金の率よりも、支払われる保険金額や加入のしやすさなどを重視する方が良い。

2.特約の見極め

医療特約、利差配当(運用が上手く行った時の配当)などに惑わされない。
医療の保障が欲しければ別に医療保険に加入すればよい。

3.保険の内容を理解していること

重要なのことは、自分が内容を理解している保険に加入すること。
→ 結果としてシンプルな商品が良いということが多い。

 

Ⅶ.相続対策で終身保険を検討する際の流れ

1.自分の相続でいくらの保険金を用意したいかを考える
非課税額:500万円×法定相続人の数などを目安に検討する。
誰にいくら残したいのか、相続税の非課税額をいくらまで適用したいのかを検討する

2.加入できる保険の検討

自分に必要な保険を明確にしたうえで専門家に相談することが大事。
よく分からないから保険屋さんに相談するというのはリスクが大きい。

<保険加入の際に重要なこと>

1)年齢
2)持病や既往症の有無
3)手持ちの資金の余裕度(現金があれば一時払いでも良いし、賃貸収入があるなどの理由があれば月払いの方が良い可能性もあり
→高齢での月払いは、支払保険料>保険金となることもあるので注意)
4)返戻率の良い保険を検討(保険を途中解約する可能性を検討)
5)特約の種類を検討

 


人によるのかもしれませんが、相続対策としての生命保険の活用はややハードルが高い印象が強いかもしれません。
相続と生命保険が印象としてリンクしづらいことに加え、生命保険という仕組み自体の難しさも関係しているのかもしれません。
しかし実際には生命保険を使った相続対策は、保険の仕組みさえ理解していれば「遺産分割対策」、「納税資金対策」、「節税対策」を同時に行え、しかも高齢になってからでも対策可能というメリットがあります。
ある意味生前贈与や遺言よりも手軽に行える面もありますので、

・遺産分割が揉めそうなご家庭
・相続税の納税資金や遺産分割における代償金などまとまったお金を用意する必要があるご家庭
・相続罪が課税されるご家庭

におかれましては、食わず嫌いになることなく、一度生命保険を活用した相続対策をご検討頂けたらと思います。

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