相続人が欲しがる財産、欲しがらない財産

相続財産をめぐって起きる遺産分割争い、これがいわゆる「争族」です。
しかし争族は、相続財産が何もない場合には起きようがありませんし、相続財産があっても相続人が欲しがる財産が上手く分散されれば争いになりません。
言い換えれば、争族は相続人が欲しがる財産(または欲しがらない財産)が重なることで起きてしまうということもできます。

では相続人が欲しがる財産(欲しがらない財産)とは何でしょうか?
財産が複数の種類に分かれている場合には、そのことを考えた上で遺言等の対策をとることが争族回避に有効と言えます。

1.現金

一般に相続人が最も欲しがる財産は現金です。
親は先祖代々の土地を長男に引き継いでもらいたいと考えていても、肝心の長男は土地ではなく現金が欲しいと思っているということはよくあります。
現金は使い道が自由ですし、保管や維持コストもかかりません。
また積極的に投資運用するということでもない限りは、何をするにしても特別なノウハウはいりません。
相続財産に「現金」と「同じ価値をもった他の財産」があれば、多くの相続人は現金を欲しがるというのが相続人心理の基本であるとお考え下さい。
また遺産分割協議という観点からも、現金は(当たり前ですが)金銭的な価値が一目瞭然で1円単位まで分割できるため最も分けるのが容易な相続財産と言えます。
争族になりそうな恐れがある時には、「現金」のウエイトを大きくしておくことが有効な対策になるということをご理解ください。

(現金の注意点)
現金は遺産分割には最も適した財産ですが、相続税対策という観点からは評価減のしようが無く、節税対策が取れません
相続財産の総額が大きく相続税が課税される場合には現金のウエイトを大きくしすぎないことも重要になります。
相続税額の見込んだうえでのバランス感覚が重要になります。

2.不動産

不動産は欲しがる相続人と欲しがらない相続人がはっきりと分かれやすい財産です。
また現金とは反対に、分けづらい財産の筆頭格でもあります。
相続財産に不動産がある場合、その不動産を必ず欲しがるのはその不動産に住んでいたりその不動産で事業を行っている相続人です。
例えば、ご夫婦で住んでいたご自宅があり、ご主人が亡くなられた場合には、その自宅を奥様が相続できないと住む場所を失うことにもなりかねず大変なことになります。
特にご夫婦に子供がいない場合には、相続人は奥様とご主人のご兄弟(姉妹)になることが多く、遺産分割が揉める例が少なくありません。
相続の対象となる不動産が、ある相続人にとって生活基盤に直結し必要不可欠なものである場合には、財産を遺す側(被相続人)において、その相続人が必ずその不動産を相続できるよう遺言などで道筋を作っておくことが非常に重要になります。
一方、相続人が欲しがらない不動産もあります。
相続後に誰も住む予定のない田舎の土地や、街中にあっても建物が建てられない土地(市街化調整区域や接道義務を満たさない土地など)、収益を生まず修繕費などの管理コストがかかる古い建物、跡継ぎのいない農地などが代表例です。
要するに利活用もできず換金もしづらい不動産は誰も欲しがらず、押し付け合いが起りがちです。
争族には「財産の取り合い」だけでなく、逆に「押し付け合い」になることもありますので、この様な土地は相続に持ち越さず、何らかの形で生前に処分しておくことを検討する必要があると言えます。
また賃貸アパートなどの収益不動産については意見が分かれがちです。
将来に渡り収益を生むというメリットに対し維持管理にかかる手間やコストを嫌う相続人の方もいらっしゃいます。
もちろん都心一等地の収益物件と空室が生まれがちな地方老朽アパートでは価値が異なります。
不動産は持ち分としての分割は出来ても、物理的な分割が難しい財産であり、欲しい、欲しくないの判断が相続人によって大きく異なりますので、誰が引き継ぐべきなのかを生前の内に被相続人(予定者)と相続人の間で話し合っておくことが望ましいと言えます。
不動産においては、その不動産を誰も欲しがらなかったり、あるいはその不動産があることが遺産分割協議を難しくすると予想される場合には、売却して遺産分割がしやすい現金に変えておくということも有効な遺産分割対策になると言えます。

(不動産の注意点)
不動産は分けづらく争族の種になりやすい反面、相続税対策という観点からは、不動産は実際の価値よりも相続税計算上の評価が低く、節税対策に向いている財産です。
先にも言いましたが、相続財産における現金と不動産のバランスは非常に重要です。

3.金融資産(株式など)

株式などの金融資産は、基本的には換金性が高いので現金に準じた取り扱いが出来ますが、株式を始めとする金融資産自体は好き嫌いが分かれがちです。
昨今は相続された株式をすぐに売却してしまう相続人が多いことが証券会社の悩みとなっているのですが、この話しからも株取引などを敬遠する方が少なくないことと現金志向の強さを感じます。
被相続人の方が複雑多岐に渡る金融資産を保有している場合には、相続後に財産的な評価が難しく遺産分割協議に支障が出たり、故人からの名義変更だけでも相続人にとっては大きな負担になることが考えられますので、ある程度の時点からは金融資産は整理して現金に変えていくことが望ましいと言えます。

(金融資産の注意点)
金融資産は価格変動が大きい点に注意が必要です。
例えば、ある時点で額面1000万円の株式があったとしても、相続時には株式の額が大きく変わっている場合があります。
遺言を書いた場合でも相続時点で株の額面金額が大きく目減りしていると遺留分侵害が発生するなど思わぬ弊害が生じる場合があります。
また古くから保有している金融資産には、保証利率が高いなど保有を継続しておいた方が得な財産が含まれている場合もあります。
保有している金融資産の内容が自分でもよく分からないという場合には、第三者的な立場で判断してくれる専門家への相談が欠かせません。
(お宝債券などについて発行元に聞くと、当然売却に誘導されますのでお気を付けください)

4.自社株

自社株とは、法人成りした事業主の方が所有する自社の株式です。
自社株式は事業後継者に確実に相続させないと経営の安定化が図れなくなってしまいますので、自社株式については相続人が欲しがる、欲しがらないではなく、被相続人が定めた後継者に必ず株の大部分を相続するよう遺言等で取り計らう必要があります。
特に後継者以外の相続人が株式の取得を希望している場合には、相続争いがそのまま経営権争いへと繋がっていくことが予想されますので注意が必要です。

(自社株式の注意点)

相続税計算をするにあたり、自社株の評価額が思いのほか高くなっていることがあります。
自社株にはほとんど換金性はありませんので、事業承継者の相続税が高額になってしまったり、遺留分侵害を避けるために事業後継者以外にも株を相続させざるを得ないケースもあります。
自社株については専門家を交え相続を見据えた長期的な対策が必要になります。

5.祭祀財産

祭祀財産とは祖先を祀るための財産で、仏壇や位牌などの「祭具」、墓地などの「墳墓」が該当します。
祭祀財産は遺産分割には馴染まないという理由から相続財産には該当しませんが、誰かが引き継がなくてはならない財産であることには変わりがありません。
通常は被相続人が祭祀財産を承継する人を指定するか慣習により決定をしますが、お墓が遠方にある場合などは負担も少なくなく誰もが喜んで引き継ぐ財産ではありません。
何の手立てもなく祭祀財産が相続を迎えてしまうことは避けたほうが無難ですので、例えば祭祀財産を承継する方に対してはその分相続財産を増やすといった遺言を遺しておくなどの対策が望ましいです。

6.債務(借金)

通常、債務を引き受けたいという相続人はいませんが、法律では債務は遺産分割協議ではなく、法定相続分で相続されると定めています。
つまり相続が発生すると、相続人は自動的に法定相続分に応じた債務を相続することになります。
しかし被相続人が不動産などを購入した際の債務は、その対象となる不動産を相続した人が引き継ぐのが公平です。
債権者の了解を得て、特定の相続人が債務を相続できるようにすることが望ましいと言えますので、生前から相続人だけでなく債権者とも打ち合わせをしておくことが必要です。
もちろん返せる借金であれば被相続人が生前のうちに返済しておくことが望ましいことは言うまでもありません。

7.その他の財産

車や貴金属、骨董などの動産はよほどの蒐集家の相続でもない限り金銭的な価値はそれほど高くないことが多いです。
しかしこれらの相続財産には金銭的な価値ではなく思い入れが込められている場合があります。
動産を欲しがる相続人がいる相続というのは親子間の仲が良かった場合が多いですが、残念ながらお金ではなく「思い出のあるもモノ」が欲しいと揉めてしまう相続もあります。
一つ一つのモノについて遺言で相続する人を決めるということは簡単ではありませんが、例えば着物であれば欲しがっている相続人がいるかどうかを確認したうえで、「この着物は〇〇(子供や孫など)に貰って欲しい」という様なことを皆が揃っている場所で口にしておけば、その遺志は引き継がれる可能性が高いと思われます。
(本人だけに言い含めるという方法は却って話がこじれる原因になる恐れがあります)
動産はお金ではなく気持ち(感情)の問題になりやすい分、揉めると解決が難しくなりますのでご注意ください。

 

亡くなられる方が、「遺産分割協議は残された相続人で上手くやって欲しい」と考えることも一つの見識です。
しかし遺産分割が揉めてしまう可能性を予め摘み取っておくこともまた価値のあることです。
そのためには生前から各相続財産は誰に相続させることが望ましいのかを考え、誰もが欲しがらない財産がある場合には、生前のうちに処分をしたり、「相続人が欲しがる財産」に換えておくことが重要になると言えます。

 

 

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