私がこういう仕事をしていることもあり、我が家は比較的両親との間で相続のことが話題に上る家庭です。
しかし話題に上るということと、万全の相続対策をしているのかということは全く別のお話しで、どこのご家庭でもあるようなお話しが我が家でもよくあります。
先日も母親が、ipadを片手に「遺言て遺言執行者を決めないといけないの?」と言ってきました。
遺言において、その主たる効果である遺産分割の指定(相続財産を取得する人を指定すること)を行うと、遺言の内容は相続人による遺産分割協議に優先するため、遺産分割をめぐる相続争いを未然に防ぐことが出来ます。
(その場合、遺留分の侵害には注意が必要です。詳細はこちらをご参照ください)
相続人の仲が良くない場合はもちろん、普段は仲の良いご家族でも遺産分割で揉めてしまうことは多々ありますので、それを防ぐために被相続人(予定者)が遺言を残して相続の道筋を定めておくことは相続対策として最も有効な方法の一つです。
ところが遺言については、非常に重要ですが意外と知られていない論点があり、それがこの「遺言執行者」です。
遺言執行者とは、名前の通り「遺言で定められた内容を執行する人」です。
そしてこの執行するという行為を遺言執行者は「単独で」行えるという点が非常に重要になります。
遺言執行者は未成年者や破産者を除けば基本的に誰でもなれますので、通常は相続人の誰かか弁護士等の専門職の方にあらかじめお願いをして遺言書の中で指定しておくことが、「被相続人の遺志」や「手続きが不要」という点で望ましいと言えます。
但し、遺言執行者は戸籍を取り寄せて相続人調査を行ったり、財産調査をして財産目録の作成するなど、専門的な業務を行う必要がありますので、家族関係が複雑であったり財産の種類や金額が多岐・多額に渡る場合には、専門職の方に依頼をしておいたほうが無難かもしれません。
遺言執行者がいない相続の場合では、相続人全員が協力して遺言で定められた内容を執行する必要があります。
例えば「自宅を長男に相続させる」という遺言があった場合には、相続人全員が署名捺印して印鑑証明書を用意をしたうえで登記手続きを申請する必要があります。
これは預貯金口座の名義変更などでも同様ですが、果たして相続人の仲が良くない場合や遺言の内容に納得していない相続人がいる場合、あるいは相続人が意思判断能力を失っていたり音信不通の場合には、それらの手続きが円滑に進むのかといえば極めて難しいと考えざるを得ません。
つまり遺言執行者が決まっていない相続の場合、遺言によって遺産分割の内容に争いは無くても、その内容の実現という面でリスクがあるということになり、これを回避するためには遺言の内容を自身の権限に基づいて単独で執行できる遺言執行者を予め定めておくことが非常に重要になります。
一方、遺言執行者が決まっていない相続であっても、家庭裁判所に申し立てをして遺言執行者を選任してもらう方法もあります。
この申し立ては相続人や受遺者(遺言で財産をもらう人)や債権者などの利害関係人が行うことが出来ます。
但し、費用と時間がかかりますし、基本的には専門職の方が就任し報酬も発生しますので、わざわざ遺言を残そうという方であれば、遺言執行者についてもぬかりなく指定をしておくことが望ましいと言えます。
ところで、我が家の場合ですが、母親が「遺言施行者は必要なの?」と聞いてくるくらいですから遺言を書く準備をしているのかと言えば決してそうではありません。
将来的にどのような相続にしたいのかはよく話しますし、何も考えていないという訳ではないのですが、自分達の老後にかかる費用のことなどを考えると、今の時点で遺言を書くことには躊躇している様子です。
そして挙句に「うちは兄妹(私と妹)二人だしね」と言ったりもします。
相続争いは普段いがみ合っているわけでもない相続人同士でも起こりますし、財産が多いか少なかということも全く関係がありません。
特に相続財産に不動産が占める割合の高い家庭は遺産相続で揉めやすい傾向があるので、我が家の場合はむしろ一般的には揉めやすい家庭に分類され、相続コンサルの観点からすると「遺言が必要な家庭」のはずです。
なので私は「それだけ色々考えているんなら遺言を書けばいいじゃないか」と言うのですが、なかなか重い腰が上がりません。
つまり世の中でこれだけ相続のことが話題になっているにもかかわらず、実際に遺言を書いている人がまだまだ少ないという現実を身をもって体験しています。
しかし遺言は「書くもので」あって、「書かせるもの」でも「書かされるもの」ではありません。
遺言を書こうというのは、被相続人(予定者)の意志ですのでそこを強制するわけにはいきませんし、結果遺言がないまま相続を迎えた時には相続人の相続に対する理解や覚悟も必要になります。
但し、どうせ遺言を書くのであれば「遺言執行者の指定」は絶対に必要。
折角、重い腰を上げて遺言を書いたのに、その内容が実現しないのでは、それこそ故人も浮かばれませんので、これだけは必ず押さえておいていただきたいと思います。
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