借地権とは「建物を建てるために人から土地を借りる権利」を指します。
借地権ではこの建物を建てるという点がポイントで、建物を建てることで借主(=借地人)にとって借地権は極めて重要な権利であるとみなされ、借地借家法という法律で強く保護されることになります。
強く保護されるというのはどういうことかと言うと、借地人は地代を支払っている限り契約書の内容にかかわらず半永久的に土地を利用できるという、地主にとっては所有権を全否定されるかのような様な強力な権利を持つという意味です。
借地権がなぜこのような法律解釈になったのかは、過去の戦争における軍人さんとその家族の生活保護という問題に深くかかわってくるため、ここで詳しく触れる余裕はありませんが、いずれにしても借地権はそれぐらい古い時代に設定された契約関係が多く、それが現代に至るまで残ったままになっているというのが実情です。
しかし借地権を現代の感覚や視点で考えると、借地人・地主(土地所有者=底地人)の双方にとって取り扱いが面倒な、厄介な権利義務関係という性格がクローズアップされてきます。
そこで、地主と借地人の双方で借地権を解消しようという動き(希望)が生まれることになるのですが、実はこれが中々上手く行きません。
理由は様々ですが、前提として理解しておく必要があるのは、「借地権」ほど地主側と借地人側で捉え方が異なる権利義務関係は少ないということです。
はっきり言えば、地主・借地人のどちらも借地契約あるいは相手方に不満を抱いていることが多いのです。
なので借地契約において地主と借地人の関係が円満ということは余り多くないのですが、それがさらに代替わりをすると権利義務関係は双方次の世代に引き継がれていくものの、新しい地主と借地人には良くも悪くもしがらみがなく、過去のいきさつも知らないため、それがいい方に転がることもあれば悪い方に転がることもあり、要するに極めてビジネスライクな関係の中で借地権が取り扱われることになります。
前置きが長くなり話しもやや横に逸れてしまいましたが、要するに何が言いたいのかと言うと、借地権は地主・借地人双方にとって取り扱いに困る権利義務関係であることは事実ですが、それを解消しようとするときには、まずは相手方がどういう思いでいるのかということを理解しておかないとまとまる話しもまとまらないということです。
前提を間違えれば結果は正しいものにはならないというのは世の道理ですが、借地権の様に特殊で古い契約関係の解消をするためには特に重要なことだと思います。
以下、地主・借地人にとって借地権とはどのような権利関係なのかをまとめてみました。
1.比較的安いコスト(地代)で半永久的に土地上に建物を建築し利用できる権利です。
2.借地上の建物は自分の所有物ですが、建て替えや増改築などを行おうとする場合には地主の承諾が必要となり、手続きと精神面の両面で煩わしさがあります。
3.建て替え等において地主の承諾が得られない場合には裁判所から代諾(許可)が得られる借地非訟という制度があり、大抵の場合許可はおりますが、費用・時間・手間という面で負担が大きいです。また裁判手続きを経て許可を得た場合、地主との関係はさらに悪化することが多いです。
4.地主の承諾や契約更新に際しては百万円単位の承諾料が必要になることが多く一時金の負担があります。(これは裁判所を通じて許可を得る場合も同様です)
5.地代を支払い続けても土地は自分のものにはなりません。
6.借地権は所有権と比較して価値が低くなってしまいます。都心一等地の商業エリアなどは除けば、借地権の時価(市場価格)は「更地価格×借地権割合」で計算される金額よりもかなり安くなってしまうのが実情です。
7.相続手続きにおいては、そもそも不動産という財産自体が遺産分割協議が揉める原因になりやすいという特徴がありますが、借地権はさらに現金などその他の財産と比較して「相続人が欲しがらない財産」になることが多く、円満な遺産分割協議に支障が出る可能性があります。
全体として借地人の不満は何をするにしても地主に許可を得ることの実務的・精神的な負担と地代(コスト)ということが出来ます。
また相続手続きという観点からも借地権は取り扱いに困る財産と言えます。
1.そもそも借地権とは、「貸したものは戻ってくる」という社会通念上の常識が覆ってしまったいびつな権利義務関係であり、その点において地主は借地契約そのものに強烈な不満を持っていることが多いです。
2.借地契約は古いものが多いため、地代は物価水準の推移に比例せず安いままのことが多く、収益性という観点でも地主は不満を持っていることが多いです。
3.借地人による借地上の建物の建て替えなど借地契約の根幹にかかわる内容について、自分が認めなくても裁判所の許可が下りてしまい、結果として借地契約がいつまでも続くことになってしまいます。
4.地主の権利は「借地権(他人の利用権)が設定された土地の所有権=底地」であり、自己利用が出来ないだけでなく、財産としての価値(時価)も本来の更地価格からすると非常に安い評価になってしまいます。
自己使用が出来ず収益性も低い底地は、借地権同様「相続人が欲しがらない財産」になることが多く、円満な遺産分割協議に支障が出る可能性があります。
5.結局のところ、土地が自分の手元に戻ってくるかどうかは借地人次第であるため、法律や制度面で地主に出来ることは地代滞納時の契約解除手続きぐらいとなります。
借地契約における地主の不満は、極論すれば「不当に土地を取られた」というものですから、借地人の方はその点を見誤ってはいけません。
地代も例えば周辺の月極駐車場(1台)と比べて5倍も6倍も支払っているというケースは稀だと思いますが、単なる車置き場と比べて遥かに強い権利が与えられている借地権の対価としてふさわしい地代が得られていないという地主の不満は十分理解しておく必要があります。
また相続手続きにおける支障という点では借地人と同様取り扱いに困るのが実情です。
いずれにしてもこれらの前提(特徴)を理解することなしに、借地権(底地権)の整理を図ることは困難です。
借地権(底地権)を整理する手続きは大きく分けると4通りしかなく、いずれも地主と借地人が相手の考え方(想い)を見極めてお金のお話すとして決着を図らなくてはなりません。
最期に、借地権(底地権)を解消する4つの方法について挙げておきますが、いずれの方法も手続きや税務面での細かい注意点はありますが、考え方そのものはいたってシンプルです。
借地権の解消を考える時の参考になれば幸いです。
地主が底地を借地人に売却する方法です。これにより土地は借地人の所有権となり、地主は借地(底地)関係から離脱します。
地主にとっては不本意かも知れませんが、現実的には借地・底地関係を解消する上で最も多い方法はこの借地人への底地の売却であるのが実情です
地主が借地人から借地権を買い戻す方法です。これにより土地は地主の所有権となり、借地人は借地(底地)関係から離脱します。
地主からすると自分が貸していた土地をわざわざお金を払って買い戻すわけで、しかもその価格は貰った地代よりも高い場合すらあります。
なので地主による借地権の買戻しが成立するのは、買戻し後に高い収益を見込める有効活用を予定している場合や所有権の高値転売が可能な場合などに限られます。
また地主による借地権の買戻しにおいては、借地上の建物も売買対象にするのか、あるいは解体するかなど協議も必要になります。
地主の底地と借地人の借地権を部分交換する方法です。
結果として元の借地権付きの土地が、地主の所有権部分と借地人の所有権部分に分割されることになります。
等価交換の割合は協議になりますので、その点で折り合いが着くのかという問題と、借地上の現行建物の解体が問題となります。
地主と借地人が底地と借地権を同時に売却する方法です。
買主は結果として所有権を取得することになるため、単独では価値の低い底地と借地権が所有権として高い価格で売却できる可能性があります。
地主と借地人の間では最低売却価格や売却金額の分配割合の協議が必要となります。
言うまでもなく、これらの方法は地主と借地人が仲違いをしている状態では当然合意などできません。
合意をする上では、自分の主張や希望を伝えるだけではなく、相手方の立場や考え方を斟酌する必要もあります。
上手く進みつつあった交渉が、些細な失言でご破算になったケースを見たこともありますので、十分ご留意頂けたらと思います。
関連記事は右のカテゴリーか下のタグよりお願いします。