独りの最期を清算 相続財産管理人

2019年7月8日の日経新聞の記事です。

相続財産管理人

「お独り様」という言葉が市民権を得て随分と経ちますが、法律的に「お独り様」と言えば相続人のいない人を指すことになります。
おじやおば、あるいはその子(従兄弟)などは血族ですが相続人にはなりませんので、親戚がいても法律的には「お独り様」になることはあり得ます。
一方、相続人はいるけれども、もう何十年も会っておらず連絡先どころか生死すらもわからないという場合は、法律的には相続人は「いる(はず)」ということになり、「お独り様」には該当しません。

では「お独り様」が死亡した場合に、死亡後の手続きはどうなるのかというのがこの記事に書かれています。
相続人がいない方が亡くなった場合、遺言があればその内容に従い相続財産の処分等が出来ますが、遺言が無い場合にはその方が残された相続財産を法律的に引き継ぐ人がいないことになります。
しかし財産をそのままにしておくわけにはいきませんし、中にはその方にお金を貸していたとか家を貸していた、あるいはお金を借りていたという様な関係者がいる場合があります。
また債権債務関係はなくとも、その方が所有していた不動産や動産、銀行口座などがあるかもしれませんし、むしろ人が生きていてその痕跡が何も無いということは殆どなく、何かしらの法律的な「相続財産」が存在します。

その様な場合、債権者や地方自治体といった利害関係人が、家庭裁判所に相続財産の整理及び清算を行うこと申し立てることができ、そこで選任される人のことを「相続財産管理人」と言います。(多くの場合、弁護士や司法書士と言った専門職が選任されます)
相続財産管理人はまず相続財産の整理と債権者等へ債権申し出の催告を行うとともに、公告を行います。
また債権者等への弁済を行った後で相続人が本当にいないのか捜索(公告)を行い、相続人の不存在が明らかになったときには相続財産を処分する手続きに入ります。
処分の手続きでは、相続財産を特別縁故者(後述)へ分与する制度があり、それでもなお相続財産が余る場合には、それらの財産が国庫へ帰属することになります。(換金できるものは換金します)
この辺りの手続きは専門的なので一般の方が詳しく知っておく必要は無いと思いますが、要するに相続人のいない方が亡くなった場合には、相続財産管理人という専門職が選任され、財産を整理したうえで、債権者・債務者へ連絡をして清算手続きを行い、それでも余った財産がある場合には特別縁故者への分与→国庫への帰属という流れを辿ります。

今回の新聞記事にもありますが、「お独り様」が亡くなった時の相続の姿は、自宅がゴミ屋敷のようになり、財産も不明、債権・債務者も不明、関係者も不明という何から手をつけてよいやらわからない状態から、完璧な終活がなされていて「あとは宜しくお願いします」という状態まで千差万別だそうです。

私もそうですが高齢独身者が増え、さらに相続人がいない相続人不存在の相続は今後も増えていくものと予想されます。
最終的に財産が国庫に帰属すんるのだから良いじゃないかと言う向きもあるかもしれませんが、残される財産は一等地にあり高額で売却できるような不動産などばかりではなく、むしろ国としては引き取りたくないという財産の方が多いはずです。
もちろん相続財産管理人に支払う報酬等の経費は税金で賄うわけですし、相続人のいない相続というのも深刻な社会問題とのひとつと言えます。

特別縁故者

文中に出てきた特別縁故者について説明します。
相続財産管理人が選任され、債権・債務者に対する清算も終わって、なおも財産が残余する時には、特別縁故者が財産を受け取ることが出来ます。
特別縁故者とは被相続人と特別の縁故があった人を指し、具体的には被相続人と生計を一つにしていたもの(内縁の妻など)、被相続人の療養看護に努めたものなどを指します。
また特別縁故者は個人だけでなく法人がなることもでき、財産の分与を受けた時にはその財産に関わる相続税の納税義務も併せて引き継ぎます。
特別縁故者は、相続人の不存在が確定したときに、家庭裁判所へ申し立てを行い、認められると財産の分与を受けることが可能になります。

共有持ち分の取り扱い

相続人がいない相続において、被相続人が所有する不動産等の共有持ち分は、特別縁故者においてもその共有持ち分の分与を希望しない場合には、共有者に帰属することになります。
これは民法255条の規定ですが、あくまでも相続財産管理人の選任から特別縁故者に対する財産の分与までを行ったうえで相続財産に共有持ち分がある場合における規定となります。

遺言

お独り様の相続では特に遺言を残すことが非常に重要になります。
相続人がおらず、遺言が無い場合には、上記の様な煩雑な手続きを取る必要がありますが、法律的に有効な遺言があれば、相続財産は遺言の内容に従って処分等が行われることになります。
その場合、受遺者(遺言で財産を受け取る人)にも予めその旨を伝え、財産等についても整理しておくことが望ましいのは言うまでもありません。
尚、受遺者は遺言の内容を拒否(遺贈の放棄)することも可能ですので、仮に財産に借金しかないような場合には、無条件でその責任を負わされる心配はありません。

不在者財産管理人

相続財産管理人と似た言葉で「不在者財産管理人」という言葉があります。
これは相続財産管理人が「相続人がいるかどうかが分からない」と言う場合に選任されるのに対し、「不在者財産管理人」は戸籍上は相続人がいるにもかかわらず、行方が分からず遺産分割協議が行えないという場合に選任される人を指します。
相続人の行方が分からない場合の家庭裁判所における手続きとしては、不在者財産管理人の選任と、行方不明期間が7年を超える場合に行う「失踪宣告」がありますが、失踪宣告は法律上の死亡宣告であり裁判所としても非常に重い判断となりますので、通常は不在者財産管理人制度を利用することが多いです。

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