賃貸マンションの用法違反トラブルからの退去

ちょっとしたきっかけがあり、弊社が巻き込まれたというか当事者となった過去の賃貸不動産事件を思い出しました。
もうだいぶ前に解決したことなので話してもよいかなと思いますが、弊社管理物件に虚偽入居され入居者を退去させた事案です。

最初はよくある普通の不動産取引で、区分所有マンションの1部屋をオーナー様からお預かりして賃貸に貸し出しました。
少し時間はかかりましたが、さいたま市浦和区の某不動産業者経由で申し込みがあり、入居審査は保証会社の承認も下りたため契約の運びとなりました。

入居するのは40代の男性で高齢のお母様と同居するというもの、勤務先は県内の工務店でした。
人物的にもこれといっておかしなところは無い方でした。
無事にお引き渡しも終わり、しばらくが経過したころ、マンションの管理組合から連絡がありました。
「夜遅く若い男女が出入りしている」、「外国人もいる」とのこと。

正直この時にはあまり事件性は感じていませんでした。
お部屋を貸し出している以上、時に友達が来ることもあるでしょうし、外国人だから即問題があるという訳ではありません。
もちろん賃料の滞納もありません。
それと、別に初動が遅れた原因がもう一つありました。
実はこの管理組合さんは少々口煩い、もう少しはっきり言えばちょっと思い込みが激しすぎるきらいがあり、結構高圧的な物言いをするので、こちらもオーナーともども「またかな?」と聞き流してしまったのです。

「こちらも気に留めておきますので、とりあえず様子を見てください」と伝えて、またしばらく日にちが経過したところで、管理組合から再度お怒りの電話。
「風俗業の様な事をやっている」とのことで、出入りの様子が防犯カメラにも映っているとのこと。
「すぐに退去させろ」と激しい剣幕です。

その後はすったもんだです。
まず契約者に電話をしますが、「そんなことはしていません」との返事。
客付けの不動産会社にも電話をして事情を聴くも、「普通のお客さんでした」との回答。
仕方がないので私がマンションで見張ることにしました。
こちらは証拠がなければ動けませんので、問題があるというのであれば現行犯で捕まえるしかありません。
某日、部屋のドアが見える非常階段に身を潜め待機していると、しばらくして契約者ではないスーツ姿の男性が部屋から出てきました。
急いで追いかけて建物の外で声を掛けます。

「すいません。今部屋で何してましたか?マッサージですか?」
「えっ」
「あの部屋を管理している不動産業者なんですが、別に悪いようにはしないので、部屋で何をしていたかだけ教えてください。マッサージ的なことですか?」
「はい」
「風俗?」
「いえ」
「普通のマッサージ?」
「はい」

こちらとしては風俗でも普通のマッサージでも、契約では居住用としてお貸ししている以上、契約違反であることには違いがありません。
クロ確定です。
管理組合さんの言うことが正しかったのです。
目の前が暗くなりました。
次はお客さんに連絡です。

「もう全部わかったので正直に話してください」
「はい」

ということで全部事情を聴いて、知人にまた貸し(転貸)してマッサージ店をやっていたことを認めました。
最初は住む予定だったものの、場所が良いからと知人に頼まれて貸してしまったとのこと。
このあたりは本当かどうかはわからないですし、正直こちらとしてはどうでもよい部分でもあります。

問題はこの後どうするかということ。
本来は契約違反で契約解除事由に該当しますので即時解除としたいところですが、本人は「マッサージはやめるので住みたい」と言っています。

これが結構難しいところで、もちろん貸主がどう判断するのかということも大きいのですが、法律の問題もあります。
お部屋を有償で第三者に貸す場合、適用される法律は借地借家法という法律ですが、この法律はとにかく借家人(借主)を保護する法律です。
例え問題を起こしても、それが解消されていて、しかもそれ以外に滞納などの問題が生じていないとなると、いくら契約書に用途違反による即時解除条項が書あったとしても契約の強制解除は難しいのが現実です。
契約上は即時解約を謳っていても、ドアを無理やり開けて首根っこを掴んで追い出すなんてことはできないのです。
(そうするとこちらが訴えられて100%負けます)

要するに裁判をして判決を受けて、それでも出ていかない時には強制執行という手続きを取らない限りは契約解除で出て行ってもらうには借主の同意が必要になるのです。
理不尽なことですが、我々業者は法律に従わざるを得ませんので、あまりこちらが強硬に出てへそを曲げられても困るという困った立場になるのです。

ところがここで一枚噛んできたのが例の管理組合さん。
私とオーナーが呼び出され「〇月〇日までに入居者を追い出さないと、あんたらを訴える」と通告されました。
「訴える」と言われても、こっちだって出て行ってもらいたいのは山々ですが、入居者はこのまま居させて欲しいと言っているわけで、法律上絶対という訳にはいかないと説明をしても管理組合は聞く耳を持ちません。
管理組合は「あんたらが退去させないのなら自分たちが退去させる。方法はいくらでもある」と言い、何やら強硬的な方法を考えている様子です。
それが法律的に白か黒かは恐らくあまり考えていないのだと思われます。

オーナーからすれば私に「出て行ってもらえるように交渉してください」としか言えませんし、私の立場ではそんな入居者と契約をした責任があります。
やるしかないというところです。
そして賃貸保証会社ですがこういう時は役には立ちません。
何故なら滞納が発生していないですし、あるいは夜逃げもしていないから。
賃貸保証会社は家賃遅れやそれに伴う明渡し訴訟、あるいは夜逃げの時の残置物処理はしてくれますが、契約違反をした入居者の退去明渡しは管轄外なのです。

そこからは入居者との交渉です。
「貸主は退去してほしいと言っています」
「いや、そこは何とかならないですか?」

こちらも低姿勢ですが、向こうも申し訳ないという気持ちはあるようですが、引っ越しは大変ですので、交渉は平行線を辿ります。

「実はあなたが出て行ってくれないと管理組合は我々を訴えると言っていますし、あなたに対しても強制執行をすると言っています」
裁判手続きを経ることなく、強制執行なんてできるわけないのですが、とにかくそう言っているのは本当ですので、それはその旨伝えました。

「我々は自分に降りかかった火の粉は自分で対処しますけど、あなたのことまでは面倒は見られませんので、その点はあなた自身で応対してもらう必要があります」

実際、私はこの時点で知り合いの弁護士に相談を行っています。

「法律上は、あなたが居座っても強制的に退去させられるかどうかは分かりません。裁判手続きが必要で、その結果次第です。日本の法律は借主さんを守りますから勝てるかもしれません」
「但し、裁判になればあなたが当事者ですし、裁判にならなくても管理組合があなたと話しをするとなれば、我々は当然味方はできないです。我々も被害者ですので」

と、こういうことを丁寧に繰り返し説明します。
要するに面倒に巻き込まれるぐらいなら引っ越した方が良いでしょ?ということを「出ていけ!」ではなく理詰めで理解させようという方針です。

途中、「なんでそこまで言われるんだ!」的な反応もありましたが、そもそもこうなった原因はあなたが招いたのだという点と、対管理組合に関しては我々は一切関知しないという点を説明し、3回目くらいの面談でなんとか退去の約束を取り付けました。

後は日取りですが、管理組合に指定された期限には結構余裕がなく、こちらが、退去は約束させたけれどもその日程は無理、と言っても向こうは折れません。
確かに部屋をそのような形で使わせてしまったのはこちらの落ち度ですが、本来、部屋の利用について管理組合が口を出せる権限は管理規約違反が生じている時だけと言えます。
既にそれが解消されている以上、そこまで口出しをすることが果たして理に適っているのか?という疑問はあるのですが、向こうは「だったら訴える」と言い、実際ちょうど管理組合の総会の時期だったので、そのことを議題で取り上げると言われました。

取り上げて私とオーナーを訴えるの?
という疑問はありますし、私はそうなったらそうなった時という気もしましたが、オーナーはあまりにも気の毒です。
募集をして契約をした私の立場ではオーナーに対して「これは不可抗力です」とは言えません。
管理組合は、強硬な理事長にほぼほぼ牛耳られているので、総会の議決は承認されるでしょう。

じりじりする日が続きましたが、その旨を相手にも伝えたところ「そうしたらその日までに出ていきます」との回答。
相手も面倒に巻き込まれることに嫌気がさしたのでしょう。
結局、総会が開かれる数日前に引っ越しが終わり、鍵も交換してひと段落しました。
相手から「ご迷惑をおかけしました」と謝罪があったのかなかったのか?は思い出せません。

振り返ってみれば、悪いのはこちらとは言え今でもあの時の管理組合さんの態度には疑問もあるのですが、実は管理組合があそこまで強硬だったので、管理組合をダシに退去させることが出来たという点もあります。
単に「オーナーが退去してくれと言っています」だけで果たして退去させられたかどうか?
借主が心を入れ替えて普通に住居として住みます、賃料もきちんと支払いますと言われたら結構厳しかったというか、おそらく裁判でも勝てないでしょうから、あとは私の交渉の腕次第ということになったでしょう。
正直相手がごねたら自信はありません。しつこくしつこくお願いするしか方法はなかったと思います。
結局、今回の一件は、オーナーはあまり賃料が採れずに、私はかなりの労力と神経を使い、借主は自業自得ですが引っ越しを余儀なくされました。
落語の3方一両損みたいな結末ですが、円満解決といった感はありません。
最後に管理組合に退去の報告と謝罪をして一件落着の運びとなりました。

後日談。
と言うよりは、並行して起きていた事案なのですが、この立ち退き交渉をしている際に、私は弁護士だけでなく何人かの知り合いの不動産業者にも話しをしていました。
「いや、参っちゃってね」から始まって、「なにかいい方法ないですかね?」という感じで色々と情報収集等を行っていたわけですが、ある日某不動産業者さんからこんな話がありました。

「つかちゃん、この間のマーサージ店を始められた話しだけど、うちもやられたみたい」

とのこと。
この時点では私の方の話しは解決していたのですが、そちらはまさに契約違反のマッサージ営業が発覚して、これから退去交渉を行うという段階だということです。
場所はうちのマンションのすぐ近く。
時期的にうちの管理マンションを退去してそこに移ったという訳ではなく、別の人みたいなのですが、どうもおかしい。

「それって客付どこですか」
「浦和の〇〇〇って会社」

ビンゴです。
うちに紹介したのと同じ業者です。
証拠はないですけど多分グルですね。

正直、相手の不動産会社がグルでだまそうとしたらこちらは見抜けないです。
保証会社の審査も通っていますし、入居理由や勤務先、風体もおかしなところが無ければわからないです。
その会社も、取り引きをしたのは初めてでしたが、応対におかしなところはなく、ホームページもしっかりしているし、うちと同じ不動産協会所属です。

解決した話しですし、証拠もないので、その後でアクションを起こしはしませんでしたが、貸主には報告しました。
「どうも、やられてしまったようです」と。
取りあえず、今後うちの会社がその浦和の某不動産業者と付き合うことはないですけど、後味の悪い終わり方でした。

不動産の現場ではこういう「ネタ」になるお話しは結構あるのですが、ネタが新鮮なうちにはもちろん書けませんし、かと言って時間が経てば細かいことを文章にするのは難しいです。

このお話しは結構印象深かったので、熟成して少し加工した上でご紹介をさせて頂いた次第です。

 

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