新聞三景

最近は新聞を購読しないご家庭も増えていると言いますが、我が家は新聞好きの家庭です。
購読しているのは通年で日経新聞、半年ごとの交代で朝日新聞と読売新聞を契約しています。
何故、朝日と読売が半年ごとなのかと言えば、これは昔からのしがらみとしか言いようがなく、これはこれで我が家の恒例行事なのですが、面白い連載小説が佳境に入ったところで新聞交代となることもあり、そうなると図書館に行って1週間分をまとめ読みするなどの面倒が生じることもあります。

その朝日と読売の交代がちょうど6月30日で、今回は朝日から読売に変わるのですが、大体交代の2日前くらいからは読売も届くようになります。
つまりこの数日は我が家に全国紙3紙が配達されるわけで、まさにその端境期にG20という世界的なイベントが日本でありましたので、3紙がどのように報じているのかを比較してみようと思いました。
もとより全国紙なので扱う題材は同じですが、切り口の違いが面白いかなと思った次第です。
各紙の主張が最も明らかになる社説を比較してみました。

<日経新聞>

日経は経済紙ですから当然切り口は経済です。
「米中貿易摩擦」を取り上げて「米中は今度こそ貿易戦争止めよ」という見出しを掲げています。
冒頭で、米中首脳会談でアメリカが追加関税の発動を猶予したことと、両国が貿易戦争の打開に向けた交渉を再開させることをひとまず歓迎しつつも、米中摩擦が世界経済や金融市場の最大リスク要因であるとして、両国は今度こそ貿易戦争を終わらせるべきと主張しています。
しかし本文を読み進めていくと日経のスタンスは明確で、中国の知的財産の侵害や技術移転の強要、国内産業への巨額補助金などの政策を非難し、「そもそも摩擦の根源は、共産党の一党独裁下で異質な国家資本主義を貫く中国側にある」と断じて、「米国に次ぐ経済大国になったにもかかわらず、相応の義務を果たそうとしないのは問題である」、「中国自身に改革案を示す責務があるはずだ」とかなり踏み込んでいます。
原因は中国側にあるというスタンスで、アメリカはそれに対応するにしてもむやみな貿易戦争を仕掛けるのはやめるべきという論調で、3紙の中では最も中国に対して厳しい意見を書いていました。
もっとも米国に対しても「国際ルールに抵触する高関税の乱用は、戦後の自由貿易体制を主導してきた米国にあるまじき行為だ」と非難していますので、悪いのは中国、けれども感情的なアメリカの対応も愚策ということで、日経は「日本や欧州などと連携し、中国に改革を迫るのが王道であろう」とまとめています。

<読売新聞>

タイトルは「米中首脳会議」、見出しは「制裁と報復の応酬に歯止めを」、「建設的な対話で打開策を探れ」とあります。
全体的なトーンは日経と同じで、取りあえず米中が対話の道を探ったことを歓迎しつつも先行きへの不安にも触れています。
具体的には「決裂という最悪の事態はひとまず回避され、事態はわずかながら改善したといえよう」という表現で、取りあえずなんとか一息はつけたというニュアンスを出しながらも「両国の隔たりは大きい。問題の先送りに過ぎず、交渉の行方は楽観できまい」と結んでいます。
全体として中国側を厳しく批判する表現は抑えめですが、「知的財産権の侵害」、「自国企業への不透明な補助金」に対しては「中国が実行性のある改革案を示す必要がある」とし、外国企業への技術移転の強要についても改善余地が大きいと具体的に指摘しています。
また摩擦が激化しないよう、米国が関税を引き上げた場合の国内経済への影響や、中国がレアアースの輸出制限を対抗措置として検討していることにも言及し、事態がこれ以上悪くならないことを祈るようなニュアンスが感じられます。
3紙の中では抑揚を押さえつつも最もバランスがとれているのが読売という感じがしました。

<朝日新聞>

朝日は他の2紙とほぼ同じ大きさのスペースに2つの社説を載せているので、1つの記事のボリュームは少なめです。
1つは「大阪G20閉幕 安部外交の限界見えた」で、もう一つは他紙と同じ「米中首脳会談 世界の不安解く交渉を」です。

朝日の安倍政権嫌いは筋金入りで、ほとんど「坊主憎けりゃ」の世界なので割り引いて読む必要はありますが、首脳宣言で「反保護主義への言及」が昨年に続き見送られたことを指摘し、採択された首脳宣言が米国第一主義を貫くトランプ大統領に配慮したもので、トランプ大統領の説得を最初から諦めていたのではないか?と推察しています。
首脳宣言の文言採択のやり取りについては読売の別記事に舞台裏が生々しく書かれていて、最初からあきらめていたという指摘は当たらない気もしますが、いずれにしても米国に配慮したのは明らかで、蜜月とされる安倍首相とトランプ大統領の関係も、具体的な解決に生かせてこそ意味があると否定的です。
また米国とイランの対立などそれ以外の難しいテーマから「逃げたとみられても仕方あるまい」、「親密な個人的関係を成果につなげることも出来ず、いいように揺さぶられている現状を、首相はどう説明するのか」、日韓首脳会談が見送られたことに対して「重要な隣国である韓国との関係悪化を放置するのは、賢明な近隣外交とはいいがたい」と手厳しく批判しています。
ただ推測や主観で批判をしている部分もあり、それが却って論説の信頼性を損ねているのではないかという印象も与えます。
昨今、朝日新聞は批判されることも多いですが、個人的には朝日新聞はリベラルな姿勢はそのままでも、事実のみを採り上げて批判すべきは批判し、認めるところは認めるというスタンスになったほうが信頼度が増すのではないかと思います。

もう一つの社説である「米中首脳会談」については、「決裂を避けつつも先送りでしかなかった」、「両者が”自国第一”から脱しない限り、世界の不安は解消しない」と指摘しています。
日経と読売が曲がりなりにも「歓迎」と表現しているのに比べると否定的なニュアンスが強く、「最悪の事態を回避し、話し合いの席に戻るのは前向きではあるが、展望は明るくない」とも表現しています。
この辺りは言っている内容に大差はなくとも、言い回しがだいぶ異なる印象で、各紙による見方、切り口の差と言える部分だと思います。
また朝日の社説では「争点である中国の国内産業への補助や知的財産権の侵害などについて、今回の発表で言及はない。今後も再び時をやり過ごすとすれば無責任である」という表現があります。
他の2紙と比べて特徴的なのはこの文章には主語がないことで、無責任なのが一体誰なのかが分かりません。
「争点が”中国の”国内産業への補助や知的財産権の損害」と書いてある以上、無責任なのは中国側と読みとるのが自然なのでしょうが、この書き方では米中両国とも無責任という感も匂わせます。
他の2紙が強度は違えど中国に責任があると断じているのに対し、朝日は責任は中国にあるように匂わせつつも言及を避けている感が強いです。
しかし無責任と厳しく非難しつつ、それが誰なのかを濁す書き方は非常によろしくなく、中国への「忖度?」と言われても仕方のない書き方だと思います。
朝日の主張は「米中も深い相互依存の関係にあり、”冷戦”構造を作れるはずもない。両首脳とも、その現実を国内に説いて妥協を探るほか道はない」という表現に表れており、どっちが悪いとか非難しあっても仕方がなく、「両首脳は(中略)世界の未来を考える大局観を持って交渉を進めて欲しい」という意見です。
ただ総論としてはその通りなのですが、ではそのためにどうするの?という部分がないため、青臭い書生論のような印象も与えます。
個人的には書生論には書生論の意義があり、これをただ冷笑的にみることには否定的ですが、いずれにしても朝日は巷間言われるように、思いのほか他紙と比べてニュアンスに差があるなという印象を持ちました。

今回はたまたま手元に日本を代表する全国紙3紙があり、大阪G20サミットという大きなイベントがあったため、比較をしてみようかと興味が湧きました。
読み比べて思ったことは、全国紙と言われる新聞であっても基本的にはその会社の方針に沿って書かれている以上、ポジショントークの要素は拭いきれないということです。
そういう意味では、我々消費者は自分の主張と合う新聞を読めば良いとも言えますし、幅広い意見を知ろうとするのであれば、一つの新聞だけでなく、あるいは新聞以外の様々なニュースソースを触れる必要があるとも思いました。

最近は新聞の発行部数がどんどん低下して、宅配制度が維持できるかどうかの瀬戸際になっているそうですが、我が家は新聞休刊日には「あ、今日新聞無いのか!」と残念がるくらいの新聞好きな家庭なので新聞各社には頑張ってもらいたいと思います。

新聞三景

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