【おしどり贈与】配偶者への居住用財産の贈与

通称「おしどり贈与」と呼ばれる配偶者間での居住用財産(マイホーム)の生前贈与があります。

先日、知り合いから質問を受けたので、内容を今一度確認してみました。
生前贈与にはいくつか種類はありますが、おしどり贈与は名前からも推察される通り、遺産分割や節税対策といった側面よりも、感謝や思いやりといった想いが前面に出た贈与という点でやや特殊なイメージがあります。

<制度の概要>
婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用財産(マイホームあるいはその取得資金)を贈与すると、評価額2000万円までは贈与税がかからないという制度です。
但し、同一夫婦間では一度しか使うことが出来ず、内縁関係など法律に基づくかない関係の場合には使うことが出来ません。
尚、2000万円を超えた部分については通常の贈与税が課税されます。
(110万円の基礎控除後の金額に課税がなされます)

1)「配偶者への居住用財産の贈与」というと堅苦しいですが、一般的にはご主人が奥様に自分名義のマイホームを贈与するというケースが多いです。
2)別居していても使うことが出来ます。あくまでも法律上の夫婦という関係が基準となります
3)要件はありますが土地だけ、建物だけという贈与も可能です。また土地と建物の一部を贈与するということも可能です(持ち分の贈与。割合は土地と建物で違っても可)。
4)居住用財産が対象ですので、住宅でも投資用マンションや別荘などには適用されません。
5)事務所や店舗と併用されている住宅も贈与できます。(住宅部分から優先的に非課税額を適用します。建物の90%以上が住宅であればすべて居住用とみなします)
6)贈与するマイホームは国内財産に限ります
7)翌年の2/1~3/15までの間に贈与税の申告をしなくてはなりません。2000万円以下の贈与で贈与税がかからない場合でも申告は必要です。(忘れると多額の贈与税が課税されてしまいます)
8)贈与されたマイホームをすぐに売却することはできません。また売却を前提としておしどり贈与をすることはできません。

<気持ちの面での効果>
夫婦間で感謝の気持ちを込めてマイホーム等を贈与するという意味で、精神面な効果が非常に大きい贈与とされています。

<遺産分割面での効果>
生前贈与財産は相続時の遺産分割協議の対象となりませんので、確実に所有権を移転することが出来ます。
またおしどり贈与によるマイホーム等の贈与は特別受益にも該当しないことが多いので、金額としても遺産分割協議の対象から外れます。(遺留分の対象にはなりますが)
例えば、配偶者と子供の折り合いが悪い場合などには、マイホームを相続時の遺産分割協議や遺言による遺産分割の指定に持ち越さず、自分の目の黒いうちに所有権を確実に奥様に移しておくといった対策にも使えます。

<税制面での効果>
1)贈与税非課税と言いながら、実は節税という意味ではあまり効果がない(ことが多い)のがこの贈与です。
これは、もともと相続税には基礎控除があり、相続財産の価額が基礎控除以下であれば相続税はかかりません。(基礎控除の金額は相続人の人数によって異なります)
また相続税が課税される場合でも、配偶者には大きな配偶者控除が認められていますので、相続でマイホームを取得した場合でも結局のところ相続税が非課税となることは多いです。
ちなみに配偶者控除は、相続で配偶者が取得した相続財産のうち、法定相続分(相続人が自分と子供だけなら1/2)か1億6千万円までであれば相続税がかからないという制度ですので、かなり大きな財産をお持ちのご家庭でない限りはおしどり贈与による節税効果を意識する必要はあまりないと思われます。

2)おしどり贈与は相続税計算を行う上で、相続開始前3年以内の生前贈与のもち戻しの対象にはなりません。この辺りはややこしく感じるかもしれませんが、これも相続税計算上のメリットではありますが、上記2)の通り配偶者の大きな税額控除効果の中で吸収されてしまうことが多いです。

3)小規模宅地等の評価減の特例が適用できなくなります。小規模宅地等の評価減の特例もややこしい制度ですが、相続財産の評価額を減らして相続税を縮小する効果の高い特例ですので、相続税の配偶者控除を適用してもなお多額の相続税が課税されるような財産が多いご家庭の場合には、おしどり贈与をするよりも小規模宅地等の評価減の特例を適用したほうがメリットが大きいというケースは少なくありません。

4)おしどり贈与を行った後に、その居住用財産を売却した場合に節税効果が得られることがあります。
具体的には居住用財産を売却した際の譲渡益からの3000万円の特別控除が、夫婦お二人で利用することが可能になります。
詳細は省略しますが、例えば2000万円で購入したマイホームが6000万円で売却できたケースでは、

一人で所有していた場合には

{(6000万円-2000万円)-3000万円}×14%=140万円

の譲渡所得税がかかります。(10年超の長期所有の場合、簡略化しているため譲渡経費等は考慮していません)

一方、夫婦でマイホームを共有している状態で売却すると、夫婦一人当たりの税額計算は、

{(3000万円-1000万円)-3000万円}<0

となり譲渡所得はゼロとなるため、結果的に譲渡所得税もかかりません。
おしどり贈与は売却を前提に行うことはできませんが、将来的な売却までも拘束するものではありませんので、おしどり贈与によりマイホームを共有化したのちに、やむを得ない事情でマイホームを売却をする場合には譲渡所得税が節税できる可能性があります。
尚、マイホームを売却する際に3000万円特別控除を利用した場合、新たなマイホームを買い替えた際の住宅ローン控除の適用には制限がありますのでご注意ください。

<留意点>
1)おしどり贈与では贈与税は2000万円までは非課税になりますが、所有権移転の登録免許税や不動産取得税は課税されます。
マイホームを相続で取得した場合には登録免許税は軽減され不動産取得税もかかりませんので、その分のコストは見込んでおく必要があります。
(マイホームの築年数等により軽減措置がありますので一概には言えませんが、さいたま市周辺の標準的な住宅の場合には数十万円単位となることが多いと思われます)
2)贈与しようとするマイホームの住宅ローンが残っている場合には、名義変更は事前に金融機関の承認が必要となることが多いです。おしどり贈与とは言え、無断で贈与をしてしまうと最悪の場合住宅ローンの一括返済を求められる可能性もあるので注意が必要です。
3)将来のことは何が起きるかわかりませので、贈与された方が先に死亡することもあり得ます。その場合には贈与財産が贈与をした配偶者のもとに戻ってくることになります。

おしどり贈与は使ってみたいと考える方が意外と多いのですが、損得だけで考えるとそれほど効果的な贈与にならないことが多いです。
むしろ気持ちの面での効果が大きい贈与だいうことをご理解の上、注意すべき点も含め事前に十分検討をした上で取り進めて頂ければと思います。

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