相続への備え 不動産のあるべき姿とは

相続の準備というと相続税がかかるのか?(あるいは少なくできるのか?)を考える方が多いかもしれません。
また最近メディアでよく取り上げられるエンディングノートや遺言書の作成、断捨離が頭に浮かぶ方もいると思います。
相続の準備は誰かに強制されるものではなく、ご自分の意思とタイミングで始めるものですのですから、何が正解で何が間違っているということはありません。
正しい知識を持つことは重要ですが、まずは自分がしようと思ったこと(=自分が気になっていること))から取り掛かることが自分にとっての正しい相続準備と言うことが出来ます。

他方、不動産業者の立場から言うと、お持ちの不動産をあるべき姿にしておくことも非常に重要な相続の準備だということはお伝えしておきたいと思います。
不動産のあるべき姿とは、その不動産が引き続き本来の用途で利用でき、処分等をしようとした場合には本来の価値で取引が成立する状態を指します。
不動産には現在の利用状況を見ただけでは問題があるのか無いのかが分からないという特徴がありますので、次のような点が整っているかどうかを調べておくことがとても重要になります。

・所有者と登記名義人が一致している
不動産を売却等の処分を行おうとする場合、所有者と登記名義人が一致している必要があります。
例えば自分が使用している土地が父や祖父名義のままなどという場合には、まず登記を自分名義の変更する必要があります。
もし遺産分割協議自体が終わっていないとなると、所有者と登記名義人を一致させるためには今の登記名義人の相続発生時の相続人を全員探しだし、遺産分割協議を相続開始時点に遡って行う必要があります。
その遺産分割協議が終わるまでは、実はその不動産は法律上相続人全員による共有の状態になっていることが多く、更に次の相続が発生している場合にはその相続人を探すことが大変になると共に、時間が経てば経つほど関係が薄くなり人数が増える傾向があります。
所有者と登記名義人の不一致がある場合にはすぐに正しい名義に変える必要があります。

・土地の境界が確定している
本来、土地は全ての境界が確定していないと、自分の所有権の及ぶ範囲が確定できません。
土地の境界が確定している状態とは
1)全ての隣地所有者との揉め事が無く
2)署名捺印をした立会証明書が取り交わされていて
3)境界標が設置され
4)土地家屋調査士による測量がされ、その確定測量図が登記されている
状態を指します。
これらが整っていない土地というのは自分が所有している(所有権を有している)範囲が確定していない土地ということになります。
一見、塀やフェンスで仕切られていても、それが必ずしも境界が確定していることを意味しないという点には注意が必要です。

・法律違反状態ではない
例えば一定の幅で道路に接していない(接道義務を満たしていない)土地には建物が建てられません。
これは今現在建物がある土地の場合でも、今後は建て替えが出来ないということを意味しており、土地の価値は大幅に下がります。
また増改築を行っていて法令に定める建ぺい率、容積率に違反している建築物は既存不適格建物と言い、担保価値が減少し売却に支障が出ます。

・他人の土地に建物等が越境していない(越境されていない)
越境は地中・空中を含みます。
越境はしている側でもされている側でも当然トラブルの元になります。

・自分の土地や建物に他人の権利が付着していない
契約や法令に基づかず既得権益化している他人の権利(土地を勝手に通行する人がいるなど)があるときには、その解消を図る必要があります。
また契約に基づく土地や建物に対する第三者の権利であっても、相応の対価を得ていない場合には不動産の価値を減じる要因となります。

・権利証(登記識別情報)、建物の検査済証、購入時の契約書などの重要書類が揃っている
不動産に関わる権利等を証明する書類は再発行できないものも多く、それらが揃っていることは非常に重要になります。
真正な土地の名義人であることの証明である土地の権利証(登記識別情報)や建物が法律に合致して建てられていることを証明する検査済証などは特に重要な書類です。
また土地や建物について調査をした内容についての書類があればそれらも非常に重要な書類となります。

上で挙げたような内容が満たされていない不動産は、程度にもよりますがあるべき姿の不動産ではないといえます。
しかもこれらは、日頃不動産を利用している限りにおいては問題になることが少なく、ご自身での調査が難しいものもあります。
そのためいざ相続が発生し、相続した方が建て替えや売却などをしようとした時に初めて問題が顕在化するということが珍しくありません。
もしお手持ちの不動産がこのような状態にあるのか無いのかが分からない時には、一度点検をすることをお勧めします。
もし問題がある状態で相続が発生した場合には、相続された方が問題を解決するために非常に苦労をすることになりかねません。
不動産に関する相続の準備を考える時には、これらの問題がお手持ちの不動産で起きていないかを確認し、もしその様な問題があることが分かった時には出来ればご自身の手で解決しようとすることが重要な相続の準備となります。

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