改正相続法-概要

今年7月の法改正により、民法における相続に関する規定が大幅に改正されることになりました。
施行は年明けの1月から順次行われる予定です。

今回の改正は40年ぶりということもあり重要な改正点が多く、新聞記事などでも断片的に概要が伝えられていますが、もう一歩踏み込んだ実務レベルで理解を深めようとすると、どうしてもプロの講師による専門家向けセミナーを受講しないと叶いません。

ということで毎度おなじみの東京アプレイザルさんで「改正相続法による 相続実務の変更の概要」というセミナーを受講してきました。
講師は弁護士の江口先生ですが、この先生は法解釈に関してお役所から意見を求められる立場のいわば専門家中の専門家ですが、その講義は情熱的かつユーモアあり、何よりも非常に密度が濃いのが特徴です。
民法改正という大きなテーマでしたので受講者もたくさんいました。

今回のテーマである民法改正は以下の内容となります。

1.配偶者居住権の創設
配偶者が子を始めとする他の相続人と折り合いが悪く、相続財産がほぼ自宅しかない場合には、遺産分割協議がまとまらずに最終的には自宅を売却して遺産分割をせざるを得なくなるなど、配偶者が自宅に住み続られなくなる恐れがありました。
この様な事態を避けるため、配偶者の居住権を所有権とは独立した権利として認め、遺産分割協議あるいは遺贈等により配偶者が配偶者居住権を取得した場合には無償で自宅に住み続けることが可能になりました。
自宅を配偶者所有権と配偶者居住権付きの所有権の2つの概念に分けるという考え方となります。

2.配偶者に対する居住用不動産贈与(通称:おしどり贈与)における特別受益の持ち戻し免除の推定
婚姻後20年を超えた夫婦間で認められる2000万円までの居住用財産の贈与税非課税措置(おしどり贈与)について、この贈与は本来贈与税の対象にはなりませんが、遺産分割協議における特別受益には該当します。
おしどり贈与についても、贈与者が贈与した居住用財産は遺産分割協議における特別受益の持ち戻し免除の意思表示をしていない場合には、配偶者は遺産分割協議において贈与された居住用不動産が遺産分割の前渡し分と見なされて、相続時の相続分が少なくなってしまうという恐れがありました。
今回の法改正により、おしどり贈与については特段の意思表示が無くても持ち戻しの免除があったものとして取り扱われることになりました。

3.被相続人の預貯金の仮払い制度の創設
2016年に相続財産である預貯金は遺産分割の対象となるという最高裁判決が出ました。
文章だけ読むとそんなことは当たり前ではないか?と思われる方が多いかと思いますが、実はそれまでの法解釈は違っていて、預貯金は法定相続分で自動的に分割されるものとされていました。
(それにもかかわらず金融機関が遺産分割協議が終了しない限り預貯金の引き出しに応じていなかったのは、金融機関の自主的なルールによるものでした)
ところが従来の法解釈を覆す最高裁判決が出た結果、現在では被相続人が金融機関に預けていた預貯金は、共同相続人による遺産分割協議が終了しない限り一円たりとも引き出すことが出来なくなりました。
しかしそれでは被相続人の債務の返済や葬儀費用、相続人の生活費など実務上必要な支払い等に支障が出かねませんので、当座の支払いに充当できるよう、預貯金の仮払い制度が創設されることになりました。

4.遺産の一部分割
従来の遺産分割では財産の一部分割には必要性や許容性(全体の遺産分割に支障が生じないこと)が求められていましたが、法改正により遺言等で禁止されていない限り一部分割が認められることになりました。

5.遺産分割前の遺産処分の取り扱い
従来は、相続発生後遺産分割前に相続人の一部が遺産を処分しているとその財産は遺産分割協議の対象ではないとされていました。
例えばある相続人が勝手に土地を売却してしまった場合などには、売買代金が遺産分割の対象になるのではなく、売買代金を各相続人が相続分に応じて分割取得するものと解釈されていました。
法改正後はそれらの財産も相続人の合意があれば遺産分割の対象になることになりました。
(処分をした相続人の合意は不要なので、他の相続人が合意すれば対象になります)

6.自筆証書遺言の要件緩和、遺言保管制度
従来自筆証書遺言はその全てが自筆である必要があり、財産が多岐に渡る場合などには財産目録の作成が非常に困難な場合がありました。
法改正により財産目録は自署でなく、パソコンでの作成や登記簿や通帳のコピーでもよくなりました(但し、全てのページに署名捺印が必要です)
また自筆証書遺言の場合、紛失、未発見、改ざん、破棄といった恐れがありましたが、法改正後は法務局で磁気データとして保管をしてもらえる仕組みが創設されます。
法務局に保管を依頼した自筆証書遺言は相続発生後の裁判所の検認も不要となりますので、今後、自筆証書遺言は法務局保管が主流になると思われます。
尚、自筆証書遺言制度の改正法の施行は2019年1月13日となり、今回の相続法改正の中では最も早い施行となります。

7.遺言執行者に関する改正
従来、遺言執行者は相続人の代理人と見なされていました。
概念的には当然被相続人の代理人であるべきですが、亡くなった人の代理はできないという意味で相続人の代理人と位置付けられていました。
実務上、遺言の内容と相続人の意向が相反することは少なくなく、遺言執行者が板挟みになるケースが散見されましたが、法改正により「遺言の内容を実現するため(中略)一切の行為をする権利義務を有する」と規定されました。

8.遺留分減殺請求権の見直し
法定相続人の最低限の相続分を定める遺留分制度ですが、侵害された遺留分を回復するための権利を「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」として金銭債権化しました。
つまり遺留分の弁済を不動産や株式の持ち分ではなく金銭債権化することで相続財産の共有化を回避することが図られることになります。
また遺留分算定方法(計算の根拠となる財産)も変更され、特別受益は相続前10年以内のもののみが対象となりました。(従前は特別受益については期間の定めがありませんでした)

9.相続の効力等
従来、遺言により相続された財産(相続人に対する相続させる遺言)は、第三者への対抗要件を有さずに権利を主張が出来ましたが、法改正により法定相続分を超える分については対抗要件を具備する必要があるとされました。

10.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
相続人以外の親族(子の配偶者や子がいる場合の兄弟姉妹など)が被相続人の療養看護等を行った場合には相続人に対して金銭請求を出来る制度(特別の寄与)が創設されます。
従来寄与分は相続人にしか認められなかったため、その他の親族の貢献に報いるための制度を設けたものです。

主な改正点をまとめて書いてみたつもりですが、正直言って何がなにやら分からないかと思います。
私自身もテキストを読み返しながら書いては見たものの、整理がついていないというのが正直なところですし、法律自体も判例を重ねないと解釈が定まらない部分が大いにある様子です。
特に配偶者居住権などは全く新しい概念であり、実際にどの程度運用されるのかは未知数です。
時間をかけてもう少し勉強してみる必要があるようです。

これだけの内容ですので3時間みっちり講義を受けても全然時間が足りない感じですが、それでも相続法の改正を体系的に学べて有意義でした。

講義終了後はフラッと下車した北浦和駅近くの赤ちょうちんで軽く一杯飲んで帰りました。

 

 

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