2018年12月8日の日経新聞より
今年の7月に民法の相続にかかわる規定(通称:相続法)が40年ぶりに改正され、相続実務にどのような影響があるのかが注目されています。
今回の記事で紹介されている「遺言執行者に関する規定」のその一つで、施行は2019年7月となっています。
遺言執行者とは、名前の通り遺言に書かれた内容を執行する権限を持った人を指し、遺言書内で指名された人が就任するケースが多いですが、遺言の中で指名がなされていない場合には相続人などの利害関係人が家庭裁判所に選任を申し立てることが出来ます。
選任された遺言執行者は遺言に書かれた内容に従い財産を分割し、名義の変更手続きなどを行います。
相続人が自ら遺言に定められた手続きを行う場合には、遺言内容に納得していない相続人の協力が得られないといった問題がありますが、遺言執行者が決まっていればその心配はありません。
実務的には遺言を残す際には、遺言執行者の選任は不可欠と考えてよいと思います。
遺言執行者について、従来は「相続人の代理人」なのか「(相続人の考えとは対立しても)遺言内容を執行する人」なのか立場が曖昧な面がありましたが、今回の法改正により「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と権限が明確化されました。
遺言で遺言執行者を決める場合、多くの場合は相続人のうち誰か一人を定めることが多いですが、遺言による遺産の配分が偏っている場合などには権限としては有効でも、感情面での軋轢が生じることもあり得ます。
その様な場合には、費用はかかりますが弁護士や司法書士などの専門職の方を指定することも可能です。
但し、その際に懸念となるのが、遺言と異なる内容での遺産分割規定との兼ね合いです。
というのは、遺言は被相続人の遺志であり原則として遺産分割協議に優先しますが、相続人と受遺者(遺贈を受けた人)の全員が合意した場合には、遺言内容と異なる遺産分割を行うことができるという規定があるからです。
相続人の1人が遺言執行者である場合にはその点は問題になりませんが、専門職の遺言執行者が選任されている場合、今回の法改正で権限が明確に「遺言内容を実現するための権利義務を有する」とされましたので、相続人等全員の合意があっても、遺言執行者がその内容を拒絶することが可能なのではないかという懸念は強くなりました。
もっとも従来も遺言執行者を蚊帳の外において、相続人等が遺言と異なる遺産分割を行うということは実務的には殆どありませんでしたし、そもそも遺言の内容と異なる遺産分割がまとまる例というのはそれほど多くないと思われますので、あまり心配する必要はないのかもしれませんが。
また記事中にもありますが、遺言による認知や廃除手続きなど遺言執行者にしかできない手続もありますので、その点には注意が必要です
この度の相続法の改正はこれ以外にもかなり踏み込んだ内容のものが多いので、引き続き注視していきたいと思います。