相続問題の解決プロセス

相続においては以下の4つの大きな問題があります。

相続問題の解決プロセス

相続問題は俗に「感情と勘定」と言われ、理屈では割り切れない気持ちの問題にお金が絡むことで争いが生じるとされています。
では逆に相続で揉めないために大事なことはというと、それは相続財産の分配を相続人による遺産分割協議にすべて委ねるのではなく、被相続人となる方が生前のうちに遺言等によって相続の道筋をある程度つくっておくことにあると言われています。
相続人が子供の場合、被相続人である親の気持ちとしては子供たちで仲良く財産を分けて欲しいと考えたくなる気持ちはわかりますが、現実はそう簡単にはいかないことが珍しくありません。
実際に統計資料を見ても、相続争いは財産の多寡とは関係なく発生していますし、相続争いが原因でその後の家族関係が崩壊してしまうケースも少なからず発生しているのです。
相続対策は被相続人が生前に意思判断能力が十分に備わっているうちであれば色々な手を打つことも可能ですが、相続が発生してからでは行える相続対策は何もありません。
相続問題を解決するためのプロセスをご理解の上、ご家族と協力して将来の相続争いを減らしてほしいと思います。

1.相続問題解決のプロセス

相続の生前対策は下の図のようなサイクルを繰り返すことにあります。

相続問題の解決プロセス

2.問題点の把握

相続問題は大きく4つに分けることが出来るというお話しをしました。

相続問題の解決プロセスは、まずはご自身の家庭でどのような問題が発生する可能性があるのかを把握するところから始まります。
特に複数の相続人がいらっしゃる場合には、遺産分割が円滑に進むための対策をとることは非常に重要です。
相続の事情は相続人の構成や人間関係、財産の種類と金額など各ご家庭によって千差万別であるため、相続対策についても事情に応じたオーダーメードな対策が必要となります。
問題点の把握はそのための第一歩となります。
(「揉めやすさチェック」を試してみてください)

3.問題の共有化

ある意味、生前対策で最も難しいのが問題の共有化かもしれません。
なぜならこの時点で相続の方向性をある程度被相続人(予定者)と相続人(予定者)で話し合う必要があるからです。
親と子の考え方の違い、子供同士の考え方の違い、相続人以外に財産を遺したいという意向などが表面化することで、相続発生前から揉めごとが起こってしまう可能性も否定できません。
敢えて寝た子を起こす様なことをしなくてもと思われるかもしれませんが、しかしそれでも相続が発生した後に問題が起きるよりは良いと思います。
財産を持っている被相続人(予定者)が中心となって、出来るだけ皆が納得しやすい合理的な対策がとれるよう議論をリードすることが出来ますし、そのための時間も十分あるからです。
結局のところ、相続対策とは自分の死後における財産の承継方針を決定し、その方向に沿って相続が発生するまで財産を管理していくことに他なりません。
相続対策を行うことができるのは、最終的には財産を持っている被相続人(予定者)だけということをご理解いただいた上で、問題意識の共有化にお努め下さい。

4.対策の検討

問題点を洗い出し、関係当事者間で問題意識を共有して、初めて具体的な対策の検討に移ることが出来ます。
相続対策には自筆証書遺言を書くといった費用も殆どかからず単独でできる対策から、不動産の買い換えや賃貸物件の建築といった大掛かりなものまで様々な種類があります。
また生前贈与は少額を長期に渡って行うスパンの長い対策となりますし、生命保険は多目的に利用できる相続対策の王道とも言うべき対策です。
一方で、昨今は被相続人(予定者)が意思判断能力を失ってしまった時のことも考えておく必要があります。
今の制度において、本人が意思判断能力を失った時に採れる対応策は、「後見制度の利用」と「民事信託(家族信託)の活用」となり、それ以外に本人に成り代わって法律行為を行う手段はありません。
相続対策は一つで万能というものは無く、いくつかの対策組み合わせることが必要になることが多く、最適な相続対策は家族構成の変化などその時々でも変わります。
専門家の助けを借りながら最適な相続対策を検討する必要があります。

5.対策の実行

対策が決まれば、それを実行に移します。
対策を行った結果、財産の構成が変わってくることなどが当然予想されますが、これらの内容について相続人(予定者)が全て把握しているとは限りません。
相続発生時に相続人が迷うことのないよう、遺言を始め、自分がどのような財産を所有していて、どのような契約を結んでいるのかなど相続対策の結果について記録を残しておくことが必要です。

6.検証

相続対策は一度行ったら終わりではないところに大変さがあります。
現金が必要になり不動産の売却を迫られたり、法律が変わることで今まで行っていた対策の効力が亡くなったりといった当初には予期していなかった事情が起きることは珍しくありません。
(近年では、「小規模宅地等の評価減の特例」における「家なき子」の定義が大幅に変わったことなどが該当します)
また家族関係も孫の出生や、子の結婚や離婚、介護などによって大きく変わってきます。
相続対策には長期に渡り行うものが少なくありませんので、その間の事情変更リスクはつきものとも言えます。
その時々の事情に合わせて、進行中の相続対策を修正することが非常に重要になります。


近年、遺産分割が調停の場に持ち込まれた相続紛争のうち約75%は遺産総額が5,000万円以下の事案と言われています。
遺産総額が5,000万円以下というと、これは相続財産が自宅の土地建物と現預金等という標準的なご家庭が対象になってきますので、この事実一つをとってみても相続争いはごく身近なところで起こっていることが分かります。
2015年の相続税の基礎控除の引き下げにより相続がより身近になり、相続税の課税対象となる世帯も増えました。
今や相続対策は全てのご家庭において無関係ではいらないと言っても過言ではありません。
相続問題の解決プロセスを円状の図で表したのは、相続問題の解決に終わりが無いという意味も含んでいます。
相続において最も避けるべきは、相続を通じて家族関係が壊れてしまうことです。
その様な事態を避けるためにも相続を迎える方(被相続人予定者)には問題解決に向けての積極的な姿勢が求められます。