成年後見制度

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などにより物事の判断能力が十分でない人のために、本人の権利を法的に守り支援する制度です。
財産管理と身上監護(生活、療養看護)を主たる目的とした制度で、本人の利益を最優先に考えた上で後見人等が代理人として法律行為を行い、本人の権利を保護します。
但し、財産についてはあくまでも管理・維持することが目的で積極的な資産運用や遺産分割協議への柔軟な対応、不動産の売却・有効活用などの相続対策は行うことができません。
成年後見制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つに分かれています。

成年後見制度

1.法定後見制度

本人、配偶者、4親等以内の親族、市町村長などの申し立てに基づき、家庭裁判所が審判をします。
現実的には意思判断能力を失いつつある本人のために周囲の親族等が申し立てを行うケースが多いです。
法定後見制度は、本人の判断能力の程度によって「後見」、「保佐」、「補助」の3種類に分かれており、家庭裁判所が「成年後見人」(あるいは「保佐人」、「補助人」)を選任します。
最近は家庭裁判所が最も程度が重い(事理弁識能力を常に欠いている)人を対象とする「後見」を選ぶことが多くなっています。

<法定後見開始までの流れ>

法定後見制度の流れ

1)成年後見人ができること

  • 契約等の法律行為(本人の代理人)
  • 本人が自ら行った法律行為の取り消し
    (日用品の購入等日常生活に関わるものは除きます)
  • 身上監護

成年後見人は預貯金の管理、不動産その他の重要な財産の管理等(売買契約、賃貸借契約等を含む)を行います。
但し、居住用不動産の売却や賃貸、担保権の設定など重要な法律行為は家庭裁判所の許可が無いと行うこと来ません。
また本人が後見人の同意を得ずに行った法律行為(悪質な訪問販売など)を取り消すことが出来ます。
身上監護については療養看護のための介護契約、施設入所契約、医療契約等を行います。
尚、後見人が自ら医療・介護、身の回りの世話等を行わず、あくまでのそのための段取り(契約等)が本来業務となります。

2)成年後見人になれる人

成年後見人は以下の欠格事由があります。

  • 未成年者
  • 破産者
  • 被後見人に対し訴訟をした人(またはその配偶者等)

制度上、成年後見人には欠格事由に該当しない限り、個人でも法人でもなることが出来ますが、実務上は親族後見人による財産の使い込み等が頻発したため、現在では弁護士等の専門職が指定されることが中心となっています。

3)後見監督人

家庭裁判所は成年被後見人、成年被後見人の親族、成年後見人の請求または職権により後見監督人を選任することが出来ます、
後見監督人は後見人の事務を監督し、成年後見人は重要な財産の処分については後見監督人の同意が必要になります。

4)申し立てにかかる費用

法定後見制度の申し立てに必要な費用は印紙や郵便切手が数千円ら数万円程度ですが、本人の鑑定費用、診断書費用に10万円程度かかります。
また手続きを弁護士に依頼した場合には30万円前後、司法書士に依頼した場合には15万円程度の報酬がかかります。

5)成年後見人の報酬

近年は専門職が成年後見に就任するケースが大半ですが、その場合被後見人の財産の中から報酬を支払う必要があります。
報酬について法律による定めはありませんが、被後見人の財産価額や諸事情等を考慮の上、裁判所が決定します。
東京家庭裁判所の場合、

財産価額 成年後見人 成年後見監督人
5,000万円以下 3~4万円 1~2万円
5,000万円超 5~6万円 3~4万円

を基準としています。
また身上看護等で特別に困難な事情があった場合などには、基本報酬額の50%の範囲内で相当額の報酬を付加するものとします。
成年後見人制度は、この報酬負担の重さがネックになることが多いです。

2.任意後見制度

法定後見が本人または関係者の申し立てにより裁判所が後見人を決めるのに対し、任意後見は本人が自分が意思判断応力を失ったときに備えて自ら後見人を公正証書による契約により決めておく制度です。
任意後見制度には、契約と同時に後見が始まる「即効型」、将来の後見についてのみ契約をする「将来型」、後見開始前は身上監護と財産管理の委任契約を結び、本人の判断応力が低下した時に後見に移行する「移行型」があります。
実務的には、判断応力の衰えや身体の自由が利かなくなってきつつあるときには見守り契約(委任契約)で対応し、後見が必要になったときに後見契約に移行する「移行型」が採用されることが多いです。

<任意後見開始までの流れ>

任意後見開始までの流れ

1)任意後見人にできること

任意後見人が行う業務も原則として法定後見と変わりません。

  • 財産管理
  • 身上監護
    となります。
    但し、法定後見で認められていた、法律行為の取消権はありません。

2)任意後見人になれる人

法定後見人とほぼ同様です。

3)後見監督人

任意後見人制度では、後見監督人の選任が条件となっています。
被後見人が自ら選任した人とはいえ、その業務を監督する人がいないというのは被後見人にとってあまりにもリスクが大きいと判断されるためです。
後見監督人は家庭裁判所が弁護士等の専門職を選任します。

4)申立にかかる費用

法定後見と異なり本人の鑑定費用は裁判所からの指定がない限りかかりません。
それ以外の費用については法定後見とほぼ同じです。

5)任意後見人の報酬

任意後見人との後見契約によって定めます。
後見監督人については法定後見と同様です。

3.成年後見制度でできないこと

成年後見人は本人に代わり全ての法律行為ができるわけではありません。
成年後見人を選任すれば本人に関わる全てのことを任せることができると考えている方がいますが、そうではありません。
以下の業務については後見人が行うことが出来ません。

1)医療行為に関する同意権(拒否権)

成年後見人には医療行為に同意を行う権限は付与されていないと解されています。
病院で手術等を行うときは必ず医師からその医療行為についての説明と本人の同意を求められ、本人に意思能力が無い場合には、最も適当な最近親者に対し本人に代わって同意を求めることになるとされていますが、成年後見人はこれに該当しません。
しかし実務上は成年後見人が同意を求められるケースは少なくなく、法律の整備を含め権限の明確化が求められています。

2)身上監護に含まれない行為

成年後見人の主たる業務である身上監護(被後見人が適切に生活できるように、介護や病院の手配などの「身の上」の手続きを行うこと)には、以下の行為は含まれていません。

  • 実際の介護行為(食事の世話や介護サービスなど)
  • 身元引受人の引き受け
  • 買い物、掃除、洗濯等の家事労働、庭の手入れ等
  • 外出の付き添い
  • 送迎、荷物の搬入
  • 入院時の見舞い(状況確認のための面会とは異なります)

イメージとして、成年後見人に年配の弁護士さんが就任したとして、弁護士の先生自らが掃除や洗濯、買い物など実際の身の回りの世話をするわけではないと考えたら理解しやすいでしょうか。
あくまでも本人のための契約手続き等を代行することが本来業務となります。

3)死後の事務

成年後見は本人の死亡により終了しますが、平成28年4月の「成年後見に関する民法の改正」により一部業務が「必要があるときに」行うことができるようになりました。
遺体の引き取りや葬儀等の手配、病院や施設への未払い金の支払いなどが該当します。(任意後見では「死後の事務委任契約」を結んでおき葬儀の方法や墓地の手配などを決めておくことも出来ます)
本来これらの業務は相続人が行うべきものですので、成年後見人はやむを得ない場合にのみこれらの業務を行うことが出来ます。(内容によって家庭裁判所の許可が必要になることもあります)

4.成年後見制度の終了

成年後見制度は以下の理由で終了します。

1)本人の回復

意思判断能力の回復など後見制度を利用する理由がなくなった時です

2)本人の死亡

後見は本人の死亡により終了します。

また後見人は正当な事由なく後見人をやめることは出来ません。
家庭裁判所に辞任許可の申し立てを行い許可を受ける必要があります。


成年後見制度は、制度として柔軟さには欠ける点はあるものの、意思判断能力を失った本人の生活や権利、財産を守る最後の砦となります。
後見人等は本人の代理人として法律行為を行うだけでなく、一度就任したら原則辞任は出来ないなど非常に重い権限を有することになります。
また財産管理以外にも、医療や介護の手配や本人が行ってしまった法律行為の取り消しを行いますが、これは後見制度でしか行うことができない行為となります。(取消権は法定後見制度のみ可)
法定後見の場合、家族ではなく弁護士等の専門職が後見人に就任することが多く、家族関係に第三者が介入することを嫌がる方も少なくないですが、一方で財産目録の作成や会計帳簿の作成など家族の負担を減らすことが可能になるメリットもあります。
後見制度では積極的な財産の運用等を行うことは出来ませんが、その点をクリアする民事信託(家族信託)と組み合わせることで、本人の保護と家族全体を考えた相続対策が可能になります。