生命保険の注意点

相続対策として有効な生命保険契約ですが、実務上は次のような留意点があります。
相続における生命保険の効果については理解しつつも、保険というとどうしても分かりづらいというイメージをお持ちの方が多いかもしれませんが、相続対策としての生命保険の原則を理解しておけば、専門家の助言を仰ぐにしても主体的に相談することが可能になります。

1.保険料の支払いは余裕資金で行う

そもそも相続対策とは配偶者や子供たちが相続後の手続きで苦労をすることが無いよう行うものですが、そのために自分の今の生活を犠牲にしてしまっては本末転倒です。
生命保険契約は一時払い契約(保険料を一括で支払う保険契約)を除けば、毎月一定の保険料を一定の期間(あるいは終身)支払う契約ですので、月々の固定支出となります。
保険料については見直しも可能ですが、いずれにしても保険料はあくまでも生活費を除いた余裕資金で賄える範囲にとどめておくことが大前提となります。

2.生命保険金の受取人を複数にしたい場合

生命保険金の受取人に複数の人を指定することも可能です。
また取得割合についても自由に決めることが出来ます。
但し、保険事故が発生して生命保険金が支払われる時には、原則として生命保険金は各人ごとには支払われず、誰か一人の代表口座に支払われることになることになります。
受取人同士の仲が良い場合にはよいのですが、その逆の場合には現実の分配に支障が生じ兼ねません。
また受取人が行方不明の場合などには、保険金の受取りに必要な書類(受取人全員の印鑑証明書や保険金受取請求書)が揃えられないという問題が生じます。
実務的には、一つの保険契約で複数の受取人を指定するよりは、面倒でも契約自体を複数に分けた方が問題は少なくなります。

3.受取人の範囲(2親等まで)

既にお話しをしましたが、通常、生命保険金の受取人は「配偶者」か「二親等以内の血族」を指定することになります。
それらの人がいない場合には、別の受取人を指定することも出来ますが、内縁関係や婚約者などを指定する場合には各保険会社の規定に従うことになります。
近年は家族の在り方や性の多様性等が認知されつつありますが、保険会社の対応には差がありますので、ご自身の事情にあった生命保険会社を探すことが必要となります。

4.受取人を法定相続人とする場合

生命保険契約で受取人を「法定相続人」とすることも可能です。
受取人を法定相続人に指定しておけば、死亡等により法定相続人の構成が変わってもそのたびに受取人を変更する手間を省くことができます。
この場合、保険金の取得割合は法定相続分となります。
(受取人を指定している保険契約でも、保険金の受け取り割合を法定相続分としている場合には、受取人が先に死亡したとしても保険約款で特段の定めをしていない限り、死亡した受取人の相続人が法定相続分で取得することになるので効果は同じです)

5.受取人の変更

生命保険金の受取人変更は随時可能となります。
通常は、保険金受取人の同意は不要ですが、被保険者の同意は必要になります。
但し、保険金の受取人が変更になると、税金の区分が変わる可能性がありますので、判断は慎重に行う必要があります。

<課税関係が変わらない例>
生命保険の注意点

父が保険料を支払っている保険契約で、被保険者である父の死亡により支払われる生命保険金は相続税の対象となります。
これは受取人が配偶者から子に変わったとしても変わりがありません。

<課税関係が変わるケース>

生命保険の注意点

父を被保険者として配偶者が保険料を支払っているケースでは、父の死亡により支払われる生命保険金は配偶者の財産と考えます。
配偶者が自身の財産(生命保険金)を受け取る場合には他の所得と同様所得税の対象となりますが、それを子が受け取る場合には贈与税となり課税の区分が変わります。
以下、課税区分の変更による税額計算を比較してみます。

<モデルケース>

払込保険料  :1,800万円
生命保険金額 :2,000万円

<所得税>
所得税の一時所得は以下の計算式で算出し、他の所得と合算され課税されます(総合課税)

生命保険の注意点

一時所得は、

{(2,000万円-1,800万円)-50万円} × 1/2 =75万円

となり、75万円が所得として計上されるに過ぎません。

<贈与税>
贈与税の場合には、基礎控除110万円以外の控除がありませんので、

2,000万円-110万円=1,890万円

に贈与税が課税されることになります。
直系尊属からの贈与が「1、500万円超3000万円以下」の場合の贈与税率は45%(控除265万円)となりますので、

1,890万円 × 45% -265万円 = 585.5万円

という高額な贈与税課税がなされることになってしまいます。

贈与税率(直系尊属)

6.保険金受取時の手続き

通常、以下の書類が必要になります。(詳しくは保険会社にご確認ください)

死亡診断書
被保険者の住民票(住民票除票)
受取人の戸籍抄本(謄本)
保険金受取人の印鑑証明書
死亡保険金請求書(保険会社様式)
など

保険契約の良いところはこれらの書類が揃えばすぐに生命保険金が支払われることで、当座の生活資金や葬儀費用などに充てることが可能になります。

7.相続対策に適さない生命保険の種類

生命保険に加入する目的は様々ですが、相続対策と言う観点で考えた時には保障系や貯蓄系の保険や特約は不要です。
また保険金が支払われる期間に制限がある定期保険も相続対策には利用できません。(人はいつ亡くなるか分かりませんので、満期返戻金を受け取った直後に相続が発生した場合には全く相続対策にはなりません)
大切なことは、相続発生時に相続人等に確実に保険金が支払われることであり、生命保険金の形を借りて財産を相続人等に移すことで、「遺産分割」や「納税資金」、「節税対策」を円滑に行うことにあります。
それ以外の目的を求める場合には保険以外の方法も含め別の方法を検討する必要があります。


生命保険は相続対策として非常に使い勝手がよく、あらゆる立場の相続において活用が検討できます。
但し、負担する保険料と老後の生活で必要な資金のバランスについては充分考慮する必要がありますし、相続対策として加入する保険の種類や保険料負担者と保険金受取人の構成などによっては、相続対策にならないばかりか多額の税負担を強いられるケースもありますので、実際の保険への加入については専門家の意見を聞きつつ慎重に判断をする必要があります。