不動産の種類による売り方の違い

不動産の分類は、単に土地か建物かだけでなく、色々な切り口で区分することも可能です。
例えば

・土地のみ、建物のみ、あるいは建物付きの土地か?
・所有権かそれ以外の権利か?
・単独所有か共有か?
・居住用か事業用か?
・一戸建てか区分所有か?
・自己使用か、人に貸しているか?
・売り急いでいるか否か?
など

の様な分け方です。
これは相続で取得した不動産に限ったお話しではありませんが、不動産はその性格によって販売の仕方や購入する人(買主)が変わってくるという特徴がありますので、不動産の種類という切り口で売り方の違いを見てみたいと思います。

1.物件の属性による売り方の違い

1.土地の売却

土地は有効活用をすることで価値が生まれるというのが大原則です。
土地の有効活用とは結局のところ建物が建築できかどうかということですので、建物が建築できなかったり、建物の建築に制限のある土地の価値は低くなります。
また土地には最適な用途というものがあり、例えば住宅地にある土地であればそのエリアの標準的な住宅用地くらいの広さの土地が最も売れやすいでしょうし、商業地にある土地であれば高度利用を図るためにもある程度まとまった広さが必要になります。
最適用途に対して広すぎる土地の場合、分割して売却せざるを得ないことがありますが、その様な売却の仕方は原則として売主に宅地建物取引の免許(宅建業免許)が必要となりますので、土地所有者は一旦不動産業者へ売却した上で、不動産業者が分割して売却をすることになります。

2.建物の売却

自分が所有する土地上の建物だけを売却するというケースは殆どありません。
売却後の所有権者が土地と建物で異なることになり、建物所有者が土地所有者に地代を支払えば借地権、無料で使用するのであれば使用貸借という権利関係となります。
どちらも敢えてその権利関係にするメリットはありませんので、土地・建物のうち建物だけを買いたいという人はまずいません。
例外として相続税の節税対策で、収益物件の建物だけを法人に移して所得を分散するという方法がありますが、これは専門家を交え本格的な相続税対策として行うものあり、あくまでも特殊な事例と言えます。

3.建物付き土地の売却

新築、中古を問わず土地と建物を一括で売却する方法です。
相続で取得した自宅を売却する場合などが該当します。
通常、土地建物を一体で売却する場合、売買価格は土地代と建物代で分かれますが、老朽化の進んだ建物付きの土地を、買主が解体前提で購入する場合もあり、その場合には建物の価格はゼロとして、建物に不具合があっても免責(瑕疵担保責任免責)という取り決めをしておく必要があります。

4.所有権かそれ以外の権利か

建物の売却はすべて所有権となります。
賃借権はそれだけを権利として売却することはできません。
一方、土地については地主から土地を借りる権利である借地権を売却することは可能です。
但し、借地権は地主から土地を借りる権利ですので、売却する際には地主の承諾が必要になります。(※)
実務的には、地主の承諾を得た上で地主に承諾料を支払って売却する必要があります。

※借地権には法律上地上権と賃借権の2種類の地上権が存在します。借地権が地上権の場合には、地主の承諾なく売却が可能ですが、現実的には地上権借地権は殆どありません。

5.単独所有か共有か

不動産を売却する場合、単独所有であれば自身の判断だけで売買条件を決めることが出来ますが、共有の場合には不動産全体を売却しようとすると共有者全員の合意が必要になります。
共有持ち分の大小にかかわらず、共有者の1人でも意見が合致しない場合には売却ができませんので、共有者が多くなればなるほど売却は難しくなります。
また共有持ち分だけを売却するということも可能ですが、その場合にはどうしても買主は限定されざるを得ません。
共有持ち分を売却しようとする場合、現実的には他の共有者か、共有持ち分の買い取り業者(不動産業者か不動産投資家)が買主となることが多いです。

6.居住用か事業用か

不動産の売却において、居住用か事業用かで本質的な違いはありませんが、買主の属性は変わります。
自己使用を前提とする買主が多いのは居住用の不動産(中古住宅など)で、事業用の不動産の場合は、自己使用よりも第三者への貸し付けを目的とする事業者の割合が高くなります。

7.一戸建てか区分所有か

一戸建て住宅と区分所有マンションにおいても、売却行為そのものに本質的な違いはありません。
但し、区分所有マンションは、他の区分所有者と共同で建物全体を運営しますので、管理組合があり、居室以外のスペースは共有部分となります。
またマンション全体の会計や大規模修繕等、買主が自分だけでは決めることの出来ない内容もあります。
売却に際しては、売主は自身の所有する居室だけでなく、これらの内容も正しく伝える必要があります。

8.自己使用か他人に貸し出しているか

自己使用中の不動産を売却する場合で、引き渡し後も自分が賃借人として残るというケースはあまりありません。
基本的には売主が明け渡した後に、購入者が自分で使用するか、人に貸すかのどちらかを選択します。
一方、他人に貸し出している物件を売却する場合は、その物件は賃料収入を目的とした収益物件として評価されることになります。
購入をするのは法人・個人を問わず不動産投資の専門家が中心となります。

9.売り急いでいるか否か

売主に切迫した資金需要がある場合などには、よほどの人気物件を除けば、早期に契約をまとめるためある程度弱含みの価格設定も検討する必要があります。
また買主のターゲットも、一般のエンドユーザー(個人の方)よりは取引に精通した事業者の方が手続きの確実性、迅速性に優れ、相対的にトラブルも少なくなります。
(但し、事業者の購入希望価格は一般のエンドユーザーよりも1~2割程度安くなってしまうのが一般的です)

<事業者と個人の取引の違い>

不動産の種類による売り方の違い

取り引きの確実性や迅速性を求める場合には事業者への売却を優先し、時間はかかっても高い値段で売却したい場合には個人買主への売却を優先するといった判断が必要になってきます。

2.売れない(売りづらい)不動産

世の中に完全無欠な不動産は少なく、一般的には多かれ少なかれ売却にあたりマイナスとなる要因があるものです。
不動産は価格の高い商品であるため、買主はそれらの欠点をシビアに評価しますし、最終的にそれらの欠点は価格によって調整されます。
不動産の欠点には、実際上ほとんど影響のないものから、深刻なものまで内容は様々ですが、売却しようとする不動産にそれらのマイナス面がある場合には不動産業者と協議をして売値を慎重に設定する必要があります。
例えば土地であれば以下のようなマイナス要因が考えられます。

・不整形地
形が悪い土地は実質有効面積が狭くなり、その分減価します
・広すぎる土地、狭すぎる土地
そのエリアの最適用途に合った建物が建てられるかが重要になります
・傾斜地
傾斜地は平坦にするための盛り土など余分なコストがかかります
・借地権
他人に貸している土地は、借りている人の権利が非常に強く自分のために利用す
ることが出来ず、そのままでは売却に適しません。
但し月極駐車場など他人に貸していても建物を建てることを目的としていない
土地の場合は借主の権利発生がありませんので通常の更地とほぼ同様の取り扱
いとなります
・過去の土地利用状況等に問題がある土地
土壌汚染等が予想される建物が建っていた土地や、元々水田や河川などを埋め立
てたと土地など。軟弱地盤の上に建物が建っていた場合、大きな基礎や土中に複
数の杭が残っている可能性があります
・過去に浸水等の履歴がある土地
市町村のハザードマップ等で、大雨による浸水履歴や、洪水の恐れのあると
される土地
・埋設文化財包蔵地内の土地
土地から遺跡等の考古学上の遺物が出る可能性が高いと指定されている土地。も
し建物建築中に遺物が出土すると調査を土地所有者が行うことになります。
・都市計画区域に該当している土地
都市計画による道路予定地などは将来立ち退きの可能性があります
・隣地所有者と紛争がある土地
購入後のトラブルが予想されます
・抵当権等の所有権を阻害する権利が外れない不動産
借り入れの担保になっている不動産は担保権を外すことが売却条件になるため
担保権者である金融機関との打ち合わせが必須となります。
・市街化調整区域の土地(農地など)
原則として建物が建築できないため、有効利用が出来ません。
・利用に制限のある土地
第三者の通行権が設定されている、日照に極端な制限がある、高圧線が上空を
通っているなど
・耐震基準を満たしていない建物
取壊しを予定していない限り売却にはマイナスとなります
・事故物件
心理面に影響のある事故があった建物など
・嫌悪施設等
周辺に一般に好まれない施設が存在している

不動産の売却ではこれらの要素を加味して売却価格を設定する必要があります。


不動産の売却には、不動産そのものの特徴(長所と短所)のほか、買主の属性、売却のタイミング(急いでいるか否か)など様々な要素が関係してきます。
通常は不動産会社に売却依頼をすると思いますので、必ずしも買主に専門的な知識は必要とされませんが、売却の方針や価格設定など売買契約の根幹に関係する点については、何故そのような内容になるのかを十分に説明を受けて、納得した上で売却活動を進めて行く必要があります。